冒険35km
「そういえば、久振りに戻ってきたら此処の建物が結構増えてるんだけど、何かあったの?」
売り忘れそうだった素材を売っぱらった俺は来る時に気になったことを聞いてみることにした。
因みに、売っぱらった時にスミスはそこまで驚くことはなかった。
何故かと言うと、攻略組の補給部隊が少ない数ながらも同じような素材を売ったからだそうだ。
でも、まだ希少だと言うことでそれなりの値段で売れたのだけど。
最初の頃とは違い、使う予定が、ほとんど無いのに懐だけ温まってる状態になりつつある。
ひもじかったのが嘘のようだ。
おっと話がズレてしまったな。
早めに戻しておこうか。
「ああ、それはですね。ケンタウロスの隠れ里と道が繋がったんですよ。」
ん?
道が繋がる事と、家が増えることになんの関係があるんだ?
さっぱり分からないのだが。
「そんなに難しいことでは無いですよ。簡単に説明しますと、道が繋がって交易が出来たからですね。」
成る程分からん。
関係性がさっぱりなんですが。
「では詳しく説明します。道が繋がると交易が生まれます。交易が生まれると物や人が相互に動きます。人が相互に動くと向こうの住人が此方に、此方の住人が向こうに定住することがあります。そういった人の為の家などを建ててるのです。」
ふ〜ん。
人が増えたから建物を急ピッチで建ててるわけか。
「そう言う訳です。さらに、移住して来る人は新しい店や畑をやるのでそこら編も充実するんですよ。例えば店なら厩をやってるケンタウロスの人がいるし、新しい畑は向こうで小麦が見つかったそうだから新しい畑は小麦畑になる予定です。特に小麦は白くてフワフワなパンが食べられると一部のプレイヤーに好評となってます。」
それは便利そうだな。
まぁ、森に住んでる俺にはあまり関係なさそうな話だけど。
特に馬なんて鬱蒼と繁った森の中だと上手く動けなさそうだ。
それに、今の俺には森の中で馬を養うようなことは出来そうに無い。
俺に関係のありそうなのは小麦ぐらいかな?
でも、見た感じだと水車や風車みたいな大型の製粉機が見当たらないし、小麦粉の生産量は少なそうだ。
しかも、まだ石臼を使っていそうな雰囲気があるから真っ白で粒の揃った小麦粉が出来ないだろうな。
どちらかと言うとパンよりもうどんの方が欲しいのだが、それはロール式の製粉機を誰かが作るまで待つことにしよう。
パスタならいけそうだけど、パスタ作りにはデュラハンだったかデュランダルだったか、とにかくそんな名前の小麦が向いてたはず、今回見つかったのは多分普通小麦とかパン小麦って呼ばれる品種だろうからこれもパスになるのか。
今のところ村の拡張は特に意味なしと言うわけだな。
今日はこんな物で良いか。
「それじゃあそろそろ俺は落ちることにするよ。」
そう言って何時もの場所に行こうとする俺をスミスが呼び止める。
「それでは2日後ぐらいに寄って下さい。それぐらいでしたら、弓も防具も店も出来てると思いますので。」
ん?
今何か重要な事をさらっと言わなかったか?
俺の表情で察したのかスミスはニヤリと笑った。
ああ、こいつはあれだな。
「お気付きになりましたか?」
やっぱりワザとあんなタイミングで打ち明けやがった。
相変わらず性格の悪いやつだ。
「当たり前だ。あんなにはっきりと口にしたんだ。気がつかない方がおかしいだろう。」
俺の言葉にスミスは微笑みながら答える。
「実はもう土地も店も買って建て始めているんですよ。今はまだ発展途上で地価も安いので今のうちですね。場所は今多くのプレイヤーが拠点としてる、中央広場から少し奥に入った場所になります。知る人ぞ知る名店みたいなのを理想としています。お客は少なくなりますが、その分時間は出来るので様々な装備の開発にも取り組めたらと考えています。」
良い感じの雰囲気になりそうだな。
「店はそれなりに大きくなる予定です。なにせメンバー全ての工房も一緒に設置する予定ですので。」
へ〜、仲間の工房も一緒にねぇ。
ん?でもそれって大きくなりすぎないか?
