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I'm  作者: 城ノ内 ジョウ
第一章
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第二十一話

 昼休み。亜子が昼食の準備をしていると、絵里と歩美がやってきた。いつもどおり机を囲んでお弁当を食べるのかと思ったら、

「ねえ、今日は斉藤誘って食べようと思うんだけど、どうかな?」

「え?何で?」

 特別その必要性を感じていなかった亜子は、当然のように疑問を呈してしまった。すると、

「何で、って、別にそこまでちゃんとした理由はないんだけど、」

「一応親睦会ってことでいいんじゃないかな」

 二人が交互に喋る。なるほど、一切思いつかなかった。

「あ、そう」

 思いつかなったため、妙に薄いリアクションをとってしまった。自分でも思った。これはよくなかったかな。すると、二人とも黙り込んで顔を見合わせた。

「な、何かな?」

 怒られるのではないか、と内心びくびくしながら問いかけると、

「亜子ってさ、」

「うん?」

「斉藤に興味ないよね」

 意外な方向に話が飛んだ。

「え、そうかな?」

「うん。だって斉藤はいわゆる仲間になったわけでしょ。一応仲良くしていかなきゃいけない関係になったのに、普段全く話しかけないよね」

 言われてみればそうだ。亜子は用事がない限り、隼人に話しかけたりしない。そして、隼人に話しかけるような用事がない。つまり、話しかけないのだ。

「一応君たちがこのファンクラブの中心なんだよ。無理やり仲良くしろ、とは言わないけど、嫌じゃないなら仲良くしようよ」

 正直意識してなかった。言われて初めて気づいた。

「あー、善処するよ」

 その言葉があまりに信じられなかったのか、

「おいおい善処してもらうとして、今回はあたしたちが機会を提供するよ」

「はぁ。ありがとう」

 と言っていいのか分からないが、とりあえず礼を言ってみた。用事があれば話しかけるといってしまった以上、用事を作られては話すしかない。別に嫌ではないが、気が乗らない。

「亜子ちゃん」

「うん?」

「一応確認するんだけど、亜子ちゃんって斉藤君のこと嫌いなの?」

「いや、別に嫌いじゃないよ」

「じゃあ苦手?」

「苦手でもない」

 と思っている。あの妙に腰の低い感じはあまり好きではないが、そこで好き嫌いを判断するほどではない。それにしても好き嫌いを判断するほど、隼人のことを知らないのだ。

「そっか。ならよかった。何かあまり話しかけているの見たことなかったから、ちょっと不安だったんだよね」

 不安というのは、亜子と隼人の距離感のことだろう。亜子があまりに隼人を意識していないために、亜子が無理しているのでは、と思わせてしまっていたようだ。

「そうなんだ」

 あまりに意外なところを突かれて、正直驚いている。周りからそう思われているのは、あまりいいことではない。そう言われると、気になる。今更ではあるが、隼人自身はどう思っているのだろうか。嫌われている、と感じていたら、さすがに申し訳ない。

「亜子って、やっぱちょっと変わっているよね」

「変わっているって、どこが?」

「一応確認するけど、斉藤と笹原どっちが話しかけやすい?」

 言われて、一瞬考える。しかし、正直一瞬の考察も必要なかった。おそらく絵里も亜子が何て答えるか分かって聞いている。それが何となく気に入らなくて、

「…………」

 亜子は無言を回答とした。すると、

「でしょ?」

 訳知り顔で絵里がうなずいた。どうやらそこが変わっている、と言われたポイントであるらしい。

「一般的な感覚からいって、斉藤のほうが話しかけやすいと思うよ。あいつのほうが愛想がいいし、口数が多いから話も盛り上がるしね」

「笹原君はあまり口数多くないから、ちょっと話しかけにくいかなぁ。表情も変わらないから、何考えているか分からないし」

 亜子だってそれは思う。亜子と話している時だけ、妙に明るくなったり饒舌になったりしない。何を考えているか分からないのは、亜子も一緒だ。なぜ誠也のほうが話しやすいと感じるのか。そこは亜子にも分からない。意識して考えなければ、答えは出ないだろう。しかし、ここで何を言ってもおそらく無意味。むしろ墓穴を掘ることになると思うので、ここは大人の対応をしよう。

「分かったよ。斉藤のことは嫌いじゃないし、今後も付き合っていく必要があるのも理解している。これからは仲良くなれるよう努力するよ。昼休みの話も了解です」

 亜子の言葉に、

「そ、そこまでむきにならなくても……」

 と苦笑気味の歩美。

「あらあら。むしろこの先の話が面白いところなのに」

 なぜか楽しそうににやにや笑う絵里。それぞれの反応を見て、亜子は複雑な気持ちになった。先ほど聞かされた話で、若干ものの見方が変わったのだが、今の二人の反応を見て、もしかしたらからかわれただけなのでは、と感じてしまうのだった。



