43 ご褒美
「そんななまくらじゃあこの先不安だろ? この剣を使ってみたらどうだ? 見た目は気に入らないかもしれないが、相手を麻痺にできる使い勝手のいい武器だぞ? それに、今ならなんとフアナとお揃いだ!」
「フェリ、おそろい」
「くっ……! わ、わかりました……」
さすがにフェリシエンヌも上目遣いのフアナに勝てなかったのか、フアナからムカデ剣を受け取った。
ゲームをしていたオレにとっては、武器を代えることでそんな大袈裟なと思わなくもない。より良い武器を手に入れたら、武器を交換するのが当たり前だ。場合によっては、敵の弱点に合わせて武器を交換することもあった。
だが、オレの中にはバルタザールの記憶もある。それによると、戦士は使い慣れた武器を手放すのを嫌がるらしい。武器をとっかえひっかえ代えるのは異端のようだ。フェリシエンヌが武器を代えることを渋る気持ちもわからなくもない。
まぁ、それもフアナのおかげで解決したが。さすがフアナだね。フアナはただぷりちーなだけではないのだ。
「それじゃあ、ボスも倒したし、帰るか。なるべくモンスターを掃討しながら帰ろう」
「ん」
「わかりましたわ」
「かしこまりました」
そんなわけで、ダンジョンの帰り道でもモンスターをバッタバッタと倒しながら出口を目指した。
モンスターの数も明らかに最初の頃よりは減っている。さすがにこれだけ倒せばスタンピードの心配はないだろう。
そんなことを思いながらダンジョンを歩き回り、もうすぐ出口という時だった。
「ばるたざーる、あれ」
「ん?」
フアナが洞窟の天井を指差していた。
「あれは……!」
それはピカピカツルツルした金属のスライムだった。メタルスライムだ。それがダンジョンの天井に張り付いている。
それを発見した瞬間、オレは駆け出していた。
メタルスライムは逃げ足が速い。確実に一撃で仕留めなくては!
「豪炎斬! 二連!」
オレの左右の手に持つ剣が炎を巻き上げる。だが、不思議と手は熱くない。
オレは素早くジャンプすると同時にメタルスライムを×の字に切り刻む。炎を纏った二剣は、まるで熱したナイフでバターを切るようにメタルスライムを四分割する。
「ん!?」
「体が、熱い!?」
「こ、これは!?」
ボフンッと白い煙となったメタルスライム。その瞬間、背後からフアナたちの困惑した声が聞こえた。
振り返ると、顔を赤くして自分の体を抱いているフアナたちがいた。どうしたんだろう?
メタルスライムは、稀にダンジョンに出現するレアポップモンスターだ。倒すと大量の経験値を貰えるボーナスモンスターだ。アホみたいに防御力が高いし、すぐに逃げる。しかも逃げ足が速いのでたまにしか倒せないが、倒した時の恩恵は計り知れない。
オレは感じなかったけど、きっとフアナたちは一気にレベルが上がったことだろう。
あれか? 大量の経験値を得て、一気にレベルアップして、それを体の熱として感じているのだろうか?
謎だ。
「大丈夫か?」
「ん」
「ええ。なんだか体が軽くなって、不思議と調子がいいくらいです」
「ご心配には及びません」
「そうか」
まぁ、レベルが上がれば調子よくもなるか。
「じゃあ、もう一回潜ってもいいよな!」
武器も新調したし、レベルアップもしたなら、今回はもっと楽にモンスターを倒せるようになるだろう。それに、このダンジョンにはまだまだ出会っていないレアポップモンスターがいる。そいつらを倒してレア装備をゲットしたいところだ。
「え?」
「今、何と言いましたか……?」
「それは……」
フアナたちがまるで信じられないものを見たような顔でオレを見ていた。
「スタンピードが起きたら大変だろ? 念のためもう一回ダンジョンに潜ろうと思ったんだが……」
「ん。わかった……」
「そう、ですわね……」
「かしこまりました……」
フアナたちは気が乗らなそうだが、スタンピードは絶対に阻止したいのか頷いてくれた。
「がんばれ、がんばれ。終わったら唐揚げだぞー」
「からあげ! がんばる」
「そのからあげというのは何でしょう?」
「おいしい」
フアナが手でグットマークを作って大きく頷く。
「おいしい? 料理の名前でしょうか?」
そういえば、フェリシエンヌたちはまだ唐揚げを知らないか。
「ああ。鶏肉を揚げた料理だな。うまいぞ?」
ああそうだ。唐揚げにするなら、肉を漬け込んでおいた方がいいよな。
「一度ダンジョンを出たら休憩にするか。オレも唐揚げの仕込みをしたいし」
オーソドックスな醤油味に塩味、油淋鶏なんかにしてもいいな。たしかタルタルソースの作り置きもあったし、チキン南蛮とかもいいかもしれない。
「あなたが作るのですね。それは期待できます!」
「ありがとうございます。ご相伴に与ります」
フェリシエンヌたちもオレの料理の腕を認めてくれたみたいだな。特にエステルは最初は警戒して半信半疑だったのに、すっかりオレの料理を楽しみにしている。
ダンジョン攻略もいいけど、やっぱりオレは料理で人を喜ばせたいんだなぁ。
「からあげ♪ からあげ♪ からあげ♪」
よくわからない唐揚げダンスをし始めたフアナを見て、オレは無意識に口角が吊り上がっていくのだった。
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