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第7話 少なくとも子供には見せられない依頼

今回ちょっと下はいります。

苦手な方はご注意を。

 あの一件のことをみんなに説明し事無きを得た俺は、次の日以降も町に行っては依頼をこなして金を稼ぐ日々が続いていた。

 倉庫の整理や掃除の手伝いなどの肉体労働から書類作成の補助などの頭脳労働まで意外となんでもこなせる俺、一人で生活している内に鍛えられてきたスキルが遺憾なく発揮されているのだ。


 後は誰も受けていないような依頼、例えば独りきりになって寂しいおばあちゃんの話し相手になるなんてのも受けたりした。

 報酬としてもらったおばあちゃんお手製の漬物は家のみんなにも大変好評で、もう一度その依頼を受けてきて欲しいなんて言われたりもしたくらいだ。


 ちなみに依頼中は基本的にはみんなの力は借りず自力でやっている。

 どうしても困難な時やもともと手助けが必要という場合は別だが、そういったものはなるべく受けないようにしている。

 楽に達成できるのは確かだが、それだと自分は成長しないからな。




 そんな毎日を送る中、今日も今日とて町にでかけようとすると朝も早くから来客。

 ここに訪れる数少ない人物で俺の幼馴染、サリサである。


 「よっ、ルース」


 「サリサか、今日はずいぶん早いじゃないか」


 とりあえず半分家から出ていた体を戻し、彼女を家に招く。

 勝手知ったると言わんばかりに椅子に座るサリサに、お茶と例の漬物をふるまう。

 お茶をずずっと一口すすった後、漬物を口にすると目を見開き、夢中になって食べ始める。

 用意した分をぺろっと平らげると再びお茶を一口、至福の表情でほぅ…とため息をつく。


 「…それで、何をしに来たんだ?」


 「へ? あ、えーっと…」


 ちょ、ちょっと待ってくれと必死に思い出そうとしているサリサ。

 どうやら漬物の美味さに目的を忘れてしまったらしい。

 しばらくうんうん唸っていたが、思い出したのか手をぽんと叩く。


 「そうだ! ルースに依頼をしに来たんだ!」


 そう言って一枚の紙を懐から取り出す。

 自警団の依頼掲示板に使われている用紙と同じものだ。

 サリサから受け取り内容を見てみる。



 最近端と端のどちらにも頭のある蛇が互いの頭を噛んでリング型になり、ゴロゴロ転がって農地を荒らしています。

 被害が大きくなってしまう前に何とかしてください! 農家代表村人A



 いや、村人Aって。

 とりあえず用紙をサリサに返す。

 ふむ、頭が二つある蛇ということはアンフィスバエナだよな。

 でもあいつら住処から移動することは滅多に無いはずなんだが…。


 「オレたちが討伐してもいいんだけど、まずはルースに見せてみたらどうだって団長がさ」


 ダインさんがか、あの人もやっぱり何か理由があると考えてるんだろうな。

 割と無骨な奴が多い自警団の中では聡明な人だよな、そうじゃなきゃ団長は務まらないか。


 「もちろんルースが解決すれば報酬はお前のもんだし、どうだ?」


 「まぁ、最初から依頼は受けるつもりだったし、いいぜ」


 となれば善は急げだ、支度は終わってるしさっさと向かうとするか。






 「おおー、確かに回ってるな」


 「本当ですね、目は回らないのでしょうか?」


 「なんでお前がいるんだよ!」


 「のんきなことを言っている場合ではないですよ、主」


 現場の農地にやってきた俺。

 何故かいつの間にか加わっていたフォルナ。

 団長に手助けするよう言われていたらしいサリサ。

 俺が奴らとの通訳用に連れてきたデュラさん。


 四人が思い思いのことをしている間にも十数体のアンフィスバエナはゴロゴロと転がっている。

 これじゃ話を聞く以前の問題だな、まずは動きを止めるか。

 俺は足をトントンと二回踏むと


 「出てきてくれ、サイレン!」


 飛び出してきたのは人の顔を持つ鳥。

 サイレンは言葉こそ話せないものの、その鳴き声には様々な効果があり、今回は体の動きを封じてもらおうというわけだ。


 「というわけでよろしく!」


 俺が声をかけると空高く飛び上がり、アンフィスバエナ全員に聞こえる位置まで近づくと次の瞬間



 コケコッコー!!



