第弐拾弐話 猫と愛の証明者(裏)
この愛の証明者(裏)は愛の証明者(表)の裏の出来事。つまり、文雄君が寝こけている一夜のできごとです。
ただひたすらに悩んで歩みつづけた、青年の一つの惨殺物語、お楽しみください。
なお、惨殺とは銘うってありますが、グロテスクな表現はほとんどありませんので、ご安心を。
其の手は血に汚れ、
其の足は泥に汚れ、
其の体は傷だらけで、
其の心は壊滅した。
それでも、この命続く限り。
誰かのために、生きている。
あたりは闇夜に包まれて、音一つない静寂が広がっていた。
ちょうど一日の境目。今日と明日の境界に男は立っている。あと十分もすればこのあたり一帯は『絶望』に包まれるだろう。どんなものよりも頼りになる、自分の直感がそう告げている。夜明けまでは……ここは戦場になる。
近隣住民は一切気づかれないように凍結次元結界内に避難させました、と日向は言っていたが、凍結次元結界なるものがなんなのかまでは男には分からない。まぁ、色々な人に迷惑がかからなければそれでいい、と安直に思った。
ロングコートの男……相川透は、日本家屋の前に座りながらゆっくりと欠伸をしていた。ちらりと横を見ると、海岸に放置されたはずの原付が鎮座している。放置させておくのもなんなので、透がガソリンを満タンにしてここまで運んできたものだ。意味もなくそのタイヤを叩いて、退屈そうにまた欠伸をする。
「………暇だ」
やはり退屈だったらしく、透はゆっくりと伸びをした。
「んー、こーゆー時は女の子をふにふに触ってると落ち着くんだが」
「……阿呆か、貴様」
背後から声が響く。振り向くと、女が家の中から戻ってくるところだった。
ライダースーツに太い三つ編み。闇夜に紛れながらも、足音すら聞こえない。
少女は、名を鬼末真といった。
「ふしだらで不謹慎でこれ以上なく不潔だ」
「だって暇なんだもんよ。あーあ、これならゲーム〇ーイアド〇ンスでも持ってくればよかったな。そうすりゃFF4ができるし」
「子供か、お前は」
「どーでもいいさ。大人と子供の差なんざ、オモチャの値段でしかない」
退屈そうに欠伸をしながら、透は夜空を見上げた。
「あーあ、メンドクセ。いっそのこと帰っちゃおうかな」
「そんなにグダグダならさっさと帰れ。やる気のないやつは必要ない」
「……やる気なんて、最初からねェよ」
口許を皮肉げに緩めて、透は肩をすくめた。
「結局、やるしかないから殺すだけなんだからな。『オレにしか出来ない』なんて青臭いことを言うつもりはないが、『殺し』ってのは気が滅入る。オレはお前みてーに開き直って戦いそのものを楽しむ根性はねーよ。元対人恐怖症なもんでね」
「……対人恐怖症?」
「昔は人が怖かった。今も少しだけ怖い。オレの能力ってのは、つまり『臆病』の延長線上にあるものなんだよ、結局のところはな」
だからこそ、人の成すありとあらゆるものが感知できる。
怖いから敏感になって、それが行き過ぎて『能力』と呼ばれるまでになった。
それが……相川透という青年の強さだった。
「日常生活では邪魔とされるものが、戦場じゃこれ以上ない武器になる。オレは自分の『臆病』さを武器にして殺してきた。その『臆病』がオレのせいじゃないとしても、ある災厄に植え付けられたものだとしても……。オレは、殺すのをやめない」
目を細めて立ち上がり、透は苦笑した。
「守りたいものがある。お前も含めて、全部ひっくるめて守ってやる」
真は、思わず目を逸らした。
「…………馬鹿」
自分に比べればはるかに弱い青年は、どこまでも真っ直ぐに前を向いて、相手を惨殺する。それが絶望だろうが世界の敵だろうが、容赦なく殺す。手段を選ばず卑怯に不条理に斬り殺す。
最初に出会った時も、そうだった。
その時、青年は最終段階に突入した『ODIO』を惨殺するところだった。汚され犯され、世界に絶望しきった少女を……そんな哀れな存在を、殺した。
真はそれを見た。少女を罵倒し、どうしようもないほど追い詰めて、少女は恨み言や心に秘めたことを全部吐き出して、絶叫して、本当になにもかもに絶望しながら死んだ。本当にむごたらしい……あまりにも酷い殺し方だった。
だから真はその青年の前に立った。怒りに震えて、拳を握った。
青年は、皮肉げに笑うだけだった。
『なら聞こう。お前は酸素を吸うだけで激痛を伴う人間と一緒にいられるか?』
絶対に相容れない価値観。
一緒に在ることすら許されぬ存在悪。
求めたのは救いだけだったのにそれすら許されなかった。
『つまるところ……あの少女はそういうやつだった。運がなかった。助けようと思っても助けられず、背負うことすらできない『害悪』そのものだった。だから殺した』
惨たらしく、一番惨めな方法で。
残虐に、どこまでも卑劣に。
害虫を叩き潰すように、殺した。
殺すしかなかったから、一番醜悪に殺した。
『仕方ねぇだろ。救える手段も皆無だったんだ。……だったらせめて、最後の最後、そいつが心に全部溜めてた言葉くらいは吐き出させてやってもいいだろ。全部吐き出して………オレを恨んで死ねばいい』
せめて、恨みがましくみっともなく。
どこまでも足掻いて、逆ギレしながら死ね。
オレを恨んで死んでいけ。オレはお前を殺して生きる。
守りたいものがあるからこそ、お前を殺して生き続ける。
相川透という青年は、皮肉げに口許をつり上げて、
寂しそうな瞳で……そう、言ったのだ。
まるで、全部の憎悪を受け止めるような生き方。
差し出された供物のように、男はあらゆるものに利用され続けた。
それを理解しながら、男は利用された。押し付けられた責任を放棄しなかった。
しかし、誰が知ろう。その醜い生き方を選んだ青年は。
いつだって、泣いていたのだ。
皮肉な笑いは薄っぺらい紙の仮面で、軽薄な態度は飴細工のような防御壁。
それでも誰にも気づかせず、青年は殺し続けた。恨みを買い続けた。
泣きながら、殺し続けた。
……その馬鹿な生き方に見惚れた、一人の鬼がいた。
真は口許を緩めて、青年を見つめる。
とても嬉しそうに、頬を緩めて、じっと見つめていた。
「……透」
「ん?」
「帰ったら、料理作るから、みんなで一緒に食べよう」
「…………そだな」
重い腰を上げて、透は口許を緩める。それはいつものような皮肉げな微笑ではなく、本当に心の底から嬉しそうな、優しげな微笑。
