ファル・ロート
今回は白騎士旅団の皆さんのお話です。
語り手は白騎士旅団団長のアインツベルンさんです。
今回は5千文字を越えていて少々長くなっております。
私たちは今、南の森を抜ける直前にいる。
しかし、目の前に見える森の出口に近づけないでいた。
後もう少しのところなのがとても歯がゆい。
そう思いながら、こちらに突撃してくる相手を手に持った盾ではじき返した。
此方は18人、3パーティの軍団で行動している。
ディフェンダーと呼ばれる盾持ちが私を含めて8人、アタッカーと呼ばれる盾無しの近接職が4人、マジシャンと呼ばれる魔法系スキルを撃つ魔法職が4人、ヒーラーと呼ばれる回復職が1人、バッファーと呼ばれる味方に有益な効果を与える補助職1人。
これらが映画3○0のラストに出てきた様な方円の陣でファランクスを形成していた。
残念な事に、ディフェンダーの持っている武器で槍持ちなのは4人だけで、私を含めて残りの4人はメイスやらロングソードやらツヴァイヘンダーを持っている。
「敵の数は残り13!」
「後方より敵の魔法攻撃来ます!ディフェンダーは防御を固めて下さい!」
「着弾まで後2秒、1秒、来ます!」
「ヒーラーは前衛の回復を急いで!」
「前方より敵5体接近!マジシャンは牽制急いで!」
「こちらマジシャン、残りMPは4割ほど!2割を切った奴も出てきた!」
「敵2体撃破!残りは11!」
「バッファーは次の支援に入れ!」
私たちに襲い掛かってきているのは野犬と燕だ。
野犬ことワイルドドッグは突撃と噛み付きが主な攻撃だ。
特に突撃は意外なほど威力が高く、さらにワイルドドッグの機動力が高いため避け難い。
燕はバトルスワローと呼ばれ、木々の間からこちらに向かって風属性の魔法攻撃をしてくる厄介な奴だ。
さらにこいつらは周りにいる仲間を呼ぶことがある。
そのせいで敵がなかなか減らず苦戦することになってしまった。
この厄介な敵と遭遇したのが大体5分前だ。
そこからいつの間にか20体を超す敵に囲まれることになった。
なんとか範囲攻撃が出来る魔法を駆使することで短時間に数を減らすことが出来たが、このままでは魔法使いのMPが切れジリ貧で此方が不利になるだろう。
「ディフェンダーはそのままワイルドドックの突撃に警戒!アタッカーは怯んだワイルドドックに攻撃!マジシャンはMPに気を配りつつバトルスワローを狙え!」
「「「了解!」」」
そのため、魔法主体の攻撃ではなく近接攻撃を主体とし、近接攻撃では倒せないバトルスワローを魔法使いに狙わせる作戦に出た。
本当は私が一人前に出て挑発系スキルを使い周りの敵のタゲを取ってその隙を仲間について貰いたいのだが、今の私のレベルと装備だと流石にこの量の敵を捌き切る事が出来ない可能性がある為にこんな安全策を取らなければならなかった。
特にフルプレートアーマーとタワーシールドが無いのが痛い。
現場はスタッデッドレザーアーマーと呼ばれる鋲付きのレザーアーマーに鉄製のスカルキャップ、ラウンドシールドという組み合わせだ。
何とも頼りない。
だが、無い物を強請ってもしょうがない。
今ある武具で最善の戦いをしなければ。
「ワイルドドック左から1匹来ます!」
「同じく右からも!」
「後方にも来ています!」
「ディフェンダーは防御を固めろ!アタッカーは攻撃準備!その他は引き続き索敵を行え!特にバトルスワローを探し出せ!」
「「「了解!」」」
ワイルドドックが、盾に当たる金属音が3度鳴り響くと、肉を断ち切る音や、鈍い打撃音が響き渡る。
私は前方で防御を固めているため見ることはできないが、メンバーは私の命令に良く従ってくれているようだ。
「左のワイルドドック撃破!」
「同じく右も撃破!」
「後方、ギリギリで逃げられました!」
「残り9体!」
ふむ、順調に数が減って何よりだ。
「左後方6時の方向、バトルスワローを発見!」
「マジシャンはバトルスワローに向けて攻撃!絶対に逃がすな!」
「「ファイアーショット!」」
「ストーンショット!」
「ライトニングショット!」
「命中は2、バトルスワロー撃破!」
「残り8!」
どうやら放った魔法は半分しか当たらなかったようだ。
まぁ、飛んでいる敵に当てるのは難しいから仕方が無いか。
その代わり体力が低いらしいがな。
さて、残る敵は8体。
ワイルドドッグが6体にバトルスワローが2体。
後もう少しでこの長ったらしい戦いも終わるな。
「む、前方よりワイルドドッグ3体!先の戦いと同じようにやるぞ!」
「了解!」
迫ってくるワイルドドッグに対し私は体の半分をラウンドシールドに隠しながらベストなタイミングを待つ。
私の両隣にいる仲間も同じように構えて待つ。
ワイルドドッグは3体ともわき目も振らずこちらに向かってきている。
そんなときだった。
「後方よりバトルスワローが2匹突撃して来ます!」
「マジシャン迎撃せよ!弾幕を張って敵を近づけるな!」
「無茶を言うな!4人しかいないんだ弾幕なんて張れるか!」
「何でもいい、とにかく撃つんだよー!」
後方でも敵がやってきたようだ。
挟み撃ちか、厄介なことだ。
だが、後方は後方でやってくれるだろう。
彼らも私と同様β版経験者だ、しかも聞いている限りでは何かしらのネタを絡ませているあたり余裕がありそうなことで何よりだ。
それならば、私たちは私たちのやるべきことをやろう。
私たちはもうすぐ敵の攻撃圏内に入るだろう。
さあ、攻撃してくるがいい。
その時が貴様らの最後だ。
「ック!左の奴が抜けたぞ!」
「左舷、弾幕薄いよ、なにやってんの!」
「いや、今は船での戦いじゃないし、ブ○イトさんはその台詞言ってなかったんじゃないか?」
「今はそんな冷静な突っ込みはいらない!」
「ヤベッ!撃ってきた!」
「お前ら無駄話してないで働け!」
「サーセン」
後方はもう気にしなくてもいい気がするな。
私たちも働くか。
ガウッ!
