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スターチス  作者: 温眉彩芭
ヤマネコピカリャ
1/6

1.田舎の生活


〈登場人物〉

守島 朝陽(17)

元気で明るく優しい男子高校生。

優しすぎるがゆえに気を使い過ぎてしまう性格

漠然と大学進学に向けて勉強しているが進路に悩んでいる。長野県在住。父は巨峰農家。

母方の祖母の家がある西表島へ帰省の為やってきた。


守島祐大 守島奈々

夕陽の父と母。父は巨峰農家。母は看護師。



『では、明日から夏休みに入る。羽目を外しすぎないように!』


閉め切った窓。

教室にはクーラーが効いてきて、とても心地よい。しかし、それも一歩外に出ると廊下からじっとりとまとわりつくような暑さが感じられる。

長野県にある小さな高校は、今日から夏休みだ。


友達と一緒に下駄箱へ向かう。

今日から夏休みだ。

僕は高校2年生だが部活はしていない。

中学生の時は、バスケをしていたけれど怪我をしてからしなくなってしまった。

高校は地元の進学校の特進学科へ進学。

東京が近いだけあって、田舎の長野県でもそこそこにレベルが高い。そのせいか自然と部活よりも予備校や塾に通い、勉強メインの生活になっていた。その合間にこうやって友人と遊びに行くのが束の間の休息になっている。

勉強はするけれど、特に目標があるわけではない。とにかく良い大学へ行こうとだけ考えている。何をしたいか、どんな仕事へ就きたいか、何の学部へ進学するか何も決めていない。

特に得意な科目もなければ、苦手な科目もない。

成績は中の上。親は人並みに勉強さえしていれば何も言ってこなかった。

学校の玄関から屋外へ出ると、日本アルプスが一望できる校庭へ涼しい風が吹いてくる。

田舎で避暑地でもある長野県は他県と比べると比較的涼しい。夜なら冷房なしで眠ることもできる。

特に住んでいる地域は、標高が高いので、他より涼しい。

けれど、茂った空気と高い気温、清々しいほどの青空、大きな入道雲はここでも健在だ。

涼しいと言っても所詮は気休めの涼しさなのだ。


友達はみんな今日から夏休みでワクワクしている。遊びに行く者もいれば、予備校や塾に通う者もいる。

けど、後者の割合の方が多い。


僕の実家は葡萄農家でシャインマスカットや長野パープルといった品種を育てている。収穫は秋だが、秋へ向けての葡萄育成の為に夏は大忙しだ。一房一房にジベリレン処理をしていく。

雑草狩や葡萄の間引き、水やりなど仕事は多岐に渡る。200ヘクタールの敷地面積をもつ農場は、この時期に毎年人を雇い仕事に追われている。1日10時間労働はザラだ。もちろん僕も夏休み期間は農場の手伝いに駆り出されるだろう。

クラスメイトも家が葡萄農家、林檎農家、胡桃農家が多く家の手伝いをする人が多い。なので、夏休みに家の手伝いに追われることは珍しいことではない。


自転車置き場に行き、ヘルメットを被りマウンテンバイクに跨る。

これは両親が入学祝いに買ってくれた当時の最新モデルのマウンテンバイク。学校に行くにはこれが欠かせない。これに乗って片道2時間かけて通学している。

通学路は山道や峡谷を通っている為、アップダウンが激しく、都会住みの人たちには厳しいだろう。

東京に住んでる従姉妹にこの話をしたらドン引きされた。

けれど、通学路の風景は結構好きだった。

空いっぱいに広がる青空、山々から溢れる緑の木々、峡谷から溢れ出てくる涼しい空気を自転車に乗って走っていると身体全身で受け止めることができて何とも言えない心地よさだった。