笑顔を浮かべながら、透は真を優しく抱き寄せた。
「ちょ、と、透っ!? こ、こんなところでなにを……」
「シェラ」
「な、なんだ?」
「………愛してる」
「ふぇっ!?」
「こういうの……嫌か?」
「い、いやじゃない、けど……」
真っ赤になって縮こまる真を見つめながら、透は口許を緩めた。
「まぁ、嫌なら嫌でいい。ただ……オレはこうしないと戦えないんでね」
「……え?」
「ただのやせ我慢さ、本当は死ぬほど怖い。でも……こうしていれば戦える。人に触れるのは怖いけど……それでも暖かいから、戦えるんだ」
耳元で囁くように言って、透はゆっくりと真から離れた。
名残惜しそうに、寂しそうに、苦笑しながら離れていった。
そして、次の瞬間には、不敵に笑っていた。
「さて……いちゃつくのはここまでだ。おいでなすったぜ」
「……らしいな」
真も思考を戦闘に切り替えて、革のグローブをはめる。
二人の戦闘準備はそれで完了する。もとより……二人とも、常に戦場に身を置いているような存在である。準備は最小かつ最速。それが一番大切なことだと経験で理解している。
「シェラ。言い残すことはないか?」
「特に。お前こそ言い残したいことがあるんだったら言っておけ」
「特にないな。言いたいことは、生き残った後で言う主義でね」
「同感だ」
二人は同時に口許を緩め、敵の待つ戦場へと駆けて行った。
そして、『絶望』は世界へと現出を開始した。
私は猫である。名前はファリエル=ナムサ=オーレリア。毛並みは青に近い黒を持つ、まごうことなき美雌猫である。
双剣を振るいながら、私は夜の街を疾走していた。
切り伏せる敵は無数。街中に溢れる敵はそれこそ無限に近い。
二足で歩く黒い獣が、街中を蹂躙し、闊歩し、進軍している。真っ赤な瞳に人の胴体程度だったらバターのように簡単に両断できてしまいそうな手足の爪。大きなもので体長二メートルほどか。サイズ的には、人間とあまり大差ない。
それを問答無用に全て斬り捨てながら、私は走り続けていた。
「やれやれ……面倒なことだ。どうやら、『ODIO』は順調に育っているらしい」
以前は『黒蟲』だったのに、今回は『黒獣』。『単体』であるか『群体』であるかの差でしかないが、その差は小さいようでとてつもなく大きい。
知的生物が強い理由。それは、『群れている』からである。
例えば今の状況。相手が単純構造の『黒蟲』ならば、真っ先に星野海を狙ってあの日本家屋に向かってくる。
そうなればことは単純だ。あのあたりは道が狭い。一度に飛びかかれる数には限りがある。全方位に注意しなければならない宇宙空間とは違い、地上戦では遮蔽物を利用した戦いが可能となる。そして、開花前の『ODIO』は基本的に夜にしか活動ができない。
つまり、夜明けまで守り抜けば、私たちの勝ちだったのだ。
しかし……『黒獣』は違う。
あいつらは『結界の外』に飛び出して人を襲いながら、星野海も同時に狙ってくる。
このあたりの周囲三キロの住民は、日向が『隔離』しているため殺される心配はない。しかし、それ以外の人間はそうもいかない。放っておけば『黒獣』は際限なく結界の外の人間を殺す。あいつらの狙いは星野海ではあるが、連中は効率よく『絶望』を撒き散らすためなら手段を選ばない。
だからこそ、私たちは戦力を分散し、敵の全てを叩かなければならない。
単純な命令のみに従う『個』である蟲と、その命令を効率よく実行するために『群』として行動する獣。どちらが恐ろしいかなど、言うまでもない。
「ちっ……しかしいくらなんでも、数が多い」
舌打ちしながら、私は新たに現れた獣を三匹まとめて切り裂く。相手は朝が来るまで無限に増殖し続ける化け物だ。この程度はスズメの涙にもなるまい。
となれば……狙いは一点。
「この化け物をつかさどってる存在を殺す」
黒蟲は自分で『核』を作って繁殖するが、『黒獣』はそうではない。『黒獣』はある存在が生み出しているのだ。
それが……『侵食者』。
第二段階まで突入した『ODIO』は己に同調する存在の絶望を増大させて食らう。そして、それと同時に『侵食』を開始する。
それがどのような意味を持つのかは、言わずとも知れる。
侵食を受けた者は、『ODIO』の仔としてあらゆる存在の敵に回る。
彼らは絶望をそのまま受け入れ、自分の意志のままに世界を滅ぼそうとする。『黒獣』を生み出し、障害を排除し、『ODIO』が開花するのを助ける。……言うなれば『絶望の使徒』に成り下がるのだ。
透が恐れていたのがこれだ。星野海が侵食されてしまったら、本当に取り返しのつかないことになる。だからこそあいつは汚い役をかぶって、文雄に海を説得させた。彼女の絶望を諦めさせることに成功したのだ。
しかし、星野海は間違いなく『ODIOの本体』と接触している。『ODIO』にとって『本体』が知れることはそのまま死に直結する。……だからこそ、連中は海を狙ってくるのである。口封じのために。
「……絶望のがやることにしては、なんとも狭量だがな」
無論、そのようなことは許さない。
幸いなことに、こちらの戦力は私など不要なほどに充実している。家を守るのは最強の魔法使いで、敵を狩るのは究極の殺人鬼と絶対の魔法使い。
………………まぁ、なんだ。
全員アクが強すぎる性格が問題といえば問題だが、戦場においてそれは別に問題というほどの問題でもな……。
「とーりゃーっ!」
ぴかー、どかーん、ちゅどーん。
私にはどうしようもないほどの出力を誇る光牙が、すさまじい威力を持って地面のコンクリートごと『黒獣』を引き裂いていく。
そして……路地から姿を見せたのは、輝くような金色の髪を腰まで伸ばした絶世の美女だった。
……言うまでもないだろう。家の守りを任されたはずの東野燈琥。いや…今は黄の魔法使い、トーコ=ブロークンハートである。
トーコは、背景に絶対無敵の一文字を掲げているかのように、不敵に笑う。。
「ふっふっふ、弱い、弱すぎるっ! そんなんでこの私の日頃の鬱屈を止められると思ったら大間違いっ! くらえ、パート先でふんぞり返ってるババァに正拳を叩き込みたい私の拳をっ!!」
「……をい、馬鹿」
「おろ? 奇遇ね、ファリエル。なんかものすごく不機嫌そうな顔」
ゴスッ!
