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32 ボロネーゼ②

「ん~♪ ん~♪」


 フアナがご機嫌に鼻歌を歌いながらボロネーゼにパルミジャーノ・レッジャーノを削っていく。フアナの手の中のチーズはゴリゴリ音を立てて小さくなり、ボロネーゼには雪が降ったかのようにチーズが覆いつくしていく。


「それくらいにしたらどうだ?」

「もうちょっと」


 ボロネーゼに落ちたチーズが熱で溶け、ふわりと甘さを含んだいい匂いをさせていた。


「よし」

「あはは……」


 結局、フアナは渡したチーズを使い切ってしまった。こうなることを見越して小さめの欠片を渡していてよかったよ。


「フェリシエンヌもチーズかけるか」

「はい、いただきます」

「お任せください」


 フェリシエンヌにチーズを渡そうとすると、間にエステルが入ってきた。フェリシエンヌの給仕は任せろということだろう。


「任せた」

「かしこまりました。姫様、お加減はいかがいたしましょう?」

「そうですね、たっぷりおねがいします」

「かしこまりました」


 フェリシエンヌもチーズが好きなのかな? さすがにフアナよりも常識的だが、多めの量のチーズをボロネーゼにかけていた。


「ちょっと待て、エステル。お前も席に着いて食べろ」


 そのままフェリシエンヌの後ろに控えるように待機しようとするエステルを呼び止めた。


「私は侍女ですので。後でいただきます」


 まぁ、エステルの言ってることは正しい。使用人が主人とテーブルを同じくすることは普通ない。だが――――。


「ウリンソン連邦まで来て宮廷作法もなにもないだろう? フェリシエンヌも言ってやれ」

「ですが……」

「そうですよ、エステル。あなたにはいつも感謝していますけど、今ぐらいはいいではないですか。それに、せっかくバルタザールがお料理を作ってくれたのです。温かいうちにいただきましょう」

「……姫様がそこまでおっしゃるのでしたら……」


 エステルがおずおずと席に着いた。


「よし」

「もう食べていい?」

「いいぞ」

「やった」


 フアナが高速でフォークを手に取ると、ザクッと雪の積もったボロネーゼ山に突き刺して食べていく。


「おいひい……!」


 それだけ言うと、猛然と食べ始めた。ズルズルと麺を啜らないか秘かに懸念していたのだが、フアナは啜るというよりフォークを使って口に詰め込むようにして食べていた。まぁ、音を鳴らすよりいいんだけど、ちょっと優雅とは言い難い。


「フアナ、ストップ、ストップ」

「ん?」

「こうやってスプーンとフォークを使ってスパゲッティをクルクル巻いて食べるんだ。ほら、丁度一口サイズになるだろ?」

「こう?」


 フアナがスパゲッティにフォークを突き刺して回すと、グルグルとボロネーゼ全体が回った。


 うん。よくある、よくある。欲張っちゃうとこうなるんだよなぁ。


「んー?」

「フアナ、こうして二、三本のスパゲッティをフォークで巻いていくと上手くいくよ」

「こう?」

「お! 上手い上手い! その調子だ」

「ふふふっ」


 フアナにスパゲッティの美しい食べ方を教えていると、向かいの席から笑い声が聞こえてきた。フェリシエンヌだ。


「どうしたの?」

「いえ、バルタザールがまるでフアナの父親のようだなと思いまして。ふふっ」

「ふーん。じゃあ、フェリはフアナのお母さん?」

「えっ!?」

「ごはっ!? げふっ!?」


 フアナの不意の言葉にフェリシエンヌは固まり、その隣ではエステルが盛大に咽ていた。


「フアナ、フェリシエンヌとはそう歳が離れてないからお姉ちゃんあたりにしておいたらどうだ? ついでにオレのこともお兄ちゃん枠にしてくれ」

「ん。そうする」


 フアナには拘りはなかったのか、すんなり頷いてくれた。


「フアナのお姉さまなんて素敵ですね」


 そう言って微笑むフェリシエンヌもまだ大丈夫。


 問題は盛大に咽ていたエステルだ。きっと脳内でオレとフェリシエンヌの結婚まで考えて咽たに違いない。もしかしたらできちゃった婚とか想像したかもしれない。オレはフェリシエンヌには興味がないのに。まったく。これでまた夜に裸で迫ってこられたら困るぞ?


「ボロネーゼと言いましたか? この料理はとてもおいしいですね。牛肉の深い味わいが赤い果物の持つ酸味とよくマッチしています。どうしてこんなにも深いコクのある味なのでしょう? 最後に加えていたあのスープがカギなのでしょうか? チーズとの相性も抜群です。チーズの質も高いですね。正直に言いまして、わたくしはバルタザールの作る料理に期待していませんでしたが、良い意味で予想を裏切られました。作ったのがあなたでなければ、専属料理人に指名しているところですよ」


 さすが、良い物を食べてきただろうフェリシエンヌは舌が肥えていて分析が鋭いな。


「好評なようでよかったよ。褒められたと思っておく」

「褒める? 違いますわ、絶賛しているのです! 素晴らしい腕前ですわ。これほどの料理の腕をどうやって――――」

「さあて、早く食べないとおかわりがなくなっちまうぞ?」

「え?」


 オレの指差す先では、フアナがいそいそとスパゲッティを持ってボロネーゼソースをスパゲッティにかけるところだった。

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