47 チキン南蛮を作る
批判を恐れずに言えば、オレは数ある鳥料理の中でもチキン南蛮が一番うまいと思っている。
元々も唐揚げが大好きだったのもあるが、なんといってもタルタルソースの存在が大きい。子どもの頃なんかは、タルタルソースが食べたいが故にレストランではかならずエビフライを注文するくらいには大好きだった。
そんな大好きな唐揚げとタルタルソースの融合。それがチキン南蛮だった。そりゃ大好きになるわけだよね。
最近はどこのお店でも食べられるからチキン南蛮に困ることはなくなったが、一昔前まではわざわざ宮崎まで行ってチキン南蛮のレシピの研究するくらいには大好きだ。
そして、オレは独自の自分が一番おいしいと感じられるチキン南蛮のレシピを完成させた。そのおかげで異世界でも大好きなチキン南蛮が食べられる。それだけで料理人の道を選んでよかったと思えるよ。
「オリジナルは鶏むね肉を使うが……」
そう呟きながら取り出したのは、ブライン液という塩と砂糖を水に溶かした液体に漬け込んだ鳥もも肉だ。鶏むね肉で作ってもおいしいが、オレはもも肉派なのだ。
まずは鳥もも肉をブライン液から取り出し、よく水気を切る。
ブライン液に漬けておくと、鳥肉に下味が付いて、お肉がジューシーになる効果がある。オレのこだわりポイントだ。
ちなみにこのブライン液、どんな鳥料理にも応用できる。鳥肉を手に入れたら、ブライン液に漬ける習慣を付けるといいかもしれない。
次に鳥肉に衣を付けるのだが、オレのチキン南蛮のレシピはここが違う。本場のチキン南蛮のレシピでは小麦粉、卵と順番に付けていくが、オレはこれをバッター液にすることで一体化した。
バッター液というのは、言ってしまえば天ぷらの衣溶液だ。それに鳥肉をくぐらせ、片栗粉を付ける。
小麦粉ではなく片栗粉なのもポイントだ。この方が噛んだ時にザクザクの食感になる。
「さて、揚げるぞ!」
そしてついに揚げる。わざわざ唐揚げとは別の鍋を出して用意した低温の油だ。こいつで鳥肉の中までじっくり揚げていく。
「よいしょっと」
だいたい五分くらい揚げたら、いったん油から取り出す。そして今すぐにでも食べてしまいたい衝動を我慢しながら五分ほど待つ。
「まだだ。まだ慌てるような時間じゃない……」
そう自分に言い聞かせて、余熱で鳥肉に火が通るのを待ったら――――。
「必殺! 二度揚げ!」
今度はわざわざ別の鍋に用意した高温油で一気にきつね色になるまで揚げていく。きつね色に染まった鳥肉はもう垂涎の逸品だが、このままでは終われない。
「まだだ! まだ終わらんよ!」
こんがり揚げ終わった鳥肉をオレは甘酢タレにぶち込んだ!
バチバチと弾ける音が心地いいぜ!
甘酢タレは、油淋鶏のものとは配分が違うので一から作った物だ。
「もういいか?」
甘酢タレから鳥肉を引き上げ、まな板の上に置く。このままでは大きくて食べにくいのでカットしていくのだが――――。
ザクッ!
「おぉ……!」
衣のザクザク感が切っていて気持ちがいいな。
お皿の上にキャベツの千切りを乗せ、鳥肉を乗せる。だが、まだこいつはチキン南蛮じゃない。チキン南蛮をチキン南蛮たらしめるものそれが――――!
「出でよ! タルタルそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっす!」
どんっ! と収納魔法から取り出したのは、銀色の大きなボウルだ。その中には、タルタルソースがたっぷり入っている。
いやぁ、好き過ぎて一気に大量に作っちゃったよね。これと同じ物があと五つもあるとか自分でも狂気的だと思う。
でも仕方ないじゃん! 虎族のみんなに振る舞おうと思ったら、これでも不安な量なんだ!
「こいつを鳥肉にライドおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」
甘酢タレに染まった鳥肉にカラフルな粒粒が入った白いクリームが乗っかる。
「完成だ!」
ついに、ついにチキン南蛮が完成した! 我ながら完璧だ!
「バルタザールはさっきからどうしたんだい?」
「テンション高いわねえ」
「たまにああなるよねえ」
「あんなんじゃお嫁に来てくれる子も減っちまうんじゃないのかい?」
「この料理の腕なら問題ないでしょ」
「そりゃそうね! 旦那と交換してほしいくらいだわ!」
「「「「「あはははははははははははははは!」」」」」
なんだか物騒な話が聞こえるが、何も聞こえなかったフリをして、オレはチキン南蛮の皿を持ってフアナの元に急ぐのだった。
「フアナ! こいつがチキン南蛮だ!」
「ちきんなんばん? ッ! たるたるそーす!」
フアナがチキン南蛮を見た瞬間、タルタルソースに反応する。この前、白身魚のフライにタルタルソースをかけて出したら気に入ってくれたらしい。
まぁ、気持ちはわからんでもない。オレも子どもの頃タルタルソースが大好きだったからな!
あまりに大好き過ぎて、タルタルソースがなければフライを食べなかったくらい筋金入りだったくらいだ。
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