最後まで言わせず、私は、女をぶん殴った。
「ひっ、ひどっ! 親父にも殴られたことないのにっ!」
「やかましいっ、あからさまな嘘を吐くなっ!!」
思わず怒鳴りつけながら、私はガシッ、とトーコの頭を掴んだ。
「なァ、おい魔法使い。私はお前に『家の守りは任せる』って言ったよな? なーのに……なんでお前はこんなところにいるんだ?」
「いやー、戦術っておっかないね。敵を追いかけてきたらいつの間にか家からかなり離されちゃった。てへ☆」
「………お前な。囮くらい気づけ」
「大丈夫。走りながら壱檎ちゃんに電話しておいたし。そもそもあの家はそんじょそこらの要塞なんかよりよっぽど堅固なんだから。光刃の網に小型次元衛星砲、追尾式ヴァリアントミサイルなどなど、この世界じゃ考えられないほどの最新装備が……って、ちょーっと待ってファリエル。なんか、私の頭を掴んでいる手に血管が浮き出てるんだけどっていうか、私の頭が割れそうっていうかっ!!」
ミシミシと、比喩でなく頭が砕けそうな音が鳴っている。
私は口許を緩めて、にっこりと笑った。
「そりゃ、割ろうとしてるからな。ちなみに私が本気を出せばスイカくらいは楽勝で割れる。ちなみに、この前はスイカと同じくらいの岩石を割った」
「いやいやいやいや、ありえないから。そんなんできるの魔法使いの中でも真ちゃんくらいしかいないから!!」
「いや、分からんぞぉ。実はトーコにも隠れたパワーがあってだな」
「無理無理無理無理絶対無理っ!! そんな設定があるんだったらさっさと発揮してこの悪夢みたいな苦痛から逃れてるって言うかああああああああああああっ!!」
とうとう痛みが許容限度を越えたか、トーコは半泣きになった。
さすがに同じような境遇の成人女性を泣かせるのは忍びなかったので、仕方なく手を離してやることにする。
瞳を潤ませて荒い息をつきながら、トーコはこめかみを押さえていた。
「いったぁ……。目の前が真っ赤に染まってたよ。死ぬかと思った」
「殺そうかと思ってたから当然だろうが」
「……味方同士で殺し合ってどーすんのよ」
「なに、あの程度の力で潰れてしまうような味方なら最初からいないほうがいい」
「うわっ、ひどっ! っていうかひとでなしだっ!」
トーコの非難を無視しながら、私は口許を緩める。
「まぁもっとも……その味方を心配してここまで駆けつけて来たお人好しを追い返すほどに非道でもないがな」
ぎくり、とトーコの肩が跳ね上がる。
頬には、汗が一筋流れていたりする。
「あ、あハははははははハ。ナニを言ってるんですか?」
「ちなみに、透と真なら逆方向だ」
「え、うそっ!?」
「嘘だ」
沈黙が落ちる。
トーコは気まずそうに頭を掻いて、私をちらりと見て目を逸らす。
「……なんていうか、ちょっと心配でね」
「ちっとやそっとじゃどうにもならんよ、あの二人は」
「実力はそうだけど、メンタル面がね。真ちゃんは恋愛に関しちゃ中学生レベルだから。……実力は魔法使いの中でも随一なんだけどね」
心配性の魔法使いは、そう言って苦笑した。自分の世話焼きっぷりに少しだけ呆れているのだろう。
私は口許を緩めて、肩をすくめた。
「心配する必要はない。そのへんは透が補うさ」
「なんか、ずいぶん信用してるね?」
「……信用でもなんでもないさ。もちろん信頼でもない。私はあいつのことを知っている。それだけのことだ」
「どゆこと?」
「あいつは卑怯で愚劣で最低だ。辿ってきた道は泥にまみれ、手は血で汚れ、体は傷だらけ、心はとうに壊れきってる。……故に、『強い』のさ」
あいつのように皮肉げに口許を緩めて、私は語る。
「単純なことだ。相川透という男は、それがどんな逆境であっても諦めることを知らない。最終的な目的を果たすためなら手段を選ばず、効率的かつもっとも最適な手段で目的を達成しようとする。恐怖を誤魔化すために女を抱き、敵を殺すために火を放ち、心を乱すために嘘を吐く。……それは、間違いなく強さだ」
立ち向かえば負けるから、絶対に正面から立ち向かわない。
その動作、仕草、あらゆる行動の全てが勝利の布石。動作一つが次の策へ連なる要素に過ぎない。たった一つの勝利条件を満たすことが男の全てであり、それ以上でもそれ以下でもない。
勝利条件を満たすために、男はやるべきことを全て積み上げていく。
大切なものを守る。その約束を果たすためなら、勝負への誇りなどへでもない。
私にはない強さ。人間しか持ち得ない、世界で三番目の強さ。
それを人は……『誓約』と呼ぶ。
たった一つ。心に決めた、絶対破らない約束。
「おそらく……『戦闘経験』で私と比肩できるのは、真を除けば透くらいだろう。しかも『人生経験』においては真とは比べ物にならないくらい密度の高い人生を送っている。……失敗を知ってるから、あいつは強い。その全てを一つの約束を果たすために使っているから……あいつは『夢幻』すら殺しうる存在になった」
戦闘でも人生でも、『経験』以上に頼りになるものは存在しない。
いくら経験をぶっち切る『天才』であろうと、そんなものは問題にならない。あらゆる状況、あらゆる場面で失敗し続け、その失敗がどういうものであるかを知り尽くした存在が一番強いのだ。
そいつは、失敗の後どうすればいいのかを知っている。
足掻く方法を、知っている。
「……だからこそ理解できる。あいつは、紛れもなく人類最強の一人だよ」
「なんか、ファリエルって相川くんに関してずいぶん詳しいね。もしかして昔なんかあったりしたの?」
「なんかもなにも、あいつは私の弟子だが」
沈黙が落ちた。
……おや? なにか私は余計なことを言っただろうか。
見ると、トーコはなにやら呆れているような笑っているような、いわく言い難い表情をしていた。
「それ、本当?」
「ああ、本当だ。十年くらい前かな……ちょっと鍛えてやった時期があってな。まぁ弟子というには期間が短かったが、あいつに戦い方を教えたのは私だ。その頃までは純情な少年だったんだが、なぜか修行を終えたあたりからどんどんひねくれだしてな。どうやら失恋をしたのが拍車をかけたらしいが……まぁ、人間としていい味が出てきたということだろう」
「……なんかさ」
「ん?」
「なんか、今ファリエルが全部の原因って気がしてきた」
珍しいことに、恐ろしく真面目な顔でトーコはきっぱりと言った。
うむ……いや、そんなことはない……よな。
私の一瞬の迷いを見て取ったのか、トーコは一気にまくし立ててきた。
「ファリエルが相川くんを鍛えちゃったせいで彼は捻くれました。さらに、真ちゃんに透くんを紹介したのもファリエル。文雄君の一番側にいながらなんにもしなかったのもファリエルなら、星野海さんの所在を調べておきながら、結局ちょっと話しただけで彼女のやることに手を出さないって決めたのもファリエル。……さて、ここまで主要人物に関わっておきながら今さら他人面するのはどうかと私は思うけど?」
「他人事だし」
