第4話 力が使えない=弱い、なんてことは無い
タイクさんの家を後にした俺は今自警団の使用している訓練所へと向かっていた。
自警団の本部の建物に隣接している訓練所は、タイクさん指導のもとに製作されたため、規模はともかくなかなか設備が整っている。
走りこみやフォーメーションの練習を行うひらけた場所や、効率よいトレーニングが出来るよう器具なんかも用意されていて、そんな中を兵士たちが思い思いの方法で汗を流していた。
「さて、サリサはどこかなっと…」
ぐるりとあたりを見回して幼馴染の姿を探す。
走りこんだ後なのか木陰でぐったりしているもの、一対一での模擬戦を行なっているものなど様々だが、少し奥まった所で人型の的に向かって模造刀で打ち込みをしている彼女を見つけることができた。
集中しているのだろう、真剣な表情で模造刀を振るうサリサ、時折飛び散る汗が陽の光を反射して光っている、顔には俺が昨日貼った絆創膏がまだついたままだ。
邪魔をしては悪いのでしばらく待つことにし、一息ついた所で声をかける。
「お疲れ、相変わらずきれいな動きだな」
「ん? る、ルース!? なんでここに!?」
汗をぬぐっていたサリサだったが、俺に気づくと先ほどまでの真剣さが嘘のように慌て始めてしまった。
わたわたしている彼女に落ち着くよう促し、話があると持ちかける。
まだ少し動揺しているみたいだが、何とか話を聞いてくれる状態にはなった。
「他でもない昨日のことなんだけど…」
「う、うん…」
「俺に配慮が足りなかった! いくら幼馴染とはいえ女の子の頬に気軽に触れるなんてさ…」
だからごめん! と謝る。
他の人には謝らなくてもいいとは言われたけど、サリサ自身はそう思ってないかもしれないし、何より俺自身が悪いことをしたと思っているんだから。
「べ、別に謝る必要はねえって! オレも嫌だったわけじゃないし…」
「そ、そっか… ならいいんだけど…」
とは言え思い出すと恥ずかしいことではあったんだろう、サリサの顔が赤くなっている。
俺もなんと言っていいかわからずなんともいえない沈黙の空間が出来上がる。
この気まずい空気を打破する方法はなにか無いか、なにか… そうだ!
「そ、そういえばさ、今回デュラさん呼んだんだ! だからまた訓練がてらうちに来いよ!」
「え? あ、ああ! デュラさんか! またあの人に稽古つけてもらうか!」
そこからは他愛のない話に花が咲いた。
他にも王様やワンコも呼び出したから今回は賑やかだーとか、さっきタイクさんとジェニカさんにも会ってきたなど、すっかり先ほどまでの気まずい空気はなくなっていた。
ありがとうデュラさん! さっきはくしゃみでもすればいいとか思ってごめんなさい!
そうしてしばらくは話し込んでいたのだが、ふと思い出したことがありサリサに声をかける。
「そうだ、サリサ」
「お、どうした?」
「みんなにおみやげ買っていこうと思うんだけど、良かったら一緒に選びに行かないか?」
もともと今日は非番だったろ? と誘いをかけてみる。
こういうのは一人より二人のほうが楽しいに決まってるからな。
「そ、それってもしかしてデ、デー…」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもないっ! い、行こうぜ! オレが最高のおみやげを選んでやる!」
妙に気合の入ったサリサだったが、「準備してくる!」というとものすごい速さで駆けて行ってしまった。
取り残されてしまった俺、あいつが戻ってくるまでここで待ってるしかないかと近くにあった椅子に座ろう…としたのだが。
「ルース、話があるからこちらに来て欲しい」
自警団の一人に呼び止められ、とりあえずすることも無いのでついていくことにした。
「ここだ」
案内された部屋の扉を開ける、と同時に後ろに立っていた男に背中を押され、部屋の中に突き飛ばされてしまう。
