18 朝の日課
「おはよう、ばるたざーる……。どうしたの?」
「ああ……。おはよう、フアナ……」
あれからなぜかカレーの配布会場と化してしまい、オレは泣く泣く三回目のカレーを作り直していた。
いやまぁ、村人たちにおいしく食べてもらえたからいいんだけどね。奥さんたちも一食分、作る労力が省けたわけだし……。
それに、お礼ということでかなりの量の食材を頂いちゃったし。
「今日すごくいい匂い。わくわく」
「もうちょっと待っててね。すぐできるから。ああ、できればホアキンを起こしてきてよ」
「叔父さんもう来る」
フアナが族長の家を指差すと、丁度ホアキンが姿を現した。まだ眠いのか、目を瞑って鼻をクンクンさせている姿はなんだかおかしくて笑えてくる。
「じゃあ、オレたちも食べようか」
「ん!」
「これ、テーブルに持って行って」
「ん」
フアナに手伝ってもらって、そのまま外に置かれたテーブルにカレーとナンを配膳していく。
「ホアキン、食べるぞ!」
「おぅ……」
まだ眠たそうなホアキンも椅子に座り、三人がテーブルに揃った。
「まず食べ方から説明しよう。このナンを手で千切って、こっちのカレーに付けて食べるんだ」
オレが手本として示したら、すぐにフアナとホアキンが食べ始めた。
「ぴりぴりする!? でも、おいしい!」
「こりゃまたすげー料理を出してきたな。スパイスを使った料理は食べたことがあるが、こんなにも調和のとれた味は初めてだぜ。だいたいスパイスを使った料理は一点突破みたいな味が多いが、こいつは違う。何種類ものスパイスを混ぜ合わせて、この複雑な味わいを創り出してやがる。こいつは参った。これなら、あるいは……!」
もぐもぐと食べるフアナがかわい過ぎてキュン死しそうだ。たしかにオレは自分の料理で誰かを喜ばせれたら嬉しいが、やっぱりフアナが喜んでくれるのが一番嬉しい。
それにしても、ホアキンのまるで解説者のような詳細な説明は誰に向けたものなんだろうな?
いやまぁ、喜んでくれてるのならいいんだけどさ。
「おかわりだ!」
「ずるい! フアナもおかわり!」
「はいはい」
こんな幸せな日々がずっと続けばいいなぁ。
◇
「行ってくる」
「気を付けてな」
「ん」
朝食が終わると、フアナは登校の時間だ。先進的なことに、ウリンソン連邦には学校があるのだ。学校では、主に読み書き計算を習うらしい。
「あ、そうだ。これを持って行ってくれ」
「ん? 何?」
「お弁当だよ。昼ご飯に食べてくれ」
「ん!」
学校は十歳から始まり、十五歳で卒業のようだ。その間に何を習うかは生徒の自主性に任されている。例えばフアナの場合、読み書き計算の他に狩りのルールや戦闘技術なんかも習っているようだ。なんとも狩猟民族である虎族らしいね。
「野菜も入ってるけど、ちゃんと食べるんだぞ?」
「ん……」
尻尾をへにょんとさせたフアナが他の学校に行く子どもたちが集まっているの方へ歩き始めた。
大人たちがパトロールしているといえ、森は危険なので、皆で集団登校するらしい。かわいらしいね。
オレがフアナにお弁当を準備した理由。それは、フアナの食生活には野菜が不足していると感じたからだ。
このままでは栄養バランスが偏ってしまう。フアナは十三歳にしては小さい方だしね。やっぱり気になってしまう。
まぁ、フアナは獣人族だし、人間とは必要な栄養が違う可能性もあるんだけどね。虎族全体がお肉大好き種族みたいだし。虎族は元々あんまり野菜を食べない食生活のようだ。
お弁当もガッツリお肉を入れたが、気に入ってくれるといいな。
「「「「「いってきまーす」」」」」
「おう! 気を付けてなー!」
子どもたちが手を振って森の中に入っていく。みんな三角のお耳をピクピクさせて一応警戒はしているようだ。なんだかその様子がかわいらしい。
フアナが自分よりも小さい女の子と手を繋いで登校していた。女の子の尻尾がフアナの尻尾に絡んで、ひたすらに和む光景だ。オレもフアナお姉ちゃんと一緒に登校したい欲がムクムクと大きくなっていく。
オレももう一度フアナの柔らかい手を握りたいなぁ。ちっちゃくてかわいいんだよなぁ。それでいて温かくて、まるでパン生地のようだ。
そんなことを思いながら、オレは大量の洗い物をしてく。魔法で水を生み出して、寸胴鍋をゴシゴシゴシゴシ。洗剤がないからなかなか油汚れが上手く落ちないな。一度水を入れて、温めてお湯に漬けた方が落ちるかもしれない。
「おや、洗い物かい?」
「え?」
下を向いて皿を洗っていたので見上げたら、南国の肝っ玉母さんみたいな虎族がいた。たぶん、子どもを見送りに来ていたのだろう。
「みんな! バルタザールが洗い物してるよ! 手伝ってやろうじゃないか!」
「いいわね! みんな来てー!」
どうやら洗い物を手伝ってくれるらしい。肝っ玉母さんが声をかけると、続々と虎族の奥様たちが集まってきた。
「ありがとうございます」
「いいのよ、今朝はごちそうになっちゃったからね」
「旦那も喜んでたわよ。あとで作り方教えてね」
「おいしかったわよねえ」
「私、気に入っちゃったわ。また作ってよ」
「そういえば、この間の族長復活の宴会で――――」
「そうなの!?」
女性ってなんでこんなにおしゃべり好きの人が多いんだろうなぁ。なんだか井戸端会議のようになってきたぞ。洗い物は奥様たちの協力で一気に片付いた。
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