「こんだけさんざ事態を引っ掻き回しといてそういうことを言うかーっ!!?」
いや、そんなことを言われても。
私は人である前に猫なのだし、不干渉は当然のルールであろう。
「あまーいっ!! 前々から思ってたけど、ファリエル。あんたってどうも人間関係に関しては妙に淡白じゃない?」
「……人の心を勝手に読むなよ」
「心なんてたいそうなもん読まなくても態度で分かるわよ。猫だかなんだか知らないけど………。あんた、兄貴やら前の旦那のこと、引きずりすぎなのよ」
「………………」
その言葉は、痛い。
とてもとても痛いのだが、私の口から反論は出てこない。
出てこない理由は至って簡単で単純で分かりやすい。
ここはプライベートなことを挟む余地などない、戦場だから。
私は、剣を一閃した。
トーコに襲いかかってきた黒い獣が消えて失せる。そのまま五匹、波状的に襲いかかってきた獣を斬り捨てて、私はゆっくりと口許を緩める。
「ま、そういう説教は戦闘が終わってからたっぷりと聞いてやるよ、お節介。幸い、私もそろそろ誰かに説教をされておくべきだと思っていたところだ。そうすることで自分では見えなかった部分や誤魔化そうとする部分も見えてくるしな」
光が煌き、私の背中に襲いかかってきた獣を蒸発させる。
トーコは光を放ったままの姿勢で苦笑していた。
「どんなアクティブな説教の受け方よ、それって……」
「『説教は必死で聞け』ってのが持論でね。弟子にもきっちり伝えることにしてる」
「うーわ、だから相川くん、ファリエルにボッコボコにされても絶対に逃げなかったのね。かわいそ」
「女を泣かすような男は死んでいいからな」
「それは同感だけど真ちゃんも悪かった……って世間話はここまでね」
いつの間にか、私たちの周囲を無数の獣が取り囲んでいる。
トーコは拳に光を宿し。
私は双剣を構える。
「さて、それでは行こうかトーコ。敵を蹴散らすぞ」
「了解」
かくていつも通りに、私たちは己の戦いを始めた。
昔々の大昔。ほんの十年前のこと、少年は一人の少女に恋をした。
つり目で細身で皮肉屋で読書が大好きで、どこまでも人を見下している態度をとり続けた少女は、実は人間に創られた人間で……世界で一番の嘘吐きだった。
だから……相性は最高だった。『この世全ての死』を閲覧して『殺人鬼』に成り果てた存在である少年と、『この生全てが嘘』である『虚構師』は、ごく自然に惹かれ合い、ごく自然に恋をした。
歪ではあったが……恋愛という遊びに興じてみた。
改行すら間に合わない、そんな言葉遊びを繰り返していた。
「つまるところ、あなたは殺すのが怖いのね?」「そりゃそうだ。それこそ物語じゃないんだから殺人は怖がって当然だろ」「人と触れ合うのも怖いんでしょ?」「そりゃそうだ。世界全部の死なんて下らないものを見たからには、それくらいのペナルティは当然だよ」「それなのに、私と一緒にいられるのはなぜ?」「ま、こっちにも色々あってね。愛情は恐怖を駆逐する、みたいな」「下らないわ」「まったくその通りだ。戯言にも程がある」
息もつかせぬ会話の中で、少年はクツクツと笑い、少女はシニカルに笑う。
シークタイムゼロの脊椎反射のような会話は、糸を紡ぐように続いていく。
「単純な話として、あなたは人を恐れている。それでもあなたは誰も見捨てない。義妹さんに愛を注ぎ、従妹さんを抱き締めて、親友を裏切らず、災厄を傷つけ続ける。彼女たちが望んだことをあなたは叶え続ける。それはあまりにも歪んで愚かで下らない、極々つまらない『愛』でしかないわ。はっきり言って吐き気がする」「ん、そうだね。僕も至極当然にそう思う。ところで、その馬鹿男の誘いに乗ってほいほいこんなホテルまでやってきた君は何者なのか教えてもらえるかな?」「愛は侮蔑を駆逐できるってどっかの馬鹿男は言ってたわ」「下らないね」「全くその通り。戯言にも程度ってものがあるわ」
飽きた会話の中で、飽きない会話の中で、少年と少女は笑っている。
「下らない話になるけど、僕は君が好きなんだよ。たぶん、この世界で一番」「愚劣な言葉だけれど、私はあなたが嫌いなんだと思うわ。たぶん、この世界で一番最後に」「相変わらずの歪曲表現だね。少しは男を振り向かせる努力でもしたらどう?」「失礼ね。一応化粧くらいはしてるわ」「うん、あと香水もつけてるね。新調した服も似合ってると思うよ」「相川くんこそ、プレゼントどうもありがとう。とっても嬉しいわ。それと、このホテルも素敵だと思う」「喜んでもらえて光栄です、姫」「いえいえ。王子様には敵いませんとも」
二人は笑いながら、にやりと口許をつり上げる。
本音の時間だ。
「でもちょっと品がないような気がする。っていうかここ、ぶっちゃけて言えばちょっと高めのラブホテルじゃない? プレゼントも質流れ品くさいし。シャーロックホームズの時代みたいにナンバーを直接打ち込むようなことはしないけど、それでも値札の痕跡くらいは私にも分かるんですからね」「うお、いきなり核心突いてきたね。でもそれは君にも言えることじゃんか。香水はクラスメイトにもらった物だし、服だって舌先三寸とイカサマでこの前会ったお金持ちから巻き上げたもんじゃん。正直、派手すぎて似合ってないよ」「うわ、ひど。せっかく人が苦労して着飾ってきたのに。これならこの前買った天使のレオタードの方がよかったかも」「どこで買ったんだよ、そんなもん。円じゃなくてゴールドで買ったのか? っていうか店を教えれ。是非ともドラゴンキラーが欲しい」「嘘に決まってるじゃない。馬鹿?」「ぬう、男の浪漫をそんなふうに言われるとは心底心外。あまりにもショックなので本気でバイトして用意した、高級ホテルのペアチケットを燃やさなければなるまいよ。せっかくのドッキリで盛り上げようと思ったのに。ああ、かなしや」「もう、相川くんってばそれを先に言ってよ。で、今日はどんなプレイがお好み?」「ありのままの君を愛したいな、とか言ってみたり」「あっはっは、セリフが臭い上に恥かしい。死ぬ。殴っていい? このダンベルで」「重く死ねるよ、それは」
二人は、まるで仲のいいカップルのように笑う。
歪に、卑屈に、皮肉って、手を繋いで笑っている。
ドッキリを仕掛けたラブホテルから出るときに、不意に少女は目を細めた。
「ところで、そのチケット、どうやって入手したのかしら?」
「この前惨殺した世界の敵の預金通帳からちょっとね」
「最低ね」
「まぁ、嘘だけど」
「それも嘘ね。本気でバイト=日雇いのバイトってところかしら?」
「ふふふ、まだ甘いね。本気でバイト=惨殺+日雇いのバイトみたいな。あ、ちなみにさっきの時計は、僕のささやかな小遣いで買ったものだから返して。つーか質屋で衝動買いしたもんだし」
「ヤダ。この無骨なデザインの時計、すごく気に入った」
「………嘘だよね?」
「残念ながら、これは本当よ。まだまだ修行が甘いわね」
少女はそう言って、にっこりと嬉しそうに笑った。