ちょうど良くワイルドドッグが突撃してきた。
そうだ、それをまっていたんだ!
奴の攻撃が当たる瞬間、このスキルを発動する。
「「「シールドバッシュ!!」」」
ワイルドドッグをラウンドシールドで殴りつける。
殴りつけられたワイルドドッグはその衝撃で体勢を崩す。
ダメージ自体は殆ど無いスキルだが、カウンターで決めれば確実に敵が体勢を崩すので便利なスキルだ。
「アタッカー今だ!」
「おお!」
「はぁぁあああ!」
「フッ!」
ディフェンダーが盾を上に掲げ、開いたスペースからアタッカーが飛び出し、体勢を崩したワイルドドッグを倒していく。
倒し終わるとすぐに方円の中に戻り、戻ったのを確認するとディフェンダーが盾を下ろして防御を固める。
「残り4体!」
「ぬぅをぉぉおおおおぉぉぉぉぉおおお!当たらねぇぇぇぇぇええええ!」
「取り合えず撃ちまくれ!」
「ああ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってやつか」
「相変わらず余裕あるよなマジシャン」
後方は相変わらずのようだ。
さて、残りのワイルドドックはどこにいるのだろうか。
さっさと倒して先に進みたいものだ。
「ああ、もう!おい、俺が抜けた穴を塞いでおいてくれよ!」
「おい、何するつもりだ?」
「何するって、こうするんだよ!」
ブォン!
ガーン
何か重たい風切音がしたと思ったら何かが金属に当たる音がした。
一体後ろは何をやっているのやら。
「ぬぉ!?こいつ、盾を投げてバトルスワローを落としやがった!?」
「どうだ、飛べなければ当てるのは簡単だろ?」
「いや、その方法は考えつかんだろ。ああ、そういえばお前って脳筋だったっけ」
「脳筋言うなし」
「取り合えず倒しておきますね」
「締まらねぇな、おい」
「残り3体か」
どうやら何とかなったようだ。
私の予想も付かないような方法だったが、だからこそこのゲームは多人数プレイが楽しいのだ。
今までのゲームには無いまるで現実世界のシミュレーションの様な法則が今までに無い方法を生み出す。
本当にこのゲームは面白い。
残りのワイルドドック3体も同じように<シールドバッシュ>からの攻撃で沈んでしまった。
私たちは剥ぎ取りを済ませると当初の目的通り、森を抜け草原を進んだ。
南の森を抜けた先にある名も無き草原。
このゲームでは一部の特殊な場所を除きほぼ全ての場所に名前が無い。
大体はプレイヤーの間で勝手に名称を決めるのだ。
因みにここはβで「最初の草原」と呼ばれている。
由来は簡単で、プレイヤーが最初に見つけた草原だからだそうだ。
発見したのは私では無いがな。
「さて、目的地は最初の草原の中程にある開拓地だ。ここで出現する敵はβでは3種類だった。変化や追加されている可能性もあるから留意してほしい。」
私たちは歩きながら最初の草原についての説明をする。
このゲームには進むべき方向性と言うものが多様にある。
その為この最初の草原に訪れないプレイヤーも多くいるのだ。
その為私は経験者として説明をしている。
私はメンバーが全員了承するのを見届けると話を続ける。
「1種類目はソヴァージュシュヴァルと言う馬だ。10頭程の群れで生息しており、基本的に臆病で追えば逃げて行く。しかし此方が攻撃すると群れ全体で反撃してくるから気を付けろ。基本的に相手をするときは最初に追い立てて群れから逸れた個体を狙うのが良い。所謂肉食獣のやり方と同じだな。」
また、メンバーを見渡し聞きそびれていないか確認する。
ふむ、大丈夫なようだな。
「2種類目はクレルエロンだ。こいつは大きめの鷺で初級までの風属性魔法と嘴による物理攻撃を行ってくる。だが、正直なところ厄介さではバトルスワローの方が上だ。こいつはガタイが良いせいでバトルスワローよりも遅く小回りも効かない。見つけ次第対空砲火を行えば早々攻撃をされる事もない。」
「3種類目はスレイブリザードマンだ。正直3種類目は開拓地にある村によって変わりそうだからこいつこそ当てにしないでくれ。一応説明するとだな、粗悪な武器を使う二足歩行するトカゲだ。武器は粗悪だが種類が豊富でそれなりに使いこなし、拙いながらも連携攻撃をしてくる。防御力に関しては手足と背中が若干硬く剣での攻撃は聞きづらいが、胸や腹なんかは柔らかい。そして打撃攻撃にめっぽう弱いな。」