スミスの商品には金属器も含まれてたから最低でも高炉等の鍛治に必要な物がいるんじゃ無いか?
他にもそれなりの数がいるみたいだし。
「それって隠れた名店になるのか?完全に場所を主張するような大きさになると思うんだけど。」
村の中心とはいえまだまだ小さな村程度の大きさなのに、そんな大きな建物が他に立っているわけが無い。
地下に作るなら未だしも、地上に作るなら目立つ事この上ない気がする。
スミスは俺の言葉にスッと目をそらした。
ああ、場所の事だけしか考えてなかったのね。
「あ、アレですよ。入り口を屋根の上にだけ設置すればただの不思議な建物になるだけですよ。」
入り口を屋根の上にだけって、逆に悪目立ちしそうだな。
しかも、皆が皆気になり出すと噂が広がって変な感じに目立ちそうだ。
そんな事よりも。
「自分たちの出入りはどうするんだ?何階建てかは知らないけど、ハシゴも無いのに登るのは結構キツイと思うぞ。」
スミスの目線が少し泳ぎがちになる。
何かしらの対策を考えているようだ。
「というか、既に建て始めてるならもう遅い気もするがな。」
取り敢えず、面倒になって来たのでトドメを刺しておく。
哀れにもスミスのずさんな計画の為に研究する時間も取れない程忙しくなってしまえば良いのに。
「そ、そこら辺の対応策はまた考えて置きます。それでは完成したらVCを送りますので。」
大丈夫なのかと少し疑問を持った時だった。
運営から新しいメッセージが届いた。
「新しい開拓地として<ヒューマンの隠れ里>が発見されました。」
ほぅ、ヒューマンの隠れ里とな。
あれ?此処のことじゃ無いのか?
此処もある意味では隠れ里っぽい感じではあるけど。
「あ〜、まさかこんな早くに見つかるなんてな
〜。」
スミスの意味深な呟きが聞こえてきた。
何か不都合でもあるのだろうか?
スミスは俺が呟きを聞いたのに気がつくと、説明は要りますか?と言った表情で此方を見てきた。
なんと器用な顔だろうか。
「ヒューマンの隠れ里が見つかると何か不味いことでもあるのか?」
俺の質問に対して力強く頷くスミス。
おぅ、面倒ごとの匂いがプンプンするぞ。
「そうですね。そのことに関してはヒューマンの隠れ里の事について説明するのが一番早いのですが?」
説明しても?と言うようにスミスは肩を竦める。
事情をよく知らない俺にとっては逆に説明して欲しいぐらいなので、頷いておく。
「はい、わかりました。ヒューマンの隠れ里はですね。魔族との大戦時代、王侯貴族の避難場所になっていたところなんですよ。つまり、今回見つかったのは王侯貴族達の子孫で、しかも面倒な事に親から子へその情報がほぼ劣化無く伝わってるんですよ。理由は簡単で、ヒューマンの王国を復活させる為だそうです。」
ヒューマンの王国ねぇ。
エルフの俺は迫害されなければ良いけど。
「そしてどうも人数の多い此方側で王国を復活させようと考えたのか、隠れ里の多数を引き連れて此方に来訪するわけです。」
ある意味では隠れ里の状態で王国が復活してると考えられるし別に来なくても良いと思うんだけどな。
まぁ、運営の都合だと考えておこう。
「王国貴族達が此方に到着すると王国の建国イベントが発生します。その時貴族が出て来るのですが、こいつ等がかなり面倒な奴らで。」
成る程、確かに今まで居なかった貴族がいきなり偉ぶるなんて鬱陶しいだろうな。
でも、それだけ人が増えれば店や畑ももっと増えるし悪いことばかりでは無いのでは?
