第5話 サボりはいけません
今日は食料集めの日。
普段は俺が町の市場から買ってきたものを中心にみんなへの食事を与えているのだが、最近いい加減金に余裕がなくなってきたので仕事をしなくてはいけない。
なので少しの間家を空けても大丈夫なように備蓄を作っておくというわけだ。
草原にぽつんと立てられた我家の前には食料収集部隊が集結している。
「というわけで役割分担だ、まずデュラさんはワンコと一緒に狩り担当」
「了解しました」
「ワン!」
ワンコは犬型なだけあって狩りが得意なのだが、時たま本能が出てしまうのかその場で食い荒らしてしまうことがる。
そこでストッパーとしてデュラさんを起用する。
彼女なら本能とかは関係ないし、馬に乗っているためワンコのスピードにもついて行けるしな。
もちろん腕も確かで、投げた槍は確実に獲物を仕留める。
一番大事な肉は手堅い編成で行くことにし、次は魚か…
「魚捕りは王様に任せていいか?」
「任せるニャ! パワーアップしたボクの力を見せるニャ!」
エイエイオー! と気合充分な王様、その足にはピカピカの長靴を履いている。
これはこの前サリサと一緒におみやげとして買ってきたもので、元はといえばサリサが昔絵本でそんな話を読んだことがあると言ったのが始まりだ。
最初は履くのを渋っていた王様だったが、王の履物だと説明すると嬉々として受け取ってくれた。
それ以来ずっとこんな調子である。
「あ、でも助手としてあの馬をつけて欲しいニャ」
そう言って王様は湖を眺めている一頭の馬を指さす。
見た目は美しい毛並みの馬だが、ケルピーという種族の水棲馬で、陸でも水上でも水中でも踏破可能という万能馬だ。
まあケルピーは水中に行けても乗り手が水陸に対応してないと宝の持ち腐れなんだが。
ケルピーに聞いてみると構わないとの事だったので、魚は猫と馬という異色の組み合わせでやってもらうことになった。
最後は森で果実集めか、順番と残り数でいうと俺の番なんだけど、誰と行こうかなー?
「それなら私がついていきますね」
声のした方へと振り返ると、いつの間にいたのかフォルナがにこーと微笑んでいた。
確かに木の精霊である彼女なら森にも詳しいし問題ないか。
「それじゃあよろしく頼むな、フォルナ」
「はい、お任せ下さい」
笑顔を崩さぬまま言う彼女、今日は随分と上機嫌だな、いい事でもあったのか?
機嫌が悪いよりはいいかななどとのんきなことを考えつつ、大きめのかごを持って森の中へ進んでいく俺たちだった。
「それは食べても大丈夫なものです、あ、そちらは毒があるのでお気をつけ下さい」
森の中へ入ってしばらく、俺とフォルナは食べられそうな果実を探してうろうろしていた。
危険なものは彼女からの注意が入るので集めるのは楽ちんだ、辞典いらずで助かる。
時おりフォルナおすすめの果物をかじりつつ楽しく談笑しながら果実集めをしている。
ある程度集まった所で休憩しようかと持ちかける、すると。
「それならば、あちらへ行きませんか?」
フォルナは森の奥を指し示す、そういえばあの場所は…
彼女に手を引かれ、森の奥へと進んでいく。
少し歩いてたどり着いた場所、そこには大きな木に囲まれるような形で、小さな木が一本だけ生えているとても不思議な場所。
俺はその小さな木に近づくと、自分の身長と合わせるように屈んだ。
「おお、しばらく来てない間に随分と育ったじゃないか」
「ええ、一度は枯れかけたこの木ですが、今ではすくすくと成長していますよ」
実はこの木こそが俺とフォルナの出会い。
枯れそうになったこの小さな木を助けたことが縁で今こうして仲良しでいられる。
「そう、言うなればこれは二人の愛の結晶です」
「だから顔を赤くするほど恥ずかしいならそういうからかいは寄せ、というか人の心を読むな」
からかってるわけじゃないのに… とかぼそぼそ言ってるフォルナはほっといて、そろそろ戻ろうかと大きく伸びをした後振り返り歩き出そう…
としたのだがなぜだろう体が動かない、足元を見てみると木の根が足に絡み付いており身動きが取れない。
無理矢理に歩こうとしても全く動かず、逆につんのめって倒れてしまった、顔を上げると目の前には何やら鼻息を荒くしたフォルナ。
「…ルースさんが、悪いんですからね…!」
「フォ、フォルナ?」
「こここうなったら実力行使です! ととと殿方を喜ばせる方法くらい私にだってわかります!」
どもりすぎだ。
そしてそのセリフに不穏なものを感じる、それってまさか…
待て! いくらなんでもそれはまずい! なんかこう、見えない力が働きそうな気がする!
わけのわからないツッコミを心の中でする間にも近づいてくるフォルナ。
やがて俺に覆いかぶさるように体の上にやってくる、俺は目を閉じた、もうダメだ!
「…って、あれ?」
「ど、どうですかルースさん」
俺は今仰向けに寝転がっている、空にむかっている目線の先には… フォルナ。
つまり、膝枕されている状態だ。
「殿方はこうされると喜ぶとネコさんから聞いたのですが…」
どうやら情報の発信源は王様らしい、完全に猫目線の話じゃないか。
もっと過激な内容を想像していた俺は一気に力が抜けてしまった。
「ル、ルースさん、どうですか? 気持ちいいですか?」
覗き込むように俺に様子を聞いてくるフォルナ。
「あ、あぁ、気持ちはいいよ、でも…」
「でも?」
「やっぱり感触が… どうも気恥ずかしい」
頭には彼女の柔らかい太ももが当たっている。
どうしても意識してしまうのは男としての性なのだ。
「そうですか、でも私を感じてくれていているのなら嬉しいです」
いつもとは違う包容力にあふれた微笑。
俺はそれをなぜか直視することができず、眠くなったと嘘をついて慌てて顔をそらす、きっと今耳まで真っ赤だ。
それをわかってかどうかなのか、フォルナは俺の髪を梳くように頭を撫でてくる。
普段とは逆の撫でられる心地よさ、そして彼女の近くにいるからであろういつもより濃い森の香りに、次第に俺は本当の眠りへと落ちていった。
その後あたりが暗くなるまで眠りこけてしまった俺は急いで家へと帰ったが、心配させるなとデュラさんには怒られるわ遊びに来ていたサリサにフォルナと何をしていたか問い詰められるわで散々な目にあった。
まあフォルナは終始楽しそうだったのでよしとするか…