第1話 基本主人公は鈍感
「ふぃー、楽しかったー」
日中動物たちとかけっこしたり空中散歩したり遊び通したあと、日も暮れてきたのでみんなに別れを告げ家へと帰ってきた。
明日は動物たちの入れ替えの日だから例によって無言の説得を受けたがなんとか振り切ってきた。
家へとつくと明かりがついている、普通だったら怪しむところだが誰がいるか大体予想がついている俺は構わずドアを開ける。
「お帰りなさいあなた、ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
「…ただいまー」
見なかったことにして通りすぎようとする。
するとすれ違いざまに腕を掴まれた。
「もう! 無視しないでください!」
わざわざ俺を待ち伏せしてまでこんなことをしていたのはドリアードと呼ばれる木の精霊である。
深い緑色の髪を腰の辺りまで伸ばし、木の色とは似つかわしくない白い肌に純白のワンピース、間違いなく美人である。
以前ちょっとしたことがあり助けたことがあったのだが、それ以来何かと我が家を訪れるようになっていた。
来るたびに俺をからかいにくるのが玉にキズだが。
「それで、フォルナ、今日は冗談を言いに来ただけなのか?」
「冗談ではないのですけど」
「それはもういいから、というか顔真っ赤にするぐらい恥ずかしいならやらなきゃよかったんだよ」
「だから冗談では…! はぁ、もういいです… 森でおいしそうな果実を見つけたのでお届けに参りました」
むくれた顔のフォルナが指差す先には木で編まれた籠に入った赤い色の果物。
ちなみにフォルナというのは俺がつけた名前だ。
ドリアードはあくまで種としての名前なんだそうだ。
なので良かったら名前をつけて欲しいと頼まれ、フォルナという名前で呼ぶことにしたのである。
俺はいまだに頬をふくらませている彼女の頭に手を置き、撫で始める。
「いつもありがとな、助かってるよ」
「ふぇ!? あ…うぅ…」
動物たちにもやってるせいか撫でるのはもう癖みたいなもんだ。
フォルナはさっきよりも顔を赤くしてうつむいてしまった。
嫌がってたら払いのけられるはずだからとりあえずは大丈夫なんだろう。
しばらくそのままでいたのだが、そこで急に家のドアが開かれる。
「よっ、今日も来たぜルー…ス…?」
「いらっしゃいサリサ」
な、なにしてんだ! と家に来るなり大声を上げたのは俺の幼馴染であるサリサ、混じりっけなしの人間である。
紫の髪の毛に凹凸のしっかりした体つき、凛々しく整った顔、フォルナと同様美人である。
俺が昼買い物に行っていた町の自警団に所属していて、その腕前はかなりのものである。
ただ男だらけの自警団にいるせいか口調がいつの間にか男らしくなってしまったが。
彼女はこの自然だらけの家も町の一部と考えてくれてよく見回りに来てくれる、非常にできた幼馴染である。
少しの硬直のあと、我を取り戻すのと同時にすごい速さで俺の前にいたフォルナをかっさらい部屋の隅に行った。
(なにするんですか!)
(それはこっちのセリフだ! てめぇオレのルースとなにしてたんだよ!)
(なにって… 愛の営みですけど?)
(嘘つけ! 顔真っ赤にしてうつむいてるだけだったじゃねぇか!)
(うっ… と、というかそっちこそなんですかオレのって、毎日のように彼の家に来るだけでひとつも行動を起こしてないくせに)
(ぐっ! きょ、今日こそはって思ってたんだよ!)
(へー… じゃあ今やってくださいよ)
(なぁっ!?)
(あ、できないんですか? なら私がルースさんと…)
(待て! オレがいく!)
何やらコソコソと話をしていた二人だったが、サリサがこちらにやってくると、何かを決意したような目でこちらを見つめてくる。
心なしか目が潤んでおり、頬も赤くなっているような… って頬?
「あのさルース! オレお前に伝えたいことが…」
「ちょっと待てサリサ! お前血が出てるじゃないか!」
「あるんだ…ってうひゃあ!」
訓練か何かで傷ついたのだろうか、少し血が出ている頬を持っていたハンカチで拭ってやる。
急なことに驚いたサリサは固まってしまっている。
懐から傷薬、もちろん人間用のものを取り出すと傷口に塗り、絆創膏を貼って完了と。
「お前も女の子なんだから顔の傷は気をつけないとな」
「あ、え…? ほほ、ほひゃあああ!」
自分の頬に少し触れたあと、いきなり奇声を発しながら走り去っていってしまった。
しまった、ついいつもの癖で頭を撫でてしまったのがいけなかったか?
怒らせてしまったかもしれない、今度謝りに行かないと。
「それでフォルナ、お前はこれからどうするんだ?」
「ぷ、ぷふっ… ほひゃあって…」
しばらく悶絶していたフォルナだったが、ようやく落ち着いたのか深呼吸をすると帰っていった。
帰り際に「作戦の練り直しですね…」とか言っていた気がする。
ようやく静かになった我が家で食事をし、風呂に入り寝床につく。
明日はまた忙しくなりそうだと思いながら目を閉じる。
そうしていつもの一日は終わりを告げる。