 さて。昼食に向かう前にひと悶着あったものの、当初提案通り隼人を誘って食事をとることになった。隼人は隣の隣のクラスであり、そこには誠也もいる。そのことは多少なりとも意識してしまうのだが、それを表に出してしまうと、またしても二人に話のタネを提供することになってしまう。意識して、意識しないようにしなければならない。

 教室のドアを開け、中を確認する。目的の人物は簡単に見つけることができた。

「おーい、斉藤」

 先陣を切って絵里が話しかける。

「あぁ、どうしたの?みんなして」

 隼人はすでに弁当の封を開き、昼食に取り掛かっていた。普通に返事をして振り返っ隼人だったが、その表情はどこか硬かった。

「あたしたち、これから学食行くんだけど、一緒にどう?」

「え?」

 聞いた隼人は驚愕の表情を浮かべた。よほど信じられない話だったらしい。

「あれ、駄目だった?」

 驚いた隼人に驚いた絵里は若干怯んだ。ここで拒否されると、周りの目も痛い。周囲から見て、異様な光景に映るだろう。しかし、それは杞憂に終わった。

「いや、そんなことないよ。ちょっと驚いただけ。うん、いいよ。どこで食べる?」

 先ほどの様子から一転、嬉々とした雰囲気で慌ただしく弁当のふたを閉じ、再び包み始めた。相変わらずこちらに対して、異常なほどに腰が低い。どうしてこういう態度になってしまうのだろうか。この四人に上下関係はない。にもかかわらず、隼人は誘ってもらえて光栄です、という雰囲気を全身から醸し出す。これで仲良くできるのだろうか。

 とにかく隼人を誘うことができた。これでここに用はない。亜子は早々に教室を後にしようとしたのだが、亜子の傍らに立っていた歩美が一人、教室の中を進んでいき、もう一人別の男子生徒に話しかけていた。

「こんにちは」

 言わずもがな、誠也である。隼人とは一緒に食事をしていないらしい。前回昼食時に来たときは、一緒に食べていたのだが。ま、二人にも気分というものがあるだろうし、常に一緒に行動しているわけでもない。このときは適当に理由をつけて、深く考えなかった。

「何だ?」

 窓から外を眺めていた誠也が、歩美の呼びかけにゆっくり振り返る。

「あのさ、これから学食に行くんだけど、一緒にどうかな?」

 まさか、ここにきて誠也を誘うとは思わなかった。誠也の離別はすでに終わった話であり、亜子はもちろん絵里も歩美も納得していた。にもかかわらず、なぜ。おそらく誠也も同じことを思ったのだろう。歩美の言葉を受け、目を見開いた。

 しかし、誠也から同様らしき雰囲気を感じ取ったのはその一瞬だけで、直後には平静さを取り戻しており、

「謹んで遠慮させてもらう」

 躊躇いなく断りの言葉を返した。

「そっか……」

 なぜだかとても悲しそうな雰囲気を醸し出した歩美に対して、

「悪いな」

 と相変わらずちっとも悪く思ってなさそうな雰囲気で返事を返した。そして、話はもう終わったといわんばかりに、再び窓の外を眺め始めた。

「ごめん、お待たせ。じゃあ学食行こうか」

 笑顔で亜子たちの元に戻ってくると、歩美は謝罪した。

「別にいいけど、何であいつも誘ったの?」

 亜子が問いかけると、歩美は一瞬きょとんとしてから、

「そのほうが楽しいかな、と思って!」

 そう嬉々として答えられると、質問をしたこちらのほうがバカバカしく思えてくる。

「でも見事に振られちゃった。やっぱり迷惑だったのかな」

 迷惑をかけていたと思う。少なくとも無理言って手伝ってもらった。それを考えると、誠也が楽しくやっていたとは思えない。

「でも嫌がってなかったんでしょ」

「うーん、そう思ったんだけどなぁ。ちゃんとした根拠があるわけじゃないから」

 難しい顔をして一言唸り声をあげた歩美は、小首をかしげている。そのとき歩美がそう感じたことに疑問はない。だが、誠也から断られたこともまた事実なのだ。これ以上ファンクラブに誘うことは少し躊躇われる。

「ま、これ以上深く考えてもしょうがないよ。とりあえず行こう。絵里たち待ってるし」

「うん、そうだね」

「本当に笹原とお昼食べたくなったら、個人的にやれば」

「わ、私そういうつもりじゃなかったんだけど……」

 歩美を適当にからかいながら話を終わらせ、教室の外で待ちぼうけを食らってる絵里と隼人のもとに向かった。


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