 と叫んだ。

 これにはアンフィスバエナどころか俺たちまでずっこけた。

 動きはたしかに止まったけどなんか釈然としないぞ!

 そんな俺たちとは対照的に満足気な表情のサイレン。

 戻ってきたサイレンを影に戻すと、デュラさんに声をかける。


 「それじゃ通訳よろしく」


 「了解です」


 アンフィスバエナの近くに行き何やら話し始めたデュラさん。

 これは人間には全くわからない言語で、今でも学者たちが必死に解読しようとしてるんだとか。

 話を終えたデュラさんがこちらに戻ってきた。


 「主、要約するとこのような感じです」


 アンフィスバエナたちは住処である水辺でのんびりしていたそうだ。

 しかしある日突然どこからやってきたのか大勢の馬が集まってきた。

 急に騒々しくなってしまった水辺にいることができなくなり、仕方なく移動を開始。

 途中たまたま立ち寄ったこの農地の上を転がると、作物の上に跡をつけるのが楽しくなり、やめられなくなってしまったと。


 とりあえずこいつらには様子を見てくるから転がるのはやめろと言っておくことにして、それにしても水辺に多数の馬…? ハッ!?


 「デュラさん! これってもしかして!」


 俺はデュラさんに耳打ちする。

 すると次第に彼女の顔は苦々しいものに変わっていく。


 「なるほど… その可能性は高いですね…」


 デュラさんの言葉を受け、俺は真面目な顔で話についていけていない二人に告げる。


 「ここからは、俺とデュラさんだけで行く」


 「そうですね、あなた方は来ないほうがいい」


 俺とデュラさんそう言われ、片方は疑問、片方は不満を露わにする。


 「なぜです? 私たちが来てはいけない理由があるのですか?」


 「ああ、理由は言えないが来ないほうがいい」


 「なんでだよ! オレたちだと足手まといだって言うのかよ!」


 「ええ、今回に限ってはそうとしか言い用がありません」


 ちゃんと後で説明するから、だから先に帰っていてくれ。

 そう彼女たちに言うと、俺とデュラさんは背を向け歩き出す。

 残されたサリサとフォルナは納得の行かない顔をしていたが、顔を見合わせると来た道を戻っていった。






 「やっぱりこいつか…」


 「ええ、想像していたとおりでしたね…」


 俺とデュラさんは頭を抱えていた。

 水辺にいるのは大量の馬、しかもその全てが雌馬である。

 そしてその中でひたすら腰を振り続けている一頭の雄馬、その名をヒッポカンパスと言う。

 上半身は馬、下半身は魚の体をしている水棲馬である。

 こいつ普段は水の中で暮らしているのだが、時おり地上にやってきてはこうして雌馬と交わり子を残していくのである。

 その子は名馬になることが多く、我が家にいるケルピーも何を隠そうこいつの子だ。

 なんで下半身が魚なのに出来るかは生命の神秘としか言い用がない。

 普通は多くても二、三回なのだが、こいつは精力が絶大で、一度に行う交尾の回数が半端じゃない。

 前にも一度海辺で出会ったことがあるのだが、その時の雌馬の数には正直引いた。


 今も一心不乱に腰を振り続けるヒッポカンパス、次々崩れ行く雌馬たち。

 こんなものをあいつらに見せる訳にはいかないし、説明もできないに決まっている。

 デュラさん? デュラさんは前あった時にも一緒にいたし、何より彼女は年が…「主?」ゲフンゲフン!

 彼女はもう大人だからな、ある程度の耐性はあるさ。


 とりあえず真実はわかった。

 特に害があるわけではないし、残りの雌馬の数から見てもそんなに長いことはかからないだろう。

 俺たちはアンフィスバエナにも事情を説明し待ってもらうことにし、農家の人にも心配ない事を伝えると依頼完了!

 報酬にと新鮮な野菜をたくさんもらって家へと帰るのだった。



 帰宅後、サリサとフォルナに事情を説明しようとしたのだが、二人とも顔を真赤にしてすごい勢いで拒否された。

 デュラさんはそんな彼女たちの様子を見てため息をついていた。

 よくわからないがまあいいか、明日はもらった野菜でおばあちゃんに漬物でもつけてもらうとでもしよう。

 野菜のはいった袋を整理しながら、俺は考えるのであった。

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