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04

「なにかあったのかい?」

「電話じゃ詳しいことはわからねえが、どうやら食中毒のようだな。うちの……、いや、サンライズ城北店の営業連中だ。おまえ、PJで来てるのか?」

 十年選手のサンライズ自動車製PJマウンテニアが僕の愛車だ。ガソリン価格が高値安定のその現代、ハイブリッド車への乗り換えを検討したこともあるが、どうにも踏ん切りがつかずこのポンコツに乗り続けていた。

「うん」

「貸せっ! いや、途中で電話がはいるかもしれん。おまえが運転しろ。鵜飼グランドホテル前の河川敷だ」

「家が空っぽになっちゃうぜ」

 ショルダーバッグを引っ掴んで駆け出していく父の背中に声を掛ける。

「盗られて困るもんなんかねえよ。早くしろっ!」

 サンダルだった僕は母屋に戻って靴に履き替え、父の後を追った。

 車中で僕が訊ねる。

「河川敷ってことはバーベキューでもやってたのかな?」

「今日は七月の第二月曜だから……。そうだな、営業マン親睦のバーベキュー大会の日だ」

「ヒロミちゃんってのは誰?」

「事務員さんだよ。おまえも一度は見てるはずだぞ」

 父は携帯の画面から眼を離さずに答える。そのヒロミちゃんからもソフィーからも連絡はきてない。

「ああ……」

 三年ほど前、父の職場を訪ねた時、愛嬌のある女性にお茶を出してもらったことを思い出した。

「そのひとは大丈夫だったんだ?」

「家を出てから忘れ物に気づいて取りに戻ったのが幸いしたみたいだな。食い物には手を付けてねえそうだ」

「へーえ」

 全員が揃うのを待てないような連中なら、よく火の通ってないバーベキューにがっつくのも頷ける。父はスマートフォンでなにかを検索しているようだった。老眼が始まっていたのか画面を近づけたり遠ざけたりしながら見づらそうにしている。

「食中毒警報が出てたみたいだな。O―157とかじゃなきゃいいが――」

 市のホームページにアクセスしていたみたいだ。

「おっと、そこを右だ」

「あいよ」

 僕がこの街に住んでいた頃にはなかった道路ができていた。件の鵜飼グランドホテルが目と鼻の先に見えてきていた。


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