22 夕食の時間
「あ! フアナ、おかえりー!」
「ん。ただいま」
夕方になると、フアナたち学生が学校から帰ってくる。
「じゃあな、フアナ」
「またね!」
「ん」
帰ってきた学生たちは、競うように螺旋階段を上ると、樹上部分の自分たちの家へと帰っていった。きっとこれから各々の家で夕飯の時間だろう。
「これ」
フアナがオレに弁当箱を差し出してきた。
「おいしかった」
「野菜もちゃんと食べたか?」
「ん。おいしかった」
フアナがおいしいと言ってくれて、オレは天にも昇る気持ちだ。
「あと、これ」
「ん?」
フアナが差し出したのは、葉っぱに包まれた何かだった。
「何これ?」
「ん。ニワトリの肉。今日、授業で捌いた」
「へー」
察するに、ニワトリの解体でもしたのだろう。そして、捌いたお肉はお持ち帰り。けっこう太っ腹な学校だ。
「今日はもも肉で照り焼きにしようか」
「てりやき?」
「そう。おしいぞー」
「おいしい! 食べたい!」
「フアナは素直でかわいいなぁ」
「ん?」
おっと、つい本音が口から出てしまった。
「早く作る」
「あ、ああ」
ゲシゲシと軽く足を蹴られてしまった。
いきなりかわいいなんて言ってしまったからなぁ。たしかにフアナはかわいいけど、やっぱりいきなり言うのはよくなかったかな?
そう思ったのだけど、フアナの尻尾はご機嫌に立っていたのをオレは見逃さなかった。
「やっぱり素直でかわいい……」
「何か言った?」
「なんでもないよ」
「?」
オレはニヤけそうになる顔をなんとか引き締めて、調理を開始するのだった。
◇
「ととっと完成だ!」
「おおー」
フアナがパチパチと拍手してくれる。
結局、フアナはオレの調理過程をずっと見ていた。
まぁ、オレも料理動画とかずっと見ていられたからな。あんな感じなのかもしれない。
「よし、運ぶぞ!」
「ん」
フアナと一緒にフライパンやボウルごと料理を家に運んでいく。
「ホアキン! 料理ができたぞ!」
「おお! 待っていたぞ! この香しい香りは!? 角煮とは違うようだが、醤油ってのを使った料理か?」
「ああ、そこまでわかるのか」
「ワシの鼻を誤魔化すことなどできん」
ホアキンって舌や鼻が鋭いのか、意外にも料理に一家言あるタイプだ。ホアキンが自分で料理を作ればいいのにと思わなくもないのだが、族長の仕事と言うのは意外にも忙しいらしい。だから、フアナと二人で一緒に暮らしていた時は、屋台で料理を買うことが多かったようだ。
「さて、食うぞ」
オレは鶏もも肉の照り焼き、ささみを解し混ぜたサラダ、ご飯などを並べていく。
「今日はお米?」
「ああ、たくさん食べてくれ」
「ん。お米、甘くておいしい」
茶碗がないのでお皿にご飯を盛ってフアナと自分の前に置いた。
「ん? ワシの米がないぞ?」
「ホアキンは最初酒を飲むからな。欲しけりゃ後であげるよ。それより、これを試してみないか?」
「ほう? デカいな」
オレが取り出したのは、瓶に入った日本酒だ。やっぱり照り焼きには日本酒だろ。
「ひょっとして酒か?」
「ああ。いくつか種類があるからいろいろ試してみてくれ。料理との相性はいいと思うぞ」
「うむ。ではさっそく……」
風情がないがオレはホアキンの持つジョッキに日本酒を少しだけ入れた。
「これだけか?」
「試しと言っただろ? 気に入ったら言ってくれ。じゃあ、食べよう」
「うむ! 自然の恵みに感謝し、我らは糧を頂く。いただきます」
「「いただきます」」
家長であるホアキンが祝詞のようなものを唱え、それからご飯をいただく。まずはメインディッシュである鶏もも肉の照り焼きだ。
箸で持つとぷるぷる震える白い鶏肉。焼くことによってほどよく脂が溶け、ピカピカと光っている。その鶏肉に絡むのは、オレにとってはお馴染みの匂いをさせている照り焼きソースだ。
一気に頬張ると、ふにゃりと柔らかい食感とねっとりとした脂、そして甘じょっぱい照り焼きソースの味が優しく口の中に広がった。
「おいひい……」
フアナの「おいひい」が出た。
テーブルの向かいでは、フアナが目を閉じて歳に似合わない艶のある表情をしていた。
なんだかエッチだと感じるのは、オレの心が汚れているからだろうか?
「くぅーっ! やはりこの醤油というのは魔物だ! 角煮よりも甘いソースが、乙女の柔肌のような鶏肉の旨味を最大限引き出している! 鶏肉の焼き加減も素晴らしい! 程よく脂が抜け、ねっとりとした皮など芸術的だ! そして、口の中に照り焼きの風味が残っているうちに酒を飲む! うまい! 止まらぬ! 辛口の酒が甘くなった口の中に清涼感をもたらしてくれる! そして、また照り焼きが恋しくなる! なんだこの無限ループは!」
「叔父さん、うるさい」
「そうだね、ホアキンうるさいね。フアナもホアキンもサラダも食べてくれよ。こっちも自信作なんだ」
「いいだろう!」
「ん……」
うるさいホアキンとちょっぴり沈んでしまったフアナがサラダを手に取った。
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