そこそこ広いであろうこの部屋は、明かりもなく窓にもカーテンが掛かっており完全なる暗闇、一緒に入ってきた後ろの男はドアを閉めると鍵をかけ、密室が完成した。
「ふっふっふ、待っていたぞルース」
「またお前らか…」
暗闇の中には気配から察するに10人ほどの男たちが待ち構えていた。
それぞれに異様な気を振りまいており、正直気味が悪い。
「この暗闇の中ではお前の能力が使えないことは証明済み! 今日こそお前の最期の日だ!」
たしかに俺の能力は影が出ない暗闇の中では使えない、しかし…
「お前ら前回もそんな事言った割には結局自分らも見えなくて同士討ちで全滅したじゃないか」
そう、少しでも明かりがあれば影というのは必ずできる、完全な暗闇で戦わなければいけないというのは向こうも条件は同じ。
むしろ人数が多い分不利なのは向こうだ。
「ぐっ…! 我らは敗北から学ぶ、それを実践しただけだ!」
「ほー、じゃあ今回はどうするんだ?」
「ふっふっふ、我らはずっとこの部屋で目をつぶって待機していた、つまり暗闇には目が慣れているのだ!」
そう言うとカッ!と同時に目を開く、ような仕草をした後一斉に襲いかかってくる自警団たち。
「我らのサリサさんに気安く近づきやがってえええ!」
一人が意味のわからないことを絶叫しながら殴りかかってくる。
俺はそれをかかんで避けると、後ろに待機していた鍵を閉めた奴の顔面にクリーンヒットする。
殴られたそいつは「ぶげっ…」と不細工な声を出して吹っ飛び気絶した。
「同士A! 同士A!」
「バカな! なぜあいつはこちらの動きが見えているんだ!」
奴らがうろたえている間に素早く殴りかかってきた奴の背後に周り、無防備な背中に蹴りをぶち込む。
まともに食らったそいつは前方に吹き飛び、自らが殴り飛ばした相手の上に重なるように気絶した。
「お前らに3つ言っておこう」
鍵を閉めた奴の懐から鍵を取り出しポケットにしまい込む。
「1つ目、お前らくらいなら見えなくても気配でわかる」
固まっている自警団の奴らに振り返る。
「2つ目、サリサは俺の幼馴染だ、近づこうが何かを言われる筋合いはない」
ゴキゴキと指を鳴らす。
「3つ目、お前らが売ってきたケンカだ、文句はないよな?」
にっこり笑うと構えをとる。
目の前にいる奴らから見て取れるのは明らかな動揺。
「ひ、怯むな! 人数ではこちらが勝っている、一気に押しきれ!」
「なんかもう負ける奴のセリフだよなそれって… まぁいい、行くぞ!」
……以下映像が乱れているため音声のみでお届けします
…ひ、ひぃ! 強すぎる!
…バカな! 訓練を積んだ俺たちが…ぎゃあ!
…同士D! 大丈夫か!?
…自分、ここから戻ったらサリサさんに…
…それ以上言うな! 本当に帰ってこれなくなるぞ!
…くっ、これが幼馴染持ちの力か…! 俺にも幼馴染さえいれば…!
…チキショウ! こうなったらヤケだ! やってやらあ!
…ぐはっ! 俺を殴るんじゃねぇ!
…仕方ねえだろ! 結局見えねんだから!
…もうダメだ! 俺は逃げるぜ!
…どうやってだよ! 鍵はあいつが持ってるんだぞ!
…そうだったっ… くそ、くそぉおおおお!
メコッ!
「待たせたな! ルース!」
「いや、いい暇つぶしもできたし気にしなくてもいいさ」
「そうなのか? じゃあ行こうぜ!」
「そうだな、それにしてもサリサ、今日はいつもと格好が違うんだな」
「え!? あ…やっぱりオレだと変…かな…?」
「そんなことないって、可愛いと思うぞ」
「そ、そうか!? 可愛いって…えへへ…」
「ほら、ぼーっとしてないで行くぞー」
「あ! 待ってくれよ!」
その日俺とサリサはみんなへのおみやげを選びながら町を散策した。
余談だが、翌日自警団の一部の人間が「幼馴染を探す」と言って休暇をとったらしい。
…探して見つかるものなのか?
実は強い主人公。
デュラさんをはじめ色んな人(?)に鍛えられています。
能力についてはだいたい想像通りだとは思いますが説明はまたの機会に。