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解決編――あるいは、読者からの感想

 土曜日の高校。

 部室棟の一室に、二人の女子高生がいる。


「ど、どうかな?」

 ショートカットでボーイッシュなアキラが、不安そうな表情で尋ねる。

 それに対して、

「そうねぇ……」

 備品のノートPCのディスプレイを険しい表情で見ていたナツキは、

「とりあえず……五つあるうちの半分近くが、全然『読者への挑戦』になってないわね」

 とつぶやいた。

「うっ」

 自分でも気にしていたことをいきなり言われてしまったアキラは、顔を歪めて硬直する。だが、そこでナツキがすぐに、

「でも、それは大した問題じゃないわ。まあ、許容範囲って言っていいと思う」

 と言ってくれたことで、「ホッ」と安堵の息を吐いて脱力した。


 優しい微笑みを浮かべて、ナツキは続ける。

「逆に、私が特に素晴らしいと思ったところは、この作品がちゃんと筋を通しているってこと……つまり、完全に『読者への挑戦』だけで構成されている、ってところね」

「あ、それ⁉ それは、私も絶対必須だと思ったから、頑張ったんだ!」

「その選択は、大正解よ」

 ナツキがそこで、見とれるほどの美しい仕草でロングヘアーをかきあげる。サラサラと流れる彼女の髪が、一本一本輝いているようだった。

「確かに、ミステリの本編だけじゃなくて解決編まで『読者への挑戦』で書くというのは、かなり難しいことだと思う。でも、それから逃げずにちゃんと書ききったことは、素直に評価出来るわ。

 だって、もしもここで、解決編だけは『読者への挑戦』じゃなくて別の書き方――例えば、いきなり女子高生二人の会話劇とかにしてお茶を濁したりしたら、そこまでの努力が台無し……というより、完全に興ざめだったもの」

「だよねだよねー! スポーツとか部活とか……とりあえず女子高生にやらせとけばいいとか思ってる作品って、普通にキショいよねー! 考えてるの、絶対おっさんだし!」


 親しそうに話すアキラとナツキ。彼女たちは、この高校のミステリ研究会の部員である。今日はその活動の一環として、アキラが自作のミステリ小説を、部長のナツキに見せているところだった。

「――じゃあ、この小説も研究会名義のアカウントで投稿サイトにアップしておくわね」

「あ、うん!」

「これで、今年に入ってから、もう十作目かしら? あなたが精力的に作品を上げてくれるから、部活動報告書に書く内容に困らなくて、助かってるわ」

「いやいやー。私って部活以外に趣味少ないから、学校から帰っても小説書くくらいしかやることないんだよねー」

「ふふ……陸上部からあなたを引き抜いた私の目は、間違ってなかったってことね」

 そう言って、なれた様子でPCを操作して、アキラの書いた小説のデータを投稿サイトに登録していくナツキ。

「……」

 そんなナツキのパイプ椅子ごしの背中を、すぐ近くで見ているアキラ。部室には他にも椅子があるが、彼女はここにやってきて小説データを渡してから、ずっと立ったままだった。


「ところで……ナツキは、どのへんで『真相』分かった?」

 二人きりの室内で、しかも休日の校舎。他の部活は今日は活動していないらしく、周囲は静まり返っている。

 そのため、独り言のようなアキラのそのつぶやきも、確実にナツキのもとに届いたようだ。

「そうね……」

 アキラに背を向けたまま、PCのキーボードを叩きながら――今は小説のキャッチコピーを入力しているところのようだ――、ナツキは答えた。

「まず最初に気になったのは、『探偵小説』って言葉かしら」

「あ、それ?」

「推理小説でもミステリーでもなく、探偵小説……って。一体、いつの時代よ? それも、仰々しい文体の中ならまだ分からなくもないけど。もっと素が出てきた軽い文体の中でも、探偵小説って書いてあるわよね? それは、すごい違和感があったわ」

「うんうん。それは、作者の想定通りの違和感……つまり伏線です!」

 自分の書いた小説が自分の思ったように読まれるのは、作者にとっての何よりの喜び、ということなのだろうか。アキラは、満足そうに頷いていた。

 ナツキは続ける。

「他にも……小説を『書く』、じゃなくて『作る』って表現していたり。議論(ディベート)とか論理(ロジック)みたいな、無意味でうざったいだけのルビとか。『エラなんちゃら』とか……。

 そういう、いくつかのあからさまな違和感に気づいた状態で、改めてこの小説のタイトル……つまり、『かぎりなく挑戦的なミステリ』を見たら、真相は分かったわ」

「あー、はいはいはい!」

 作中に散りばめた伏線に、ちゃんと気づいてもらえた。それもやはり、作者のアキラを喜ばせることのようだ。


 一方で、ナツキの方も少し調子に乗ってきたようだ。今はキーを叩く手を止め、クライマックスで真相を暴く名探偵のように、得意げな表情で喋っていた。

「そもそも、本編で四つ……『(本当の)読者への挑戦』を入れても、五つしか『挑戦』がないのに……『かぎりなく』って言葉はちょっと大げさよね? 本当に『限りなく挑戦的』なのなら、もっと延々と『挑戦』続けるべきでしょう? 漢字で『限りなく』じゃなくて、ひらがななのも、やっぱり違和感だし。

 で、確信出来たわけよ。この小説は別に、限りなく挑戦的、ってわけじゃないってこと。そうじゃなくて……『かぎりなく』の意味はそのまま、『か、ぎ、り、がない』ってこと……。文章の中に『か』と『ぎ』と『り』が使われていない、って意味なんだってことにね」


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