冒険36km
次の日の朝、いつも通り朝食を食べた後すぐにログインした。
死に戻ったのは昨日の昼頃だったので、未だにデスペナルティーを負っているが、午前中には用事があるので気にしなくても良い。
さて、用事を済ませに行きますか。
向かった先は村の中心部から少し外れた所にある住宅部。
目的はNPCの狩人に獲物の見つけ方を聞くこと。
今日の午前中はこの事に集中することにする。
前回の探索では草食獣を見つけることが出来なかったからな。
今度こそ発見したいものだ。
と言うわけで適当なNPCの狩人を見繕って話しかける事にする。
お、ちょうど近くの民家から弓を持った狩人らしきNPCが出てきた。
白髪混じりの黒髪をオールバックにし、顔には少なく無い数の皺がきざみこまれているが歩く姿は堂々としており、若々しいだけで無く年相応の威厳の様な物を感じ取ることが出来る。
まさに「凄腕の狩人」と言う言葉がちょうど良いナイスミドル。
師事するならあの人にしよう。
「すいません、少し良いでしょうか?」
俺が声を掛けると、狩人らしきNPCは怪訝そうな顔で此方を見る。
まぁ、見ず知らずの人がいきなり話しかけて来たらこんな反応になるのは仕方ないな。
「何か私にようでしょうか?」
おお、見た目に違わぬ渋い声。
「実は、私に狩りのやり方をご教授して欲しいのです。」
俺の言葉に狩人は少し表情を和らげた。
「そうか、仕事を邪魔しない程度なら良いぞ。」
そう言うと、狩人は南の森の方へ歩いて行った。
ああ、南の森には鹿とか兎がいたっけ。
狩りの獲物に困らないわけか。
そう思いながら俺は狩人に続いて森の中に入って行った。
森の中に入って少し経ったが未だに獲物になりそうな動物は見当たらない。
そう簡単に見つかったら苦労は無いか。
そう思いながら歩いていると、狩人がいきなりしゃがみ込んだ。
どうやら何かを見つけたらしい。
俺もしゃがみ込み、狩人が見つけた物を見ようとする。
そこにあったのはただの腐葉土のみ。
一体なにを見つけたのか検討もつかんね。
そんな俺の表情を見た狩人は、少し枯葉等をどかした。
「足跡だ。大きさからして兎だろう。」
確かに、枯葉等が取り除かれた地面には窪みのような物があるように見えなくも無い。
よくもまあこんな微かな痕跡を歩いた状態で見つけられるもんだ。
足跡の続く方角は今まで歩いていた方角と一致する。
つまりこのまま歩いて行けば獲物にたどり着けるわけか。
狩人とともにその方角へ歩いていく。
獲物を探す中、様々な痕跡を狩人は発見していった。
糞であったり、草を食べた跡、足跡、様々な痕跡を狩人に教えてもらったことでハッキリとした痕跡ならなんとか見つけられるようになった。
「ふむ、此処らの足跡はかなり新しい物だ。近くにいるぞ。」
ほほう、足跡からそんな事までわかるのか。
今の俺だと無理だが、精進し続ければいずれ分かる様になるのだろうか?
「獲物が近いぞ、気配を。いや、お前は気配を消すのは完璧だな。」
狩人はそう言うと背中に背負った弓を取り、腰を低くしながら移動して行く。
俺はその後ろを黙ってついて行くことにする。
一応背中に背負ったクロスボウを手に持ち、矢をつがえておく。
あれだ、保険ってやつだ。
狩人と共にゆっくりと歩を進めて行くと、木の影に獲物である兎を発見することが出来た。
そして、兎を見つけた瞬間に狩人は持っていた弓を一気に限界まで弾き絞ると一瞬で射た。
矢は空気を切り裂き、兎の首を射抜き後ろの木に縫い付けた。
いやはや、やはり彼は「凄腕の狩人」だった様だ。
余談だが、兎の首を射抜いた矢は、偶然では無く狙ってやったのだそうだ。
あの後、兎と鹿を1匹ずつ狩った後狩りを終えた。
今は血抜きの終わった兎と鹿を持って村に帰っている途中だ。
驚いたことにNPCは剥ぎ取りが出来ず、倒した獲物は解体しないといけない様だった。
正直、剥ぎ取りよりも多くのアイテムが手に入りそうなので俺も解体をやって見たいのだが。
そんな事を考えているうちに狩人の家に到着した。
そして、そのまま解体作業に入る様だ。
「解体するが、これもやるか?」
狩人は此方の顔をじっと見て聞く。
やりたいのは山々なのだが、俺がやると強制的に剥ぎ取りになってしまいそうだ。
「いえ、見ているだけにします。」
狩人はそうかと呟くとまずは兎にナイフを突き立てた。
そして、肛門から首、首の周り、足の周りと切れ込みを入れるとナイフを当てながら皮を剥いでいく。
剥ぎ取った皮を置くと、今度は肉の解体に入った。
腹を切り開き内臓を取り出す。
骨に沿って肉を切り取っていく。
同じように他の獲物も解体すると、皮を日当たりの良い場所に干し、肉を持って此方を振り返った。
「飯を食って行くか?」
どうやら俺は狩人に気に入られたようである。