その後も色々と説明をしておいた。
特に今回は開拓地の発見がメインであり、攻撃してくる敵以外にはむやみに攻撃しない事を説明した。
草原の中では目立ってしまうためログアウトの為の野営がやり辛いので一気に抜けてしまいたいのだ。
そういう訳だから、時々発見するソヴァージュシュヴァルの群れは無視するし、クレルエロンも此方に向かって来ていない場合は無視している。
そんな感じで目標時間より少し早く草原を移動していると、とうとう3種類目の敵と早退することになったのだ。
「まさか3種類目がスレイブリザードマンよりもかなり厄介なスレイブケンタウロス、いやここら辺の名付け方的にエスクラヴセントールと言うべきか。」
私が見つけたのは馬の体に人間の上半身が生え、手にはボロボロの槍や弓を持っている5体の生き物だった。
何せ馬の下半身を持っているのだ、突撃のスピードや自身の重量は馬と同等以上のくせに武器を使った突撃を行ってくるのだ。
それは騎兵と戦うのと大差ない。
いや、確実に人と馬が別々の生き物の通常騎兵よりも馬と人が完全に一体となっているケンタウロスのほうが様々な面で有利だろう。
そんな厄介なケンタウロスを近付けるわけにはいかない。
さらに騎兵は少数戦力に対しては天敵と呼べる兵種である。
その突撃を止めることは簡単なことでなく、対騎兵用の武器であるパイクでさえ数人で槍衾を作らなければ対処できなかったほどである。
だが、騎兵が怖いのはその突撃力であって、それさえ削いでしまえば実は意外と簡単に倒せるものなのだ。
それならばやることは一つ、突撃される前に敵の機動力を削ぐだけだ。
「マジシャンはケンタウロスの足に向かって攻撃!機動力を削げ!」
「「「了解!!」」」
「足を潰すならこれが一番楽だろ、<ファイアーボール>!」
「俺も参加するぜ<ファイアーボール>」
「じゃあ俺は<ライトニングボール>だ!」
「じゃあ俺は足止め用の壁の準備でもしておくかな」
やはり自由なマジシャンたちは思い思いに魔法を撃ち始める。
放物線を描いた球状の魔法は狙いたがわずケンタウロスたちの足元に着弾する。
着弾した魔法はその秘めたエネルギーを周りに撒き散らす。
そのエネルギーにより5体の内3体の足を負傷させたのか地に膝を着けた。
しかし、爆心地から少し離れていたらしき2体のケンタウロスが槍を構え突撃してきた。
「そいつを待っていたぜ<ストーンウォール>」
「残りのマジシャンは膝を付いたケンタウロスをやれ!」
突撃してくるケンタウロスの前に礫の壁が出現した。
一匹のケンタウロスはその壁に激突し倒れるが、もう一匹のケンタウロスはギリギリで避け、まだ突撃してくる。
それならば私の出番だな。
私は突撃してくるケンタウロスの目の前に立つ。
ケンタウロスの持つ槍は粗悪な木製だ、これならば盾で受ければあまりダメージを追うことも無く受け流せるだろう。
だが、私はそんな事はしない。
私は向かってくるケンタウロスの槍に剣を絡めてずらし、直撃を避けるとがら空きの胴にシールドバッシュを仕掛ける。
シールドバッシュはカウンター系スキルでかなりシビアなタイミングをクリアすればノーダメージで敵の体勢を崩すことが出きる。
私のシールドバッシュはケンタウロスの胴にクリーンヒットし、その動きを止め、その体を地面に引き倒す。
後はもうやることは一つだ。
倒れているケンタウロスの首に剣を突き立て、そのHPを散らす。
どうやら私が倒したケンタウロスが最後の1体だったようで、他のケンタウロスは地面に横たわっていた。
私たちは剥ぎ取りを終えるとまた目的地を目指して歩を進めるのだった。
目的地はもうすぐそこのはず。
3種類目の相手がケンタウロスだったことから、目的の場所にはケンタウロス系の村があるのだろう。
あの種族と交易が始まれば村に馬が売られるようになるだろう。
そうなれば農業系生産職のプレイヤーにとっては朗報だろうし、馬車や騎兵を育てることも出来るだろう。
そうと決まればさっさと見つけようか。
次回から新章です。