田舎住みで窮屈だと思う一方で、こういう体験が普段からできるのは田舎住みの利点といえるだろう。

2時間弱山道を降ったり登ったりを繰り返していると、家まで到着した。

父さんの家との敷地内同居をしており、田舎特有の大きな家に住んでる。庭も広い。田舎だから‥。

玄関の引き戸を開けて、家の中に入る。

誰がいるかわからないが一応言っておく。


『ただいま』

『おかえりー!暑いねえーアイス食べる?』


リビングから声がした。よく通る大きな声が特徴的なのですぐに分かる。母親だ。

リビングに入ると、ソファに寝そべりながらアイスを食べていた。


『あれ、母さん今日は仕事休み?』

『そうなの〜。昼間は1人で優雅に映画行ってきたわよ。』


母さんは地域にある総合病院で看護師をしている。

昨日の夜いなくて、今日は昼から映画に行って来たということは、どうやら夜勤明けのようだ。


『優雅だね。父さんは農作業でしょ?』

『それは父さんの仕事でしょ。私は夜勤明けで疲れているんだから仕方ありません!』

『やっぱり。』


荷物をリビングこソファの手前において、キッチンに行き、手を洗ってうがいをして、キャクターがプリントしてあるガラスのコップに冷蔵庫から出した麦茶を注ぐ。

家に帰ると手洗いうがいをする習慣は看護師である母親に幼少期から耳にタコができるぐらいしつこく言われたことで今では無意識に行うルーティンになっていた。

冷凍庫からアイスを取り出し、口の中に入れて扇風機の前に行く。いくら涼しいのは言え、2時間マウンテンバイクを漕ぎ続けると流石に体も暑い。


『今日から夏休みだっけ?羨ましい』

『そうだよ。夏期講習と農作業でほとんど潰れそうだけどね』

『そうね〜、そういえば進路は決まってるの?』

『あ、なに急に』

『何ってもう2年でしょ?』

『んー‥まあ、大学進学かな』

『どこの大学?』

『いや、東京で大学探す予定‥?』

『えー行きたいとこあるの?』

『別に。今から探す。』

『はー、なんでよ〜家出たいの?』

『もういいだろ。部屋に戻るわ!』

『ちょっとー!』


最近は、学校でも家でも進路の話をされることが多い。

そのたびに逃げてしまう。

前述したように、勉強はするけれど、特に目標があるわけではない。とにかく良い大学へ行こうとだけ考えている。何をしたいか、どんな仕事へ就きたいか、何の学部へ進学するか何も決めていないからだ。


日が落ちると、父さん達が仕事を終えて帰って来た。

父さんとおじいちゃんとおばあちゃんだ。

母さんはとても料理上手だ。

いつも夕食はお父さんとお母さんとおばあちゃんとおじいちゃんと僕とみんなでお母さんの手料理を食べている。特におばあちゃんとおじいちゃんはいつもお母さんの料理をべた褒めしている。 

食卓につくと、父さんが冷えた缶ビールを朝から冷やしておいたグラスに注いでいる。

僕に気がつくとニカッと笑った。


『朝陽は今日から夏休みか!』

『うん』

『友達との予定は入れているのか?』

『まあ、ちょこちょことね』

『そうか、夏期講習も頑張るんだぞー!』

『分かってるって!』

『あ、あとな。夏期講習終わったらおばあちゃんの家に行って来て欲しいんだよ。』

『え?』

『1週間ほど行ってきて欲しいんだよ』


おばあちゃんの家とは、母さん方の祖母のことでその家は西表島だ。

『何で急に?』

『なんでって、おばあちゃんが朝陽に会いたがってるのよ。孫の顔が見たいわーって。』


母さんがエピロンを外しながらアイランドキッチンから出てきた。


『でも、農作業の手伝いとかもあるし‥』

『そんなのはじいちゃん達に任せておきなさい!』

『そうよ〜じいちゃんとばあちゃんだってまだまだ衰えていないんだから。そんなことより向こうのおばあさまに顔を見せてあげるのも大切な仕事よ。』

『じいちゃんとばあちゃんもそう言ってるし、仕事はどうにでもなる。朝陽がいなくたって、今年は短期アルバイトも多めに雇う予定だし全然回るだろう。そんな心配は子どもはしなくていいんだ。』

『なら良いけど‥』

『んじゃ!夏期講習が終わったら、行ってきなさいね。向こうでも沢山お手伝いしてあげてね。』

『分かったよ』


半ば無理やり。

家を出された僕は、祖母の待つ西表島へ行くことになった。


そして、月日が流れ、夏期講習が全て終了した。

朝早くからリュックを背負い、母さんから渡された祖母へのお土産をキャリーバックに沢山詰め込んで、東京行きの電車に乗り込んだ。

夏休みに入ったせいか無人駅には、誰もいなかった。


東京から飛行機で南ぬ島石垣空港へ。

そこからフェリーに乗り換えて20分。

西表島に到着した。

西表島は、イリオモテヤマネコがいる場所といけば大抵は通じる。大体2400人ぐらいの人がのんびり暮らしている。

亜熱帯気候で自然が多く残る田舎の島だ。

都会に疲れた大人達が自然と戯れにやってくる。


フェリー降り場で祖母が手を振っていた。



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