31 ボロネーゼ
「湿っぽい話はお終いだ。ちょっと早いが、オレはそろそろ昼飯を作るぞ」
結局、オレは話題を変えることでその場の空気を流すことにした。
今日は何にしようかなと考えながら野外厨房に向かっていると、フアナたちが付いてくる。
今日はボロネーゼにしよう。前に買ったパスタがあったはずだ。一度パンチェッタの様子も見たいしね。
まずは玉ねぎ、ニンジン、セロリをみじん切りにしていく。
「ここに来た時も驚きましたけど、本当にあなたが料理を作っているのですね」
「まあな」
フェリシエンヌがなんだか形容しがたい微妙な顔でオレを見ていた。
「ばるたざーる、料理上手い」
「たしかに手際はいいですけど……」
目の前で見てもまだ信じてなさそうなフェリシエンヌの声。
そういえば、フェリシエンヌたちはまだオレの料理を食べたことがなかったな。
「フェリシエンヌたちも食べるか?」
「よろしいのですか?」
「かまわない。作る手間はあまり変わらんからな」
「では……、いただきます」
「ああ」
オレはパンチェッタ細かく刻むと、鍋にオリーブオイルを引いて炒め始めた。刻んだ玉ねぎ、ニンジン、セロリを加えてさらに炒める。
そして、収納魔法を展開してある物を取り出した。それがこのために用意した荒く挽いた牛挽肉だ。
まぁ挽肉といっても、ウリンソン連邦では牛も食べるが、挽肉というものはまだ登場していないらしいので自分で包丁で叩いて作ったんだけどね。挽肉作るマシーンが欲しくてたまらなかったよ。
鍋に牛挽肉を投入。火が通ったら少しの赤ワインを入れる。
赤ワインのアルコールが飛んだら、湯剥きして収納しておいたトマトをぶち込む。
そしてここで登場するのが、スープストックだ。前に野菜と牛肉を煮込んで作った物だね。
お玉一杯分のスープストックを鍋に入れ、煮込んでいく。
「よし」
「完成?」
オレは目を輝かせているフアナに首を横に振って応えた。
「いや、これから煮込むからまだ時間がかかる」
「そっか……」
しょぼんとするフアナがかわい過ぎてどうにかなりそうだ!
実際、ここから時間がかかるのは本当だ。ここからボロネーゼはじっくり煮込むのである。水気がなくなってきたらスープストックと足し、また水気がなくなってきたらまたスープストックを足し、そのスープストックも水気が飛んできたらようやく完成である。たぶん、一時間くらいはかかる。
「オレはここを動けないけど、フアナたちはどこか行ってきてもいいんだぞ?」
「待ってる」
「そうか」
お腹でも空いてるのかな? けっこう朝食も食べていた気もするのだが。
今朝はフアナにリクエストされてフレンチトーストを作った。どうやらフアナは蜂蜜が好きなようだ。果物など、甘い物が豊富なウリンソン連邦だが、蜂蜜の暴力的な甘さには敵わないからな。
「いい匂いです。本当にお料理が得意なのですね。あなたはランゲンバッハ帝国の皇族でしょう? わたくしと同じく、料理などする機会があるとは思えないのですが……?」
鋭いことを訊いてくるなぁ。
だが、オレはこれに対する回答を事前に用意してあるのだ。
できる子だからね!
「オレが皇族に取り上げられたのは五歳の時だ。それまでは市井で生きていたからな。普通の皇子とは少し違う」
「そう、でしたわね……」
オレの生い立ちを思い出したのか、フェリシエンヌは暗い顔をして頷いた。
それからコトコト鍋を煮込みながら、フアナたちとしゃべること一時間ほど。パスタも茹で、やっとボロネーゼが完成した。
「できたぞー」
「いい匂い」
「まあ! とってもおいしそう!」
野外に置かれた丸太で作られたテーブルに盛り付けたボロネーゼを並べていく。
「うにょうにょ?」
「パスタっていう麵料理だ。上に乗ってるミートソースを絡めて食べるとうまいぞ」
「ん!」
さっそく丸太に座って食べ始めようとするフアナ。
「ちょっと待て」
「なに?」
「この料理は、チーズをかけるともっとおいしくなるんだ!」
「チーズ!」
フアナの目がまん丸になって輝き出す。そう。フアナはチーズが大好きなのだ。
元々は晩酌をするホアキンのつまみにパルミジャーノ・レッジャーノを出したのだが、あんまりにホアキンがおいしそうに食べるものだからフアナも食べると言い出した。
それからというもの、フアナは小腹が空いた時にはチーズを求めるようになった。
そして、ハンバーグにチーズをかけた時にフアナのチーズ好きは確定した。温められて溶けたチーズが、フアナの胃袋を鷲掴みにしたのである。
あれからのフアナはすごかったなぁ。なんにでもチーズをかけて食べていた。まぁ、チーズは何にかけてもだいたいおいしいので本人はすっかりチーズ信者だ。
「早く! 早く!」
「はいはい」
普段の穏やかな声ではなく、年相応の子どものようにオレを急かすフアナ。
オレはそんなフアナに苦笑すると、パルミジャーノ・レッジャーノの欠片とおろし器をフアナに渡したのだった。
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