ホワイトハッピー
「光輝!明日は楽しみだね…!」
私は樹里。彼氏の光輝と明日、結婚式を掲げるのだ。
「そうだな、樹里。ブーケトスの準備は出来てるか?確か花は…と言ったか」
「そうそう!綺麗な花でさ、光輝も好きだと思うんだー!」
カチ、と、時計がなる。
「ピンクのドレスも着るんだ…!薔薇もつけてさ!」
「光輝も、おしゃれしていい結婚式にしようね!」
「ああ、そうだな。お互い頑張ろう。
でも、もうこんな時間じゃないか。明日のためにも、もう寝よう。」
そうねと返して踵も返す。
「天佑。明日楽しみすぎて眠れないかも。」
幼馴染の天佑は、時には相談相手だ。小さい頃からの仲なので、ふたりとも良い関係と言える。
「確かに。料理も出るんだよな?楽しみだな。」
「サーモンのムニエルね!ブーケトス、絶対見てよね!花も気合い入れて選んだんだから。」
「ふふ。ああ、見てやるよ。おやすみ。」
そう言ってメッセージアプリを閉じ、布団に身を沈める。
こんな他愛もない時間を過ごしていたのなら、さっさと出ていく荷造りでもしておけば可愛い愛のある時間だったのに。
翌日
「ど、どうかな?」
私はピンクのドレスに身を包み、照れくさそうに聞いてみた。
「あ、ああ…!似合ってる!似合っているよ樹里!」
目を潤ませているみたい。良かった。
「光輝も、タキシード似合って…うわっ!」
ふわふわの雲のようなフリルを身にまとった、茶髪の女性が飛び込んできた。
「まあ、ごめんなさい!…樹里さん?」
天使のようなさらさらの茶髪に、鳥の羽のように長いまつ毛。それに包まれた鐘のみたいな大きな瞳。
「紫…さん?あなた、ここ控え室よ?」
なんで、この人がここにいるの?
ただの、お客様でしょ?
「ひどい!お客様だなんて!私が主役よ?」
「ゆ、紫!いい加減にしないか?!」
…は?
一体何があったと言うの。
「あ、彼女さん、ご紹介遅れました〜。私、紫と言いまーす。光輝くんの妻、で〜す♡」
光輝の顔が、天使の羽のように真っ白だ。
「ち、ち違うんだ樹里!これはこいつが…!」
「まあ、ひどいわ!私と貴方の子も、お腹にいるのに!」
わざとらしく声を張り上げているのは、あまりにも滑稽で、見ているだけで涙が出てくる。
「樹里!聞いているのか?!誤解だ!誤解、なんだ…」
こいつの声を聞くにも、私の耳はもったいない。
「へえ、ああ。そうなのね。へえ……」
面白くない。
やっと可愛げもない私が、結婚できると思っていたのに。
私が主役なのに。なんでこの女が介入するの?
「出ていって。」
「…え?」
震える声を振り絞って出たのは、蚊の鳴くような音だけだった。
「出ていって、と…言っているでしょう!?」
「光輝!何があったか説明して!」
控え室で落ち着いて話を聞いてみると、やはりそれは浮気とも言え、不倫とも呼べる、まさしく裏切りだった。
「た、たった一夜の過ちで…お酒の流れで、つい…」
「つい、じゃないわよ。そこの紫さんとやらも、声を出してみたらどう?これ以上ない馬鹿な頭が固まってしまったらどうするの?私は知らないわよ。」
私の剣幕に脅され、流石の紫も威勢を吹どばしてしまったようだった。
「い、いえ…そんな…」
あーもう…へえ、そう。
「結婚は白紙にするわ。もちろん結婚式もキャンセルで。…ああ、お客様へのお詫びは…こいつの口座からあげるわ。」
ブーケトスなんて白々しい。
私はドレスを脱いで、足早に去った。
(…不味い。)
先程まで美味しい記憶ばかりだった。
でも、やはり不味いと上書きされてしまうんだな。
「とりあえず、天佑に電話かけるか。」
良き友人のあいつなら、こんな訳も聞いてくれるだろうか。
「…天佑。ごめん。いつものあの店に来てくれる?」
合意の声が聞こえると、私はぷちりと通話を切った。
「でさぁ、あいつ、信じられなくない?だって、妻だ彼女だってほざいてたんだよ?」
酒って人を操るのがうまい。
何もかも忘れさせてくれる。
(…マリオネットみたい。)
あいつらのしょぼい劇で踊らされてさ。
「いつもの店って落ち着くな。」
そう天佑が呟いた気がする。
「…でも飲みすぎだ。水飲め。…あんなことがあったのだから、当たり前か。もう少し、俺がよく見ていれば…」
「天佑のせいじゃないよ。」
こんな心優しい青年のせいにするのは違うよな。
「全部…あいつらが悪いんだから。」
ただ、心の底からの叫びを、誰かに聞いてもらえて嬉しい。
「あ、可愛いガチャガチャがある。」
目に止まったのは、派手なパッケージのガチャ台だった。
「ガチャガチャか…懐かしいな。子供の時やったってけか。…俺が奢るから一緒にやってみないか?」
確かに、ある意味思い出にもなるかもね。
そう思いやってみると、安っぽいゴテゴテのお飾りがついた、小さいヘアゴムが出てきた。
「お、ヘアゴム?案外可愛いじゃん。俺はブレスレット。」
へへと笑う天佑。
元気づけてくれているのがよくわかって、心が痛い。
鉛の口を開いて言った。
「…終電逃すし、もう帰ろうか。」
「そうだな。」
地獄は帰ってからだった。
誰もいない、薄暗いマンションで。
一人で泣いた。枕を濡らして。
私だってこんなふうになりたくてなったわけじゃないんだよ。
一通り泣けば眠れる。そう思って目を閉じた。
「…んん…」
もう朝、今日も仕事に行かないと。
そう思って目を開けると、そこには見知らぬ草原が広がっていた。
「……ここ、どこ?」
目を擦る。見間違いか……?
「目を覚ましてよかった!」
「うわぁ!」
突然声のした方向をむいた。
金髪の、革のベルトをした青年が立っていた。
「歩いていたら人が倒れていてびっくりしたよ。僕はレイ。君、名前は?」
「…私はジュリ。…ここどこなの?」
「ここは、ストロベイリーだよ。地名。しらないの?」
心底おかしいという顔をされた。
聞いたことも無い地名。見慣れない草原。
「ここから少し歩くと町が見えるよ。ポーションや杖、剣も大体は買えるから、まずはそこへ。」
ぽ、ポーション?杖?剣?
聞いたこともない。私の辞書にない。
「君、魔法は使えないよね?」
魔法。全てのピースがハマった。
ここは…地球じゃない。
異世界?
「私、そんなの……知らない。」




