23 おやすみまで
「これは……!」
「野菜、おいしい?」
サラダを食べたホアキンとフアナが驚いたような表情を浮かべてフォークを止めた。
「この白いソース……?」
「なんだこのクリーミーで優しい酸味のあるソースは!? まるでミルクを凝縮されしたような旨味だ! しかも、ご丁寧に毟った鶏肉まで入ってやがる! 苦い野菜が! あの苦い野菜たちがこんなにもおいしい! これは革命だぞ!?」
ホアキンはいちいち大袈裟だなぁ。
「これはシーザードレッシングって言うんだ。いいチーズが手に入ったから作ってみた」
「ちーず?」
「マヨネーズの時も思ったが、まさか野菜をおいしいと感じる日がくるとはな……」
「サラダおかわり」
「おぉ!」
まさか、フアナが自分からサラダをおかわりする日がくるとは!
さすがお子様にも大人気のシーザーサラダだな。
「待てフアナ! ワシもサラダを食うぞ!」
「早い者勝ち」
「果たして、次のおかわりが早いのはどっちかな?」
それからフアナとホアキンの二人は、競うようにサラダをおかわりしたのだった。こんなことなら、もうちょっとサラダを作っておくべきだったな。
◇
そんなこんなで夕食も無事に終わり、フアナに手伝ってもらって洗い物も終わった後はもう寝る時間だ。早いよね? 日本人の感覚が抜けきらないオレにとってはめちゃくちゃ早い。たぶん、まだ二十一時にもなっていないと思う。健康的過ぎる。
とはいえ、これにはちゃんと理由があるのだ。
ウリンソン連邦は発展した都市だが、まだ電気はない。よって、明かりを付けるなら魔法、もしくは火を着けるしかない。だが、一部を除いて獣人は魔法が苦手なのだ。虎族も魔法の苦手な種族である。
よって、明かりを付けようと思ったら蝋燭や薪などを燃やすしかない。だが、蝋燭は高級品で、薪だってタダじゃない。なので、夜は暗くなったら大人しく寝るというのが虎族の生活スタイルだ。
その代わり、朝はめちゃくちゃ早いんだけどね。
フアナとホアキンが寝てしまった後、オレは広場の竈を使って料理を作っていた。夜警の人たちに差し入れでも作ろうと思ったのである。作っているのは、肉たっぷりの豚汁とおにぎりだ。豚汁があるので、おにぎりはシンプルに塩むすびにした。
「よお! いい匂いだな?」
「おいしそうな匂いですね」
「腹が減っちまうぜ。食っていいのか?」
「なんか独特な匂いだな? 嗅いだことねえのに、なんだか懐かしくなりやがる」
しばらくすると、今朝も会った夜警のメンバーが集まってくる。夜警は三日で交代というルールらしいから、彼らは明日も夜警のはずだ。
「ああ、差し入れだよ。たくさん作ったから自由に食べてくれ。そっちの白いのはおにぎりっていうんだが、一人二つまでな」
「ありがてえ!」
言うや否や、さっそくとばかりに夜警のメンバーが深皿を盛って寸胴鍋に並び始めた。
「さっそく食べるのか?」
「ええ、こんなおいしそうな匂いですもの。我慢できません」
「姐さんに賛成だ!」
「うおおおおおお! し、沁みるぅううううううう! なんだこの味は!? 体中に沁み渡りやがる!」
「おいしい……。これなら野菜もおいしくいただけますね」
「なんでか死んだばあちゃん思い出したぜ」
オレは次々におかわりをする夜警メンバーを見て安堵した。やっぱり、味噌は挑戦的かなと思ったのだが、受け入れてくれたようでなによりだ。
しかし、和食を作っていると醤油や酒、味醂、味噌が不足してくるよなぁ。まだまだ十分蓄えがあると言っても、使い続ければいつかは無くなる。
ゲームでは、ずっと東にある島国、扶桑で販売されていたのだが、いつか行ってみるのもいいかもしれないな。
とはいえ、おそらく扶桑に行くよりも食材がなくなるのが先だ。
「自分で作ってみるのもありかもしれないなぁ」
元々醤油や味噌作りには興味があったし、知識もある。大豆も持っているから栽培も可能だ。米も栽培してもらおう。
大豆、米の栽培が軌道に乗ったら、醤油や味噌作りにチャレンジしてみるのも楽しそうだ。
「明日は農業区画に行ってみるかな。それじゃあ、オレはもう寝るよ」
「おう! 差し入れ、ありがとな!」
「おやすみなさい」
「また頼むぜ!」
夜警のメンバーに挨拶し、オレは族長の家へと入る。ホアキンのいびきを聞きながら、オレは居間に敷かれた藁の上に横になった。
「チクチク刺さるのが難儀だが、これも慣れると温かくていいものだな」
藁ベットは意外にもオレに合っていた。とはいえ、ずっとこのままというのも体を悪くしそうだ。近いうちにベッドを導入しないと。
「とはいえなぁ……。ポケットコイルのマットレスなんてないだろうし……」
なければ作ればいいか。こっちはドワーフの職人に頼んでみよう。きっとできるはずだ。
「なんだか、やることがいっぱいだな」
でも、間違いなくここでの生活は充実している。
「寝るか……」
目を閉じると、心地よい疲れを感じて、体が一気に重たくなったような気がした。
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