41 ラスボスの魔法
ボス部屋の床に突如として広がった深淵の闇。
闇が現れたその瞬間、ズズズッと二十メートルはあろうかというタイラントセンチピードの体が闇へと沈んでいく。タイラントセンチピードは、闇から逃れようと必死に体をくねらせていた。
だが、タイラントセンチピードの体が沈み込んでいくスピードは変わらない。術多は無駄。
そして、ボス部屋の床に闇に広がった闇に動きがあった。鎖だ。大きな漆黒の鎖がタイラントセンチピードの体を縛り上げ、闇へと引きずり込んでいく。
鎖の中には、先端が大きな楔になっている物もあり、タイラントセンチピードの体中に突き刺さり、深淵へと誘う。
もうピクリとも動けないほど鎖に縛られたタイラントセンチピード。そして、大ムカデに引導を渡す存在が顕現する。
それは大いなる影だ。
黒いボロボロのフードを被った三メートルほどの人影が唐突に現れる。その手には大きな黒い鎌を握っていた。もう見た目はまんま死神だ。
その死神が大きく鎌を振るう。
その瞬間、タイラントセンチピードが黒い炎に包まれ、ボロボロと崩れていく。
「GYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」
不快な断末魔を残して、タイラントセンチピードが崩壊し、深淵へと呑み込まれていった。
タイラントセンチピードが消えた後、忽然と死神も深淵の闇も消えてしまった。
「かっけー……」
オレはもう絶頂しそうなほど喜びに満ちていた。
だって、大好きなラスボス専用の魔法を自分の手で使えたんだよ? 厨二臭い? 知るか! この感動は言葉では言い表せないほどだ。
こんな凶悪な即死魔法、他ではなかなか使えないからね。大満足である。
そして、ニッコニコのオレは、フアナたちがどんな目でオレのことを見ているのか気が付くことはなかった。
◇
「チェインライトニング!」
フェリシエンヌの発動する雷魔法が、一般の雷魔法にはありえない変則的な動きでタイラントセンチピードに迫る。
そして、まるでサッカーボールのような雷の結界を作るようにタイラントセンチピードを囲む。
その後。まるでサッカーボールの頂点から頂点へ電撃が走り、タイラントセンチピードを連続で撃ち据えていく。
「ほう……」
フェリシエンヌのチェインライトニングが変則的な動きをしたのは、エステルの投げた暗器によるものだ。タイラントセンチピードを囲うように暗器を仕込み、その暗器の間を電撃が走っているのである。ゲームでもあったフェリシエンヌとエステルによる合体技だ。
この合体技を使えるということは、フェリシエンヌとエステルのレベルは二十五を超えているな。ゲームの時よりもレベルが大幅に上がっているのは、やっぱりこのダンジョンを攻略した成果だろう。
雷に撃たれてビクンビクンしているタイラントセンチピードに迫る白い影があった。フアナだ。
「えいっ!」
フアナの爪を模したナックルダスターが素早く上下からタイラントセンチピードの首を襲った。
「あれは、アギトか?」
おそらくフアナもスキルを使ったのだろう。タイラントセンチピードの首にピシピシッとヒビが入り、その首を断ち切った。
その瞬間、タイラントセンチピードの体が大きな白い煙となってボフンッと消える。どうやら倒したらしいな。
「おめでとう、よくやったな」
拍手をしながらフアナたちに近づいていくと、フアナたちはビクリッと体を震わせてオレを見て一歩後ろに下がった。
「え……?」
なんだか予想外の反応に傷付いてしまう。ここってみんなで困難を乗り越えて、一段と結束が固まるところじゃないの? みんなでハイタッチとかするところじゃないの? なんでそんなに怖い顔してるのさ?
「バルタザール、あなたは……。先ほどの魔法は何ですか……?」
「ん? ああ、プリズン・オブ・ジ・アビスのこと? オレのオリジナルスペルだよ。かっこいいでしょ?」
「かっこいい? あれが……?」
「かっこよくなかった? オレとか感動でヤバいよ。あの死神は一応ハデスって設定なんだけど、あの雄姿が身近で見れて恥ずかしながらイクかと思ったね。即死魔法だし、あんまり使えるところがなかったけど、やっと使えたよ」
「即死……魔法……」
まるで酸欠のように口をパクパクさせているフェリシエンヌと、大きく口を開けたまま固まっているエステル。
あれかな? さすがのボス戦で疲れちゃったのかな?
「こわい……」
ポツリと震えた声でフアナが呟いた。ギュッと寒さに耐えるように自分の体を抱くようにしてオレを潤んだ瞳で見上げてくる。
「え? こ、こわかった!? そっか……」
オレはかっこいいと思っていたんだけど、フアナ的には怖かったらしい。
あれかな? これも男性と女性の感性の違い的なやつ?
「ごめんよ、フアナ」
オレはフアナに一歩近づくと、フアナはオレを避けるように一歩下がった。
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