「そうですね。お世話になりましたし、私が作りましょうか?これでも料理の腕には多少自信があります。」
お世話になってただお呼ばれするのも具合が悪いので此方から提案してみる。
まぁ、<簡易調理>のスキルレベルが 少し低いからレベリングしたいと言う気持ちも少しだけ混ざっているが。
狩人は俺の提案に少しだけ考える様な素振りをする。
「ふむ、では任せるとしよう。」
そう言うと家の扉を開け俺を迎えてくれた。
あまり広い家では無かったが、居間には狩りの道具や熊の毛皮が飾ってあったりと狩人の生活の様子が見える。
珍しい光景にキョロキョロと辺りを観察していたら、寝室らしき部屋の方から綺麗な女の人が出てきた。
「あら、あなた。お客様がみえたの?」
なんともふわふわした雰囲気の人だ。
狩人が事情を説明するとコロコロと笑いながら了承してくれた。
狩人の奥さんに台所に案内された俺は道具や調味料の場所を聞いた後早速料理を始める。
まずは鍋に水を張りそこに野菜やにんにく等を入れ出汁が出るまでじっくり煮込む。
野菜の出汁が出たら兎の肉を入れ軽く煮込む。
兎の肉を取り出し麺棒で叩いて肉をほぐす。
後は皿に盛り付けた後ごま油をかけてメインは完成。
スープはさっき作った野菜の出汁にコンソメを入れたかったのだが、コンソメの元が無かったので、塩で味を整えるだけにした。
うん、そこまでこった物は出来なかったが、これでも十分だろう。
「はい出来ました。棒棒鶏と言う料理です。本当は鶏を使うのですが今回は兎の肉で作ってみました。」
そう言って皿を4つ並べる。
狩人には一人息子がいると説明されていたので作っておいたのだ。
「スープは野菜と肉の旨みが染み込んだ物です。お口に合えば良いのですが。」
作った料理を全て並べた時、玄関から一人の男性が入ってきた。
身長は180cm程の長身で鍛えられた肉体は日に焼けている。
なかなか健康そうな見た目である彼が狩人の息子なのだろう。
「息子さんですか?どうぞ席へ。」
息子の方は狩人と母親に視線を向けると少しだけ頷き席に座る。
さあ、昼食を始めよう。
話しながら昼食を食べた。
その中で狩人一家の名前を聞いた。
俺が勝手に狩人と呼んでいた男の名前はアルフォンス。
その妻の名はアイリ。
息子はロバートだそうだ。
この一家は代々狩人として生きて来て、俺に見せてくれた狩りの技も一族相伝の技だと言う。
そんな技を教えてもらってよかったのか聞いたが、別に秘伝でもなんでも無く、逆に広める様に祖父から言われていたそうだ。
他にもたわいの無い話や、料理のレシピの話、俺の持っていたクロスボウについての話などをしていたらついつい長話をしてしまった。
そして、アルフォンスさんとまた会う約束をし彼らの家を出た。
話に夢中になっていて気がつかなかったが、何やら新しいメッセージが届いたみたいだ。
スキル<鷹の目>の新しい能力<追跡者の目>を覚えました。
スキル<簡易調理>のレベルが上がりました。
どうやら彼との狩りは俺にとってかなり有意義な時間だった様だ。
新しい能力に関しては名前で何と無く効果が分かるのだが、取り敢えず解説を覗くことにする。
<追跡者の目>:目標の残した痕跡を発見しやすくなる。発見する確率は使用者の経験や知識によって影響される。
やっぱり、今回の狩りで学ばせてもらった事に関係があった。
これで今度こそ向こうで草食獣を見つけることが出来る筈だ。
取り敢えずもう昼の時間なので一旦ログアウトしよう。
次にログインする時にはステータスも元に戻ってるだろうしね。
ネーム〈銀狐〉Lv.9
種族 〈エルフ〉
ジョブ〈弓使い Lv.11〉〈労働者 Lv.5〉
ステータス
HP :38(78)/38(78)
MP :37(74)/37(74)
SP :23(46)/23(46)
STR:7(15)
SIZ:5(10)
DEX:15(30)
VIT:3(7)
INT:6(13)
AGI:10(20)
MND:6(13)
LUK:4(8)
LP :0
スキル
〈弓入門 Lv.15〉〈鷹の目 Lv.1〉〈木工見習いLv.19〉〈簡易調理Lv.4〉〈水属性入門Lv.8〉〈風属性入門 Lv.3〉〈発見 Lv.18〉〈隠密行動見習い Lv.10〉〈暗殺見習い Lv.9〉〈簡易マッピング Lv.2〉〈跳躍〉
武器
メイン:〈クロスボウ Mk-Ⅱ〉〈鉄のボルト×50〉〈石の矢×28〉〈黒熊の矢×1〉〈緻密な石の矢 ×12〉
サブ :〈初心者のナイフ〉〈木の銛〉
防具
頭:〈皮の帽子〉
体:〈初心者の革鎧〉
腕:〈初心者のレザーアームガード〉
手:〈鹿の騎射がけ〉
足:〈初心者のレザーグリーブ〉
靴:〈初心者の革靴〉
装飾品
無し
その他
〈初心者の鍋〉〈初心者の鑢〉〈石の斧〉 〈鉄の鋸〉 〈鉄のつるはし〉 〈鉄の鑿〉 〈鉄の斧〉 〈粗悪な松明 ×3〉




