38 スタンダードの危機
「エステル、お前の使命はわかっているつもりだ。だが、今はパーティでの連携を優先した方がフェリシエンヌの生存率が上がると思うぞ?」
「はい……。申し訳ございません……」
「フェリシエンヌの方からも言っておいてくれ」
「はい」
「じゃあ、次は……」
オレがフアナを見ると、フアナは不思議そうに首をかしげた。
めちゃくちゃかわいくて許しちゃいそうだけど、それじゃあフアナが成長しない。
「フアナはゴブリンを見た瞬間走り出しただろ?」
「ん」
「それ自体は良いことだ。フアナは遠距離攻撃手段を持っていないからな。恐れずにゴブリンに向かっていったのは褒められるべきことだ」
「ん!」
フアナが得意げに胸を張る。そのドヤ顔、かわい過ぎて昇天しそうだ。スクショ魔法の開発が急がれるな。
「だが、後ろからフェリシエンヌの声が聞こえたはずだ。フェリシエンヌはファイアボールと叫んでいたからな。フアナは後ろから魔法が飛んでくることがわかったはずだ」
「ん」
「だったら、何が起こっても足を止めてはいけない。どんなにビックリしても、敵の前で止まってはいけないんだ」
「ん!」
コクリと頷くフアナ。わかってくれたらいいんだけど……。
まぁ、フアナは学校で戦闘訓練を受けているし、基本は大丈夫だろう。
それはフェリシエンヌやエステルにも言えることだな。
フェリシエンヌは戦争でも活躍しているし、エステルは徹底的に戦闘技術を叩き込まれている。今後はこんな凡ミスはしないだろう。少人数での戦闘にもすぐに慣れるはずだ。
「これで反省会は終わりだが、何か言っておきたいことがある者はいるか? ……ないようだな。各々味方のやりたいことを予想して、連携を意識して動いてみてくれ」
「ん」
「わかりました」
「かしこまりました」
まぁ、最初からは無理だろうけどね。でも、意識しているか否かでだいぶ変わると思う。
そして、オレたちはもう一度ダンジョンに潜る。するとすぐにゴブリンの一団と遭遇した。
「やる!」
ゴブリン発見と共にフアナが走り出す。
「アイスニードル!」
フェリシエンヌの魔法が発動し、計六本の拳大の氷柱がゴブリンたちを襲った。
「シッ!」
アイスニードルと並行するように飛び出したのがエステルだ。エステルが走り出すと同時に、二体のゴブリンが倒れる。よく見れば、エステルの暗器が喉から生えていた。
光源があるとはいえ、洞窟という薄暗い場所だと、艶消しされた黒い暗器は認知するのが難しいな。かなり凶悪だ。
「や!」
その時になって、フアナがゴブリンに接触した。爪を模したフアナのナックルダスターがゴブリンの喉に叩き込まれ、ゴブリンがボフンッと白い煙となって消えた。
フアナは止まらない。横から斬りかかってきた二体のゴブリンの剣をくるりと舞うように回避すると、回し蹴りを見舞い、その反動を利用して残ったゴブリンの胸にナックルダスターを叩き込む。
ボフンッと白い煙となったゴブリンを突っ切って戦場に現れたのはエステルだ。
「…………」
エステルは無言で残った一体のゴブリンの喉を暗器で掻っ切ると、フアナに蹴り飛ばされたゴブリンを踏み潰す。
これで戦闘は終了だ。
「お疲れ様。いいねー、いい戦闘だったよ」
ここがダンジョンじゃなければ大きな拍手を送りたいくらいだ。
「本当にここはダンジョンですのね。ゴブリンが白い煙に……」
今度はちゃんと確認する余裕ができたのだろう。フェリシエンヌが考え込むように腕を組んだ。
「ここは何と言うダンジョンなのでしょう? フアナは知っていますか?」
「知らない」
「フアナが知らないダンジョンですか。ダンジョンの傾向や出現モンスターがわかればと思ったのですが……」
「? フアナだけじゃない。みんな知らない」
「え? それはどういう……?」
困惑の表情を浮かべるフェリシエンヌにそろそろ答えを教えてやろう。
「このダンジョンの存在をウリンソン連邦は把握してないのだろう。それに、いくらダンジョンとはいえモンスターの数が異常だ。溢れる寸前かもしれん」
「あふれ……?」
オレの言葉に顔を険しくしたのはエステルだけだった。フアナもフェリシエンヌも頭の上にハテナマークを浮かべている。
「スタンピードと言えばわかるか? ダンジョンからモンスターが溢れ出る現象だ。長期間に渡って放置されたダンジョンに見られる特徴だな」
「ッ!?」
「そんな!? すぐに知らせなくては!」
フェリシエンヌの言葉にフアナが高速で頷いていた。
「待て、フェリシエンヌ」
「なぜ止めるのですか!?」
「ゴブリンの強さからして、このダンジョンはそこまで難易度の高いダンジョンではないと思われる。オレたちでモンスターを間引いてやれば問題ない。報告に戻っている間にスタンピードが起きたら大変だからな。モンスターを倒しきれなくても、できる限りモンスターを倒して、スタンピードまでの時間を稼いだ方がいい」
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