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15 アナとハンバーグ

 話し合いの後、また倒れるように眠ってしまったホアキンだったが、夕方になるとまた起き上がり、完全復活を宣言した。


 ホアキンの復活に虎族のみんなは大いに盛り上がり、その日の夜は宴になった。


「ボスが元気になってよかったぜ!」

「お嬢も心配してたもんなぁ」

「なんでも、お嬢がいつの間にか協同組合に依頼を出していたらしいで」

「ほーん」

「オラたちゃ無理だって諦めてたけど、探せば見つかるんだなぁ」

「んなことより飲め飲め!」

「だーっはっはっはっはっ!」


 宴となったらオレの出番だ。竈を借りて、じゃんじゃん料理を作っていく。収納空間に入っていた料理アイテムも大放出だ。


「なんか今日って変わった料理が多いよな?」

「ボスんとこに転がり込んだニンゲンが作ったらしいぜ」

「へー。どれどれ……ッ!?」