016 朝からカレー!
「よお、バルタザール! 今日も朝早いなー」
「おはよう、バルタザール!」
「バルタザールが起きてきたってことはそろそろ飯だろ? 期待してるぜ!」
「バルタザールの作る飯はうまいからなー」
「おはよう、みんな」
虎族の村での早朝。
まだ薄暗い森の中、夜警をしていた虎族の青年たちと挨拶を交わしつつ、オレは収納魔法を展開。収納しある巨大な寸胴鍋を取り出して、村の広場にある即席の竈に乗せた。
ホアキン復活の宴会から一週間ほど。オレは順調に虎族の村に馴染んでいた。
やっぱり、長老から首飾りを貰った影響が大きいのだろう。みんなフレンドリーだ。
「バルタザール、これ、お袋が持ってけって言ってよ。よかったら使ってくれや」
「お! ありがとう!」
そう言う虎族の青年から受け取ったのは、ウサギの肉だった。けっこうな数があるな。
「おらも母ちゃんにこれ持って行けって言われてよ」
「おいらもだ」
「まあ、食わしてもらうんだから、食材を持ってくるのは当たり前だよなあ」
「俺たちも持ってきたぜ」
夜警に参加した虎族たちが、続々と食材を持ってくる。
オレはこれから、夜警の当番だった彼らの朝食を作るのだ。
夜警の当番になると、メンバー同士で交代しながら夜の森をパトロールするらしい。
そんな彼らのお腹の空く時間帯が、早朝だ。この時間はまだ家族も寝ているし、屋台もやっていない。今まではそれぞれの家に帰って残り物を食べるのが普通だったのだが、オレはそれに待ったをかけた。
せっかく夜警というキツイ仕事をがんばったのに、それでは報われないと思ったのだ。
せめて温かいものを食べてほしい。
そう思って、オレは夜警のメンバーに朝食を振る舞うことにした。
これが意外と好評で、中には夜警の日が待ち遠しくなったとか言う奴もいるくらいだ。
「ウサギ肉と、フルーツに玉ねぎ、芋、小麦粉か」
集まったのはなんの脈絡もない食材の集まりだ。だが、この食材を使って何を作るか考えるのも楽しい。
「今日はカレーにするか」
ウサギ肉が大量にあるし、何よりオレが久しぶりにカレーを食べたい。
「かれー?」
「かれーって何だ?」
「おいしいのか?」
「オレは大好きだよ。スパイシーな料理さ」
カレーと聞いてハテナマークを浮かべる虎族たちに答え、オレはさっそく準備に取り掛かる。
まずは竈に火を入れ、寸胴鍋に水を張り、温めておく。
食材を切る。ウサギ肉をぶつ切りにして、玉ねぎや芋も大きめに切る。収納魔法で収納してあるニンジンも大きめに切り、各種スパイスなども取り出した。
中華鍋で塩コショウを振ったウサギ肉を炒めたら、水が沸騰してきた寸胴鍋の中へ。その時、ニンジンも芋も一緒に入れる。そして、今度は玉ねぎを炒めていく。最初は強火で、しんなりしてきたら薪を減らして弱火でじっくり炒めていく。
時折玉ねぎをかき混ぜながら、ここからは並行作業だ。
まずは大量の小麦粉をボウルに入れたら、水を塩と天然酵母を混ぜて布を被せて寝かせておく。
次はスパイス。今回用意したのは、クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、シナモンの五つだ。ちょっと慣れた人ならもっと多くのスパイスを使って複雑な味わいのおいしいカレーを作るが、今回は食べる虎族たちがカレー初心者が多そうなので基本系で行く。
スパイスを計量スプーンで計り、準備は完了。飴色になってきた玉ねぎに満足すると、擦り下ろしたにんにく、しょうがを加える。
ふわりと香る匂いが食欲を刺激するね。夜警の虎族たちが真剣な表情で中華鍋を見ていた。ジューという炒める音に混ざって聞こえるのは、ぐーという腹の音だ。
にんにくとしょうがの香りを引き出したら、次に投入するのは湯剥きしたトマトとヨーグルトだ。弱火でじっくり炒めながら、よくかき混ぜる。
そして、いよいよスパイスの登場だ。五つのスパイスと水を投入し、かき混ぜていく。あとは生クリーム入れて、一度沸騰させた後、弱火に戻して煮詰めていく。
「おぉ! ちゃんとカレーっぽい匂いしてきた!」
塩で味を調えて、これでようやくカレーベースの完成だ。
煮詰めている間に次はナンを焼かないとな。やっぱスパイスカレーにはナンだろ。
「ちゃんと大きくなってるな」
布を押し上げるまでに発酵して大きくなった白い生地に満足すると、今度はぶつ切りにして小麦粉を振ったまな板の上に並べていく。そして、めん棒でずりゃっと伸ばすと、後は焼くだけなのだが……。
「忘れてた。窯がないわ……。そうだ!」
オレは竈の上にひっくり返した金属のボウルを乗せた。
「これに貼り付けて焼けばいいんじゃね? オレってば冴えてる!」
「なあ、バルタザール……。俺たちもう腹が……」
「こんなうまそうな匂いさせて……もう限界だ!」
「早く食わせてくれよ!」
「もうちょっとで完成だから、もう少しだけ待ってくれ!」
「「「「「えぇー!!!」」」」」
カレーが完成するのは、それから十五分後のことだった。
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