34 パーティを組む
「わたくしは武術の方には少し自信があるのですけど、この荷運びやお掃除などはまったく自信がなくて、わたくしが邪魔になる未来しか見えません。仮に受けてもエステル任せになってしまいますし、それでは意味がありません」
「それはまぁ……」
たしかに、オレと違ってフェリシエンヌは根っからのお姫さまだからな。荷運びや掃除など自分でしたことないだろう。自信がないのは当たり前だ。
むしろ、判断力がある方だろう。それすらも気付けず、自分にできないクエストを受注して自爆するより何倍もいい。
フェリシエンヌは知る由もないだろうが、これはオレがゲームでも登場したフェリシエンヌ向きのクエストを先に受注して片付けてしまったのが原因だ。
自分でもかなり勝手なことを言っているなと思うが、オレのせいで困っているフェリシエンヌを見ているのは辛いものがある。
オレはべつにフェリシエンヌのことが嫌いなわけではないからね。フェリシエンヌもエステルも押しキャラだし、好きな部類だ。
ただ群を抜いてフアナが大好きというだけで。
フェリシエンヌが諦めてくれるのいいのだが……。
「なあ、これは無理だろうと思って訊くんだが……」
「何かしら?」
「マルブランシェ王国のことは忘れて、ここでただのフェリシエンヌとして生きていくことはできないか?」
「無理ね。わたくしは、自分の義務を放棄することができない。わたくしはマルブランシェ王国の姫としてしか生きられないわ」
「そうか……」
うぅーん……。だよなぁ。
オレもフェリシエンヌには難しいことはわかっていた。ただ、フェリシエンヌがまだ諦めていないということは、オレはこれからもフェリシエンヌの妨害をしなくちゃいけないということか。
なんだか考えるだけで憂鬱だが、やるしかない。
「提案なんだが、オレとパーティを組まないか?」
「あなたと?」
フェリシエンヌが予想外なことを聞いたと言わんばかりに不思議そうな顔をしていた。
「フェリシエンヌは協同組合のことをよくわかっていないだろ? オレもすべてを知っているわけじゃないが、教えられることはあると思う。他に組みたい奴が見つかったらいつでもパーティを解消するよ」
「それで、あなたにどんなメリットがあるの?」
フェリシエンヌの行動を誘導したい。だが、バカ正直にそんなことは言えない。
「罪滅ぼし、かな? 皇帝に命令されたこととはいえ、オレがフェリシエンヌたちの国を攻めた事実は変わらない。オレはもっとフェリシエンヌたちに責められると思ったんだ。だが、そうはしなかった。だから、オレはフェリシエンヌたちの役に立ちたい気持ちがある。無論、そんなことをしてもオレの罪が軽くなるとは思っていないが……」
よくもまぁそんな嘘がスラスラ言えるものだと自分を信じられなくなりそうだ。
「……それが、あなたの祖国を滅ぼすことだとしても?」
「オレにはランゲンバッハ帝国への思い入れはない。母上ももう死んでいるしな。母上と一緒に暮らした家も、もうない」
「そう……」
フェリシエンヌは一瞬だけ考えるようなそぶりを見せたが、右手を伸ばしてきた。
「よろしくお願いいたします、バルタザール。わたくしにはあなたの助けが必要です」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
オレはがっちりとフェリシエンヌと握手を交わす。後ろめたさを感じながら。
だが、これでフェリシエンヌの動向がわかるようになった。あとは感付かれないようにフェリシエンヌたちの行動を誘導するだけだ。
と、思ったのだが……。
「ずるい。フアナも一緒に行く」
「え?」
それは夕食でのことだった。
今夜は虎族の奥様たちに教えてもらったグレイターサーペントの串焼きにした。一口大に切って、串を打って塩を振って焼いただけなのだが、まるでブランド鶏のようなおいしさがあった。味も鶏肉に似ている。今度はあれを作ってみよう。
いや、今はそんなことはいい。問題はフアナだ。
「ずるいって言われてもなぁ。一緒に行くって、フアナも付いてくるのか?」
「ん」
フアナがコクリと頷いた。そんな姿もスクショしたいくらいかわいらしいが、ちょっと困ってしまう。これは予想外だ。
「でも、学校とかあるだろ?」
「ん。大丈夫」
「そうなの?」
「ん。フアナ、明日卒業する」
「え?」
そうだったの? 今までそんな話聞いたこともなかったぞ? そんな急に卒業とかできるものなの?
オレは確認を取るためにホアキンの方を見ると、ご機嫌な様子でグレイターサーペント串とビールを飲んでいた。
「ホアキン、フアナが卒業するって言ってるけど、本当なのか?」
「ん? ああ、卒業する気になったのか。フアナはもうすべての受業を終えているからな。いつでも試験に合格すれば卒業できるんだ」
「マジかよ……」
卒業試験っていつでも受けられるんだ……。自由度が高いと思っていたけど、オレの予想以上に自由な学校のようだ。
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