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46 油淋鶏

「唐揚げできたよー!」

「お待ちどうさん!」

「待ってました!」

「熱々だあああ!」


 虎族の奥様たちの練度の高い連携によって、着実にみんなの胃袋に唐揚げを送り届けること一時間近く。その連携は一部の隙もないほど完成されていた。さすが、毎日井戸端会議をしているだけのことはあるな。相手の呼吸を無意識にわかっているのだろう。これは敵に回したら手強そうだ。


 まぁ、そんなオレも井戸端会議のメンバーだが。


 井戸端会議ってちょっとおばさん臭いイメージがあったんだけど、実際にやってみると楽しいんだ。誰々の旦那が若い子に鼻の下伸ばしてたとかいうしょうもない話から、どこどこの店で特売がやってるとか有意義な情報まで幅広く手に入る。


 もう一瞬で情報通になれるのだ。


 そして意外なことに、奥様たちの一番の関心は、若者の恋愛事情だったりする。誰と誰がいい感じとか、誰と誰がこの間デートに行ったとか、とにかく何でも知っているのだ。


 一度、なんでそんなに詳しいのか訊いてみたら、木の上からだと下がよく見えるという話だった。


 オレも気を付けよう。


 そんなことを思いながら、オレは大量の長ネギ、ニンニクをみじん切りにしていく。油淋鶏のタレを作っているのだ。


 実は、意外なことにあの油淋鶏の魅惑のタレは、材料さえ揃っていたらけっこう簡単に作れる。


 まずは農場直送の長ネギとニンニクをみじん切りにし、ショウガをおろす。そこに醤油、酢、砂糖、ごま油、蜂蜜を加えてよく混ぜ合わせたら完成だ。これを唐揚げにかけるだけで油淋鶏に早変わりである。


 オレはさっそく唐揚げにタレをかけて油淋鶏を完成させると、フアナたちの待つテーブルへと持って行く。


「お待たせ。油淋鶏ができたよ」

「ゆーりんちー?」


 おかしいな。唐揚げ好きのフアナなら喜ぶと思ったんだけど……。だが、油淋鶏をよく見ると、長ネギのみじん切りがどっさり乗っかって、肝心の唐揚げが見えなくなっていた。それでか。


「このネギの下に唐揚げが隠れてるんだ。言うなれば、唐揚げに甘酸っぱいネギソースをかけた感じだな」

「おいしい?」

「おいしいぞ」

「じゃあ、たべる」

「ワシにも寄越せ!」

「はいはい。フェリシエンヌたちも食べるか?」

「はい。もちろんいただきますわ」

「私もいただきます」


 テーブルの真ん中に油淋鶏を置くと、瞬く間になくなった。素早いな。


「あふっ!?」


 フアナが油淋鶏に噛み付くが、その熱さに怯んだように口を離した。だが、それでも果敢に噛み付いて食べている。なんだか熱々の焼き魚を食べる猫みたいだ。かわいい。


「どうだ、うまいか?」

「うまうま」


 やったぜ! フアナの「うまうま」が出た! うまうまはたまにしか出ないから貴重なのだ。


「このタレ、ショウユが入っているな! 甘酸っぱいタレにも豊かな風味を与えてくれる! そして、なんといってもネギだ! なんだこの非常識な量のネギは! だが、これがうまい! ネギの青臭さをまったく感じないのは、酢と少量のニンニク、そしてごま油のおかげか? これも実にショウユにマッチしている! 酢とショウユがこんなにも合うとは! この酸味を帯びたショウユは新時代の幕開けを意味しているぞ!」


 してないが?


 ホアキンは舌が鋭いし食に対する知識も豊富だが、語り過ぎるのが玉に瑕だな。もっと静かに味わって食べてくれ。


「おいしい……。この程よい塩味を感じる爽やかな甘酸っぱいソースはマルブランシェ王国にはありませんでしたわ。初めての味です。このソースが熱々の唐揚げと合わさって、まるでコクのあるスープを食べたような満足感が……!」

「はふはふ……!?」


 こっちではフェリシエンヌが怖い顔をして油淋鶏を見つめているし、エステルがまるで普通の年頃の娘のような朗らかな笑みを見せていた。


 フェリシエンヌも語り癖があるのだろうか? 第二のホアキンかもしれない。


 でも、二人とも着眼点が違ってなんだかおもしろいな。


「うめええええええええええええええええええええええ!?」

「なんだこれ!? 最高かよ!?」

「肉のくせにタレのせいでうまいのにさっぱりしてやがる!?」

「おいしい! もっと! もっと!」

「はいはい。唐揚げにタレをかけると、こんなにも違う顔を見せるのね」

「私これ好き! いくらでも食べれちゃう!」

「揚げ物なのにこんなにおいしいなんて……。バルタザールが来てから確実に太ったわ……。まぁ、食べるけど!」


 他の虎族たちにも油淋鶏は大好評みたいだな。みんなの笑顔が見れてオレもハッピーだ。


 みんながあまりにもおいしいと言うからか、お手伝いしてくれている奥様たちも調理を交代しながら食べてるみたいだ。中には木の板にレシピを書いている奥様までいる。異国どころか異世界の地で油淋鶏が鳥料理の定番になる日も近いかもしれない。


「さて、次はお待ちかねのチキン南蛮を作ってくるよ」


 油淋鶏でこんなに喜んでくれるなら、きっとチキン南蛮も受け入れてもらえるはずだ!

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