「貴族は良いんですよ。あっちから関わって来ることは少ないですから。本当にヤバいのは人口によるデメリットの方です。」
人口によるデメリット?
え〜と、人口が増えると通勤者や買い物客が増える。通勤者や買い物客増えると車が増える。車が増えると、渋滞が増える。渋滞が増えると、通勤時間等がふえる。通勤時間等が増えると、会社を首になったりやめたりする。最終的には街が黒ずんだり帰ってこない人々が増えるわけか。
そうならないような街づくりが、面倒だと。
「いえいえ、そんなE○の街経営シミュレーションゲーム見たいな問題では無いですよ。もっと酷いことです。」
何が始まるんです?
「大惨事大戦だ。まぁ、あながち間違っては無いんですけど。」
成る程、完全武装したシュワちゃんが単独で攻めて来ると。
それは確かに不味いな。
全滅しちまう。
「魔物が攻めて来るんですよ。何処かの元州知事では断じてないですからね。」
魔物ね〜。
こっちもそれなりに数はいるからなんとかなりそうだけど。
「実は、人口がある程度を超えると定期的に魔物が攻めて来るようになります。そしてそれは人口が多ければ多い程頻度が増すんです。しかも出て来る魔物が、スレイブ達よりもレベルの高い、バンデットやボスにはアベンジャーなんかが来るんですよ。」
そりゃ大変じゃ無いか!
スレイブにすら手間取っていた俺にはバンデットやアベンジャーなんて戦えるわけ無い。
こりゃ尻尾を巻いて逃げるしか無いな。
「今すぐじゃ無いのが幸運ですね。道が繋がるまで1週間程、人口が一定を越えるまで最低でも1週間以上。大体半月ぐらいまでは余裕があるはずです。対策はその間に掲示板で行われると思われます。」
掲示板ね〜。
未だに見方を知らない俺にとってはあまり関係がなさそうだな。
「何か決まったらVCを流しますね。」
「OKわかった。」
半月先に不安を残しながら俺はログアウトした。
消灯時間を過ぎてもゲームをやっていたのを看護師さんに見つかってこってり叱られたのはまた別のお話にさせて下さい。
ネーム〈銀狐〉Lv.9
種族 〈エルフ〉
ジョブ〈弓使い Lv.11〉〈労働者 Lv.5〉
ステータス
HP :38(78)/38(78)
MP :37(74)/37(74)
SP :23(46)/23(46)
STR:7(15)
SIZ:5(10)
DEX:15(30)
VIT:3(7)
INT:6(13)
AGI:10(20)
MND:6(13)
LUK:4(8)
LP :0
スキル
〈弓入門 Lv.15〉〈鷹の目 Lv.1〉〈木工見習いLv.19〉〈簡易調理Lv.3〉〈水属性入門Lv.8〉〈風属性入門 Lv.3〉〈発見 Lv.18〉〈隠密行動見習い Lv.10〉〈暗殺見習い Lv.9〉〈簡易マッピング Lv.2〉〈跳躍〉
武器
メイン:〈ツインクロスボウ Mk-Ⅱ〉〈鉄のボルト×50〉〈石の矢×28〉〈黒熊の矢×1〉〈緻密な石の矢 ×12〉
サブ :〈初心者のナイフ〉〈木の銛〉
防具
頭:〈皮の帽子〉
体:〈初心者の革鎧〉
腕:〈初心者のレザーアームガード〉
手:〈鹿の騎射がけ〉
足:〈初心者のレザーグリーブ〉
靴:〈初心者の革靴〉
装飾品
無し
その他
〈初心者の鍋〉〈初心者の鑢〉〈石の斧〉 〈鉄の鋸〉 〈鉄のつるはし〉 〈鉄の鑿〉 〈鉄の斧〉 〈粗悪な松明 ×3〉




