36 ダンジョン発見
「よーし。じゃあ、適当にこっちに行くか」
「ん」
「わかりましたわ」
「かしこまりました」
フアナ、フェリシエンヌ、エステルを連れて首都ウリンソンから西に向かう。適当とは言っているが、オレにはちゃんと目的地がある。ダンジョンだ。これからフアナたちを偶然を装ってダンジョンに案内する予定である。ダンジョンに入ってフアナを鍛えるのが目的だ。
オレは必至に戦争を阻止しようとしているが、これからの情勢がどうなるのか見えないところがある。いきなりダンジョンは少し危険かもしれないが、フアナのレベルを上げておいた方がいいだろう。
もしもの時に役に立つのは個人の能力だ。フアナにはそれを上げてもらう。
この先、いつもオレがフアナの傍にいられるとは限らないからな。
ウリンソン連邦にはいくつかダンジョンがあるのだが、これから向かうダンジョンは、まだウリンソン連邦が発見していないダンジョンになる。
ゲームでは、ダンジョンのモンスターが溢れ出て大暴れするスタンピードというイベントが起こるのだが、今回はそれを未然に防ぐ作戦だ。
スタンピードで犠牲者が出るからその前に問題を解決したいというのもあるが、一番の目的はゲーム通りにフェリシエンヌが都市の防衛戦で華々しい戦果を挙げることの阻止だ。
我ながら底意地の悪いことをすると思わなくもないが、これも戦争を起こさないためだ。許してほしい。
「こっちに行ってみよう」
オレは森の中を先陣を切ってフアナたちをダンジョンに誘導する。あくまで自然にだ。
「あれは……」
森が途切れた先に現れたのは、なにかありそうな丘だった。そこには大きな洞窟がぽっかりと口を開けており、その中は暗く深くまで続いているようだ。
やっと目的地に着いたな。
「あの洞窟に入ってみよう」
「ん。入る」
「暗いですね。魔法で明かりを確保しますか?」
「そうしよう。オレが使う」
大した反対もなく、オレは無事にダンジョンにフアナたちを案内することができた。洞窟の中を魔法の明かりで照らし、先に進もうとした時のことだった。
「ん!」
「います!」
フアナとエステルがほぼ同時に声をあげる。その声は鋭く、警戒の色があった。
その直後聞こえる意味の聞き取れない甲高い雄叫び。そして、複数の走る足音。洞窟の通路の先から魔法の明かりに照らされて姿を現したのは――――ッ!
人影は小さい。フアナと同じか小さいくらい。オレの腰くらいまでしかないだろう。まるで人間の子どものような人型。だが、断じて人間ではない。人間の肌は緑ではない。
頭髪はなく、コブのような小さなツノが生えている。体の大きさに比べて著しく大きい幅広の尖った耳。キラリと光る闇を見通すような金の目。その動向はヤギのように横長だ。
粗末な薄汚れた布の腰蓑をして、その手に持たれた錆の浮いた片手剣が鈍い輝きを放っていた。
「ゴブリン!」
ファンタジーモンスターの代名詞、ゴブリンだ! その数、見えているだけでも六!
「ファイアボール!」
真っ先に動いたのは意外にもフェリシエンヌだった。フェリシエンヌの魔法が発動し、洞窟を赤々と照らす火球が発射される。
そのファイアボールと並行するように走っていたのがフアナだ。
このままではマズい!
「プロテクション!」
オレはフアナに一時的に防御力を上げる魔法を発動する。ファイアボールとフアナの距離が近すぎる。ファイアボールは、命中と同時に小規模だが爆発を起こすのだ。このままではフアナにも被害が出かねない。
「シッ!」
鋭く空気を吐く音と共に、オレの耳には微かな飛翔音が飛び込んできた。エステルだ。エステルが無数の暗器を投げたのだ。
だが、今はタイミングが――――。
そう思っていると、ついに火球はフアナのすぐ横を走ると先頭のゴブリンに命中する。
ドカンッと空気を震わせてファイアボールが爆発する。顔を熱せられた空気が撫でていく。
ファイアボールの着弾点を見れば、先頭に立っていたゴブリンは上半身を失い、力なく下半身が洞窟に倒れる。
「よしっ!」
「よくねえ!」
ガッツポーズをとるフェリシエンヌに思わず叫ぶ。
最悪だ。ファイアボールの爆発の閃光と熱にフアナが足を止めてしまった。そんなに強くないゴブリンの前でも、さすがに棒立ちはいただけない。
そして、エステルの攻撃。エステルの投げた暗器の群れは、ファイアボールの爆発の衝撃を受けてその矛先が狂わされている。
その結果、本来ならゴブリンたちの急所を貫くはずだった暗器は、外れたり、当たったとしてもゴブリンたちに手傷を負わせるだけに終わった。
「くそっ!」
オレは苛立ちを吐き出すと、剣を抜き放って疾走する。
ラスボスの身体能力に物を言わせて、ゴブリンたちを片付けていく。
このままだとフアナが怪我しちゃうからね。
一応、オレだってフアナが怪我をするのは織り込み済みだ。だが、できるだけ意味のある怪我だといい。今回のような仲間に足を引っ張られるような怪我はしなくていいのだ。
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