本当と嘘を一切偽らず、在りのままに少年と少女は在った。
まるでそれは……全てを許された楽園だった。
楽しかった思い出を思い出しながら、青年は口許を緩める。
「ったくよぅ……つまんねーこと思い出させてくれるよ」
意識の海で溺れながら、青年は口許を緩めた。
「しっかし参ったなァ。精神攻撃とは恐れ入る。ま、オレは『ODIO』に正面から立ち向かうのは初めてだ。こんなこともあるだろうさ」
透はゆっくりと息を吐いて………唇に歯を立てる。
ぶちっ、と躊躇なく唇を少し噛み切った。
口に広がるのは、慣れた味。鉄の匂いが染みこんだ人間の体液の味。
青年は皮肉げに口許をつりあげて、ゆっくりと目を閉じた。
知覚するのは、相手と己のみ。
精神を制御し、魂を操作し、全感覚を総動員して敵を捕捉する。
「血に濡れた、刃の意味を始めよう。屍の上に君を築こう」
言葉は、ただの空気の振動にしか過ぎない。人は音速をもって己と相手の意志を疎通する。たとえ空間という壁に隔てられているとしても、現在において最速を誇る意志の伝達手段こそが言葉である。
だが、その言葉は自己を変革させるための言の葉に過ぎない。
自分を作り変えるための言葉に過ぎない。
作り変えた感覚が、彼自身に告げる。
『現在精神侵食が進行中、相川透および鬼末真の内部に■■■■の子供が蔓延っている。自身で治療する手段は皆無』
分析を終了させ、相川透という青年は……ゆっくりと目を細めた。
冷酷に、冷徹に、どこまでも残虐に。
「やれやれだ。この『僕』に、一回死ねと告げるのか」
短刀を振り上げ、にやりと笑う。
「それじゃあ……惨殺を、始めよう」
そして、自分の胸に短刀を突き立てた。
私はゆっくりと侵食を開始していた。
敵は一人。奇妙なロングコートの男と。病院に躊躇なく踏み込んできたそいつは、当たり前のように獣を蹴散らしながら自分に向かってきた。せっかく生き長らえた私を殺すために……死神はやってきた。
それが……私の頭を沸騰させた。憎悪が、鎌首をもたげた。
生きられる体のくせに、私を殺そうというのか。
ボロボロのカラダ。日に数え切れないほどの薬を服用するだけの、死を待つ自分。目からは視力がとっくに失われ、体の感覚もほとんどが失われている。死にたいのに死ねず、家族に迷惑をかけるだけの、死にかけた自分。
だから……其の声に、応えた。
生きたいか、と問われた。
生きたいと、即答した。
たったそれだけで苦しみが消えた。呼吸は楽になり視力は回復し体はまるで奇蹟のように息吹を取り戻した。最初はあまりにも嬉しくて涙がこぼれた。きっと神様が私を助けてくれたのだと……そんなふうに、勘違いした。
だから気づけなかった。フォークを医者に突き刺した自分が信じられなかった。
憎い。
ごく自然に、当たり前に、私は、私を治療してくれたひとを。
殺せ。
いいや、彼は死につつあった私を実験動物のように扱った。
苦しみを。
なら、当然報いはあるべきだ。私を汚したそいつを、いや、世界をぜんぶ。
みんな、死んでしまえ。
ザクザクと骨をたべる音が響く。医者が消失して、私は目を見開いた。
せかいなんて、こわれちゃえ。
そこには、私が産んだ……黒い獣がいた。
私はきっと間違った。どこかできっと間違えた。部活を頑張るあまり、悪性の病巣を早期発見できなかった時点で間違ったのかもしれないし、あの声に応えてしまったのが間違いだったのかもしれない。いいや……そもそも、
生まれてきたことが、間違いだったのかもしれない。
だってそうでも思わないと自分を誤魔化せない。あの黒い獣を生み出すと気分がスッと落ち着く。まるで自分の絶望を吐き出しているかのように、震えるほどに気持ちがいい。世界を蹂躙しているかのような優越感と、全てを支配しているような充足感。そんなに気持ちいい感覚に耐えられるほど……わたしは、つよく、ないのに。
生き長らえたいと思ってしまう、弱い人間なのに。
死にたくないだけなのに。なのに、死神はやってきた。私を殺すために。
「いや、残念ながら僕は死神じゃない。ただの惨殺者さ」
その声は、まるで当たり前のように、耳に届いた。
胸に突き刺した短刀を引き抜きながら、彼はゆっくりと立ち上がる。
己に這入った『侵食』を殺しながら、彼は立ち上がった。
「なかなかいい夢を見せてもらった。久しぶりに……泣きそうになった」
病室から差し込む月明かりの中で、男はにっこりと笑っていた。
その人が経験したはずの一番の絶望を再体験させたはずなのに……笑っていた。
「ある所に一人の嘘吐きがいた。細くて、髪の毛が長くて、瞳はまるで刃のように鋭く、言葉はまるで刃そのものだった。彼女は全世界最強の嘘吐きだったが、唯一僕の前では本音を吐いた。……其の言葉は、まるで光輝のごとく僕の道を照らし出してくれた。でも、だからこそ、僕は……他の選択肢を全て奪われたんだ」
わからない。
目の前の存在がなにを言っているのか理解できない。
理解できないまでも、頭の中では納得している。
それはつまり……彼は彼女を憎んでいるということ。
私の納得を読み取ったのか、男は肩をすくめて語り続ける。
「彼女の存在は僕にとって希望であり絶望だ。世界で一番の希望であると同時に、世界で一番の絶望だ。彼女の言葉があったら僕はここまで生きていられ、彼女の言葉があったばっかりに、僕は逃げることすらできなくなった」
青年は、クスクスと歪んだ笑いを浮かべる。
「だから僕は彼女を恨む。世界で一番好きだから恨んでいる。同時に、彼女以外の大切なものを愛すると誓った。大嫌いだけど、大切だから愛している」
好きだから、憎む。
大嫌いだけど大切だから、愛する。
矛盾だ。その思考は明らかに矛盾している。
だってそうだろう。人間は好きなものを大切にして、愛するのに。
なんで……この人は、そんな気持ちの悪いことを口にできるのか。
「理由は至って簡単。自分だけが世界で一番どうでもいいから」
「…………あ」
「だから僕は君を殺す。僕だけを殺そうというのならまだしも、この世界にいる人たちにとんでもない迷惑をかけようとしているから、惨殺しようと思っている」
怖い。
あまりに、怖い。
死神なんて生温い。殺人鬼という言葉すらあまりに滑稽だ。
彼は違う。彼は『人間』じゃない。死神のように慈悲はなく、殺人鬼のように快楽もない。機械のように自動的でもなく、災害のように根こそぎにするわけでもない。
彼はただ……『死』そのもの。
「僕の名前は『夢幻惨殺』。死に成り果てた、世界でただ一つの概念」
「ひっ!!」
彼の名乗りを聞く前に、私は窓から飛び出していた。
直視するのが恐怖だった。眼光は鋭くないのに次の瞬間には殺されているイメージしかない。会話しているだけなのにいつの間にか自分の胸元にナイフを突き立てられている光景しか見えない。触れられれば切り裂かれ、笑えば圧死し、目を細めただけで八つ裂きにされている。
そんなモノと……同じ空間にいられるわけがないっ!
三階の高さから飛び降りたけど、私は問題なく着地する。あのひとがくれた力はどこまで私を『人外』にしているのか、私自身にも分からない。それでも…彼に比べれば私なんてヒヨッコもいいところだ。でも、幸い外には私が産みだした黒い獣がたくさんいる。襲撃者しか襲わないように『設定』してあるから、確実に逃げ切れる。
はずだった。
「……………え?」
たくさんいるはずの黒い獣は、ほとんど消え去ってしまっていた。
確実に五百匹はいたはずなのに、どこかに行ってしまった。
乾いた風が、私の頬を撫でていく。
その風に吹かれて、三つ編みが揺れている。
細い顔立ちに鋭い眼光。手には革のグローブ。その体を包んでいるのは真っ黒なライダースーツ。靴は問答無用に頑丈そうな、鉄骨の入った安全靴。
その目はどこまでも真っ直ぐに私を射抜いていた。
「……是非は問わぬ。汝は道を踏み違えた。それだけのことだ」
彼女は、ゆっくりと歩み寄ってくる。
たったそれだけのことなのに……呼吸すら、ままならない。
「我が名はシェラ。シェラ=オウガ。鬼の末裔にして最強の修羅。この拳一つで世界の悪と戦うことを決意した、最初にして最後の女」
その名を、私は知っていた。
いや、私の内部にいる存在が、その名前に恐怖していた。
絶望殺しの修羅。同族殺しにして最後の傑作。破壊鬼。
黒の魔法使い。
畏怖されるべき名前に、私の恐怖は許容量を越えた。
「いやあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私の中からなにかが引きずり出される。
目を開けると、黒の獣が二十匹ほど、私を守るように囲んでいた。
彼女は足を止める。そして、ゆっくりとファイティングポーズをとった。
「……そうか。いや、それは正解だ。抗うことを否定はすまい」
魔法使いはそう言って口許を緩めて………。
そして、彼女の姿が消失した。
バジュッ! と音が響く。私は一瞬なにが起こったのか分からなかった。
それでも、一瞬で理解する。
二十を越える黒い獣の頭部が一瞬にして都合五匹ぶん、消し飛んだ。時間にしてコンマ一秒にも満たない刹那。その黒い獣が完全に消える前に、今度は別の五匹が腕と足を打ちぬかれ、胸に穴を開けられ、頭を吹き飛ばされる。
そこでようやく私は納得した。そして、彼女が魔法使いであることを悟った。
彼女は、己の身体だけでその破壊を成しえていた。
単純なことだ。それはただの技術。殴った瞬間に手を引き衝撃を逃がす。回転を利用して威力を増す。魔術的な要素に対しては呪布を仕込んだグローブで対応する。それだけのことを実践しているに過ぎない。
ただ……彼女でなくてはその威力にならないだけ。
なんらかの能力を有しているわけでもなく、肉体的にしか完成しなかった彼女は、完璧な技術と血で血を洗う修練と幾千の戦いの果てに……誰も届かない領域へと辿り着いた。
故に黒。ひたすらに『戦い』を求め続け、究極の境地に至った哀れな鬼が………彼女だった。
「せやァァァァァァッ!!」
黒の魔法使いは、最後の五匹に拳を打ち込んだ。
軽い足運びが技術によって音速を越え、ひ弱な一撃が技巧によって必殺となる。五体を拳によって解体された黒い獣は、私の前で綺麗に消え去った。
唖然としている私の前に、彼女は傷一つ負わずに立っていた。
「……足掻くことを否定はしない。それでも、私は足掻きもろともお前を叩き潰す」
殺意に満ちた瞳に嘘はなく、その言葉が事実であることを告げる。
助からない。私は………そう思った。
でも、この期に及んでも、私は。
「………………しにたく、ない」
そう思っていた。ひとを殺してしまったのに、そう願っていた。
醜く、醜悪に、なにをしてでも死にたくなかった。
死ぬのがこわかった。
しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくない。
なんで、わたしなんだろう。どうして、わたしが。
死ななきゃいけなかったんだろう?
不意、だった。
優しい声が、聞こえた。
「みんなそう思ってるんだよ、きっと」
私はゆっくりと上を振り向いて、
振り向く前に、ぶつんと意識が途切れた。
突き刺した剣に感触はない。
透はむくりと起き上がって、手ごたえを確かめて倒れた少女から黒塗りの短刀を引き抜いた。
そして、血が一切付いていない剣を鞘に収めた。
「ん、終わったぞ。後はファリエルに任せるべ」
「………全く、お前というやつは」
魔法使いは苦笑して、透の右足を軽く蹴った。それだけで透の顔が苦痛に歪む。
「っっっっっッ!? ばっかおまえっ、なにすんだっ! 殺す気か!?」
「馬鹿はお前だ。大体からして無茶しすぎなんだよ」
あの瞬間。シェラ=オウガは死にたくないと言った彼女を殺そうとした。
それはいくらでも繰り返してきたこと。助命を乞う敵を、彼女は何人も殺してきた。救う手段がなく、破壊しかできなかったから、躊躇なく痛みを与えずに殺してきた。
しかし、それはある意味慈悲に近い。このまま生き長らえても、彼女は自分のやったことを後悔する。どんな理由があろうと、誰も責めないとしても……『人殺し』を、絶対に、死ぬよりも辛く後悔するだろう。
だが……殺されそうになっている少女を見て、『夢幻惨殺』は。
躊躇なく、三階から飛び降りた。
重力加速度に従って体は自由落下する。それでも幾千の戦いを潜り抜けてきた彼だ。三階くらいの高さから落ちようが助かる自信はあった。しかし、その時はなにも考えず、『彼女』に向かって飛び降りたのだ。
針の穴を通すような正確さで首筋にナイフを突き立て、即座にナイフから手を離し、『彼女』に衝突しないように体を捻ってかわした。着地の時に足をひどく打ちつけてしまったが、その程度は大したことはない。むしろ死ななかったのが不思議なくらいだ。
足を抱えて涙目になっている透を、真は怒鳴りつけた。
「三階って言っても下手すると死ぬんだぞっ! 分かってるのか!?」
「あーあー、分かってるよ。さすがのオレもちょっと死を覚悟した」
「全然分かってないだろっ!」
「……分かってるってば。ちゃんと死なないように計算して飛び降りたんだから。僕はそのあたりは抜かりはないんでね」
「………………へ?」
沈黙が落ちる。
真は呆気に取られて透を見つめ、透は汗を一筋流していた。
次第に……真の頬が緩んでいく。
「………ぼく?」
「いや、その……高校卒業するまではその口調で、今でも時々」
「お前、普段斜に構えてるくせに、本気になると……『ぼく』?」
「……うるせーな。クセだから仕方ねーだろ」
不機嫌な子供のようにふて腐れながら、透は足を引きずりながら屈み込んで、ゆっくりと倒れた少女を抱き上げた。
少女は、規則正しく呼吸していた。それを見て透は安堵の溜息を洩らす。
「どうやら……上手くいったみてーだな」
「………………馬鹿だな、お前」
「うるせ」
透は『無業散水』で少女の『侵食』を殺した、つまり這い上がる『絶望』の根を概念殺しの剣で根こそぎ全て断ち切ったということである。
ついでに、体の中の『病巣』も、全部綺麗に排除しておいた。
真はゆっくりと溜息をついて、ほとんど透を睨みつけるように見つめる。
その目は、魔法使いシェラ=オウガとしての目だった。
「透。はっきり言っておくが、人殺しっていうのは『重い』。そりゃ人間生きてこそ意味があるとは思うが、この少女がその重圧に耐えられると思うのか?」
「ンなことオレが知るか。絶望に負けたのはこいつの責任だし、人を殺したのもこいつの責任だ。オレはちょっとだけ気紛れを起こしてこいつの『侵食』と『病巣』を殺しただけのこった。後のことは知らねェよ」
そう言って、透は肩をすくめた。
いつも通りに、軽く、皮肉げに。
「オレは残酷だからな。足掻いてもがいて苦しんで生きていくことを強制するんだよ。どんな理由があったところで……誰でも、救われる権利を持ってるんだからな」
「…………馬鹿」
真は呆れたように溜息をつくと、透に抱えられた少女の体を、肩に抱え上げた。
まるで少女を荷物のように扱いながら、真は苦笑していた。
「仕方ない。ここはお前の流儀に従っておいてやる」
「…………助かる」
「気にするな。貸しが一つ増えるだけだ」
「…………それが一番困るんだけどな」
気弱な言葉ににやりとした笑いを返して、真はジャンプした。
一階から三階までを一足飛び。体を翻して、開いた窓から部屋の中に入った。
人間では絶対にありえない跳躍に、透は口許を引きつらせる。
「あれが技術って言われても……そんなもん、嘘臭いとしか言いようがないよなぁ」
「嘘臭くて悪かったな」
「うおっ!?」
いつの間にか、真が隣で不機嫌そうな顔をしていた。
「ちょ、お前、一体どうやって……」
「普通に階段を降りて『全速』でここまで戻って来た。それだけのことだ。気配と足音は消しておいたが」
「………あー、なるほど」
そんなこと言われても、納得できるはずもない。真は慣性とかそういったものを一切無視しているのだ。それを『技術』の一言で片付けられてはかなわない。
結局『ま、こいつのやることだ。なんでもありだろ』などと失礼極まる納得をしながら、透は不機嫌そうな真の肩に手を回した。
「っ! い、いきなりなにをするっ!?」
真の顔が一瞬でまっかに染まる。そんな彼女を楽しげに見下ろしながら、透はにやりと笑った。
「足に罅が入ってるから滅茶苦茶痛い。肩貸せ」
「い、いや、でも……ちょっと」
「……ったく。精神年齢は中学生か。もーちっとこういうのに免疫つけろ」
「だって……その、こういうの、透は恥かしくないのか?」
「恥かしいさ。ただ、オレは嘘吐きなんでね。自分を誤魔化すのなんざ平気だよ」
彼女のことは大好きで。同時に憎んでいて、それでも愛している。
みんなのことは大嫌いで。同時に大切で、だからこそ愛している。
歪んではいるが、それもまた愛情だと透は思っている。
『自分が一番どうでもいい』のだから、自分以外の全てを愛することは容易い。自分以外の全てが光り輝いているのだから、それを守るために戦うことだってできる。
透は、優しい嘘を信じているから。
本当に、このセカイはあまりにも美しく、暖かい。
それが死という概念を受け入れた青年が刻んだ、嘘吐きの最初の言葉。
嘘を真に受けて……青年は走り続けてきた。
後悔など腐るほどして、涙も枯れ果てた。手は血に汚れ、足は泥にまみれ、体は傷だらけで、心はとうの昔に壊滅している。
それがどうした? お前の『愛』がその程度で止まるわけがなかろう。
真っ直ぐな言葉を教わったのは、猫の師からである。
二つの馬鹿げた嘘を信じて、彼は走ってきた。後悔もたくさんしてきたけど、その生き方は……決して顔を伏せるものではなかったと信じられる。
「絶望がある限り希望は途切れず、我はぬくもりのために戦おう……ってな」
「なんか言ったか?」
「んにゃ、独り言だよ」
口許を緩めながら、透は微笑んだ。微笑みながら、一つ悪戯を思いつく。
「ところでシェラ」
「ん?」
「意外と胸あるな、お前」
ふにゅり、とした感触が手の平に伝わる。
ゴッ。
その報いが来たのは、コンマ一秒にも満たない刹那。
真っ赤に染めた頬と、涙ぐんだ瞳。拳が出たのはおそらく反射的だろう。
「きゃああああああああああああああああああああっ!!」
初めて聞く女性らしい悲鳴が耳に届く。
(いや、悲鳴よりも拳の方が速いって………どうなんだ?)
完璧に法則を無視しまくった拳を受けて、透はがっくりと気を失った。
黒の獣は全て掃討され、街にはトーコが出した被害の他は損害ゼロ。他の場所にいた『黒獣』も透や真、私たち以外の神族に倒され消えていった。
そして、夜明けが訪れる。待ちに待った朝日が昇りつつあった。
「いやー今回はやばかったねぇ。いくら私でも危機一髪だったよ」
トーコ……いや、戦いは終わったから燈琥か。燈琥は朝日を見つめながら、そんなことを口走る。
………まぁ、確かにやばかった。死ぬかと思った。
「よく考えなくても、お前が原因なんだけどな」
「あっはっは。根に持っちゃいやん☆」
「……いやんはやめろ。大人なんだから」
ゆっくりと溜息をつきながら、私は決心する。
もう二度とこいつと一緒に戦うまい。大量破壊兵器の隣で戦うこと、これすなわち『死』以外の何者でもない。……というか、こいつ、狙いが大雑把すぎるのだ。
本気で死を覚悟したのは…………あの烏と戦った時以来か。
「………………」
「どしたの? ファリエル」
少し考えて、私は違和感を口にする。
「……燈琥。今回の黒獣、なにかおかしくなかったか? 手加減というか……攻め方が大雑把だったような。燈琥が家を離れて壱檎が到着するまでに隙はあっただろうし、波状攻撃にしては戦果がお粗末だ。なにより……被害が少なすぎる」
私達を例外として、『黒獣』を相手にするのはただの神族には荷が重いはず。なのに、今届いた報告は『損害ゼロ』という、ほとんど奇蹟のようなものだ。
前回といい今回といい……どうも手を抜かれている気がするのだ。
私の言葉に、燈琥は目を細めて口を開く。
「っていうか、なかったんだと思うよ」
「やけに確信ありげだな?」
「………………まぁね」
燈琥は肩をすくめて、なにやら話しづらそうに語る。
「星野さんが眠る前に、色々と話を聞いたの。それで、最近マスターから聞いたことも踏まえて………ファリエルには話しておこうと思って」
「……言ってくれ」
嫌な予感がする。冷汗が、理由もなく背中を伝う。
燈琥は容赦なく、きっぱりと言った。
「星野さんが出会ったのは、エグンと名乗る一人の人間。そして、最近鳥神族から除名されたのは……ヴリトラ=エグン=アルグルラという三頭の烏」
ゾクリ、と背中を冷たいものが這い上がる。
そんな………馬鹿な。
まさか……まさか、あいつが『ODIO』に?
犬と猫の全てを敵に回しても兄さまは『ODIO』を嫌っていた。絶望とか悲しみとか、そういったものを嫌っていて、だからあいつらも……嫌っていた、のに。
兄さまの嫌っているものは自分たちも嫌いだと断言して、それでも『ニンジン』だけはどうしても嫌いになれないと……そう、言ってたのに。
「理由は一切不明。消息も不明。でも彼らは間違いなく絶望に『堕ちた』。ヴリトラ=エグン=アルグルラが『ODIO』かどうかは不明だけど、最有力だと見て間違いないと思う。現在、神族全体で指名手配中」
「…………そうか」
唇を噛み締める。目を閉じて、私はゆっくりと息を吐いた。
ココロが痛い。軋みを上げて、ぐらついて、それでも、私は。
立って……歩かなければならない。
転んでも、傷だらけになって、死ぬことになったとしても。
それでも、私は……。私は、戦って。
「ここには、誰もいないよ」
「………………」
「誰もいないから、ファリエルがさぼってもばれない」
魔法使いはそう言って、にっこりと笑った。
優しい言葉は、いつだって単純で強くて、一番心に響く。
………だから私は、唇を噛み締めて、双剣を握り締めて、耐えた。
泣きそうになるのを、必死で堪えた。
そんな私を、燈琥は苦笑して見つめていた。
「……意地っ張りだね、ファリエルは。泣いちゃった方が楽になるのに」
「……ああ、そうだな……」
認めながら、私は無理矢理に笑顔を作った。
「私のせいで兄は死んだ。私のせいで夫は死ぬ。私のせいで友人も死につつある。私のせいで子供が死んだ。全部……私のせいだ」
私だけが無様に、こうやって生き残った。傷だらけになりながらも、こうやって生き残っている。
「……それでも、私は、彼らのことを愛していた」
だからこそ、思う。
生きているのならば、せめてその命を、誰かのために使いたい。
贖罪ではなく、後悔ではなく、生きている誰かのために、使おうと思った。
生きている大切な誰かのために、精一杯の『愛』を。ぬくもりを与えようと思った。
それが………下らない自己満足だとしても、前に進もうと誓ったのだ。
あの馬鹿弟子はそうやって生きていたのだから。
口許を緩めて、私は歩き出す。
「さて、それじゃあ家に帰るぞ。私はものすごく眠い」
「そだね。今日だけはパートも全部お休みにして、夕方まで眠っちゃおうかな」
「いや、行けよ」
「だってあのババァ冗談抜きでむかつくんだもんっ!」
「……だもんはやめろ。大人なんだから……」
私は朝焼けの中で微笑を浮かべる。
朝日はいつも通り、それでもなによりも美しく、私達を照らし出していた。
さて、それじゃあ……今日のところはこれにて閉幕。
家に帰ってぐっすりと、眠ることにしよう。
追記
山口家はなんだか騒がしいのでククロの犬小屋で眠ることにした。二日に一度はシャンプーされているので不潔な匂いはしない。まあまあ満足できる環境だ。今日はかなり気温が上がるということらしいのだが、この犬小屋は日陰に入っているので涼しい。まったく、ククロは贅沢ものだなぁ、などと思いながらぐっすりと眠りについた。
ちなみに、ククロは散歩の後、犬小屋にも入れず紐の長さの関係で日陰にも入れずに熱中症になりかけたのだが……それはまた、別の話。
猫と愛の証明者(裏)END
そのあと。
それはまるで悪夢のようでもあり、どんなものも届かない地獄のようでもあった。
朝の光で少女は目覚めて、自分の体が完全に完治していることを悟った。
息を吸っても激痛はなく、体を動かしても不自由はない。ただ、目だけは見えない。
ほんの少しのペナルティを残して、死神と破壊者はどこかに行ってしまった。
「………どうすれば、いいんだろう」
窓の外をぼんやりと見ながら、少女はやるせない気持ちを抱えていた。
どんな事情があれ、自分は人を一人殺した。その医者が自分を実験動物のように扱っていたような外道だとしても……人の形をしたものを、殺してしまったのだ。
それは、許される罪ではない。罪悪感で今にも……崩れ落ちそうなほどに。
「私が好きな男ならこう言うわ。『それすらも抱えて生きていけ』ってね」
声が響いて、少女ははっと顔を上げた。
いつの間にか、眼鏡をかけた女がベッドの脇に備え付けてある安物の椅子に腰かけて、文庫本を読んでいる。OLが着てそうなかっちりとしたスーツに、肩まで伸ばした艶やかな髪。女性らしい凹凸には欠けているが、それはとても彼女にふさわしいという気がした。
「一応、自己紹介しておく。私の名前は■■■■。時間と空間を騙して生きる大嘘吐き」
にやり、と皮肉げに笑いながら、女は少女の肩に手を置いた。
「さてと、今日私がここに来た理由は至って簡単。弟に頼まれて、優秀な人材を引き抜きに来たのよ」
「………えっと、引き抜き、ですか?」
「うん、そう。で……君は私のお眼鏡に叶ったってわけ」
にやにやと笑いながら、嘘吐きと名乗った女は少女を直視する。
「さて、一応聞いておくけど、私の誘いに乗る気はない? 高給にスリルとサスペンス。努力と根性さえ忘れなければ、かなりいい職場になると思うわ。……ひとごろしなんて、本当にささいでどーでもいいことになるくらいに……ね」
「人殺しがささいなことなんて……」
「どうでもいいわよ。むしろそいつは死んで正解。貴女みたいに先もあって将来性もあって、才能も抜群な人の邪魔をするならなおさら。そういう『害虫』は本気で死ぬべきよ」
きっぱりと非道いことを言って、女は問いかける。
「貴女、あんな外道に負けていいの? このまま人生あきらめる? それならそれで構わないけど、そうなれば、貴女は本当の負け犬としてこのまま生き続けることになるわよ」
「…………っ」
拳を握り締める。心のどこかに、封じ込めていたものが甦る。
それは……『悔しい』という感情。誰もが持つ『奮起』の力。
女の言葉が、嘘吐きと言い放った人間のただの一言が、少女の『本音』を引きずり出す。
「……嫌だ。そんなの、絶対に、嫌だ」
「それじゃあ……どうする?」
女の挑発的な言葉に、少女は涙を浮かべながら手を差し出した。
「強くして。あなたが悪魔でも構わない。あんな無様なのはもう嫌。私は……強くなりたい。あんな外道に負けないくらい……強くなりたいっ!」
其の決意は、どこまでも尊いものだった。
女は軽く微笑して、強く、どこまでも力強く少女の手を握り返した。
「この先は地獄で天国よ。諦めることをやめた存在だけが、生き残れる」
力強く、少女は女を見返す。
「諦めるのはもう飽きた。私は、強くなる。人を殺したことなんて鼻で笑い飛ばせるくらいに……強く、優しくなってやる」
「……上等よ。それでこそ、『世界』を良くするにふさわしい」
にやり、と女は皮肉げに笑って、ぱちんと指を鳴らした。
朝。病室を覗き込んだ看護士は、目を見開いて慌てて走り出した。
病室には誰もいない。動けなかったはずの少女はどこにもいない。
ただ、桃色のカーテンが風で揺れているだけだった。
と、いうわけで愛の物語最終章でございます。いやー、正義とは裏腹にこの物語は本気でキツかったです。しかし描ききれて満足といった作者でありますが、読者様に満足していただけるのが一番の幸せでございます。
さて、次回は『猫とナンパと少年たち』。一騒動終えた後の話なので完全パロディです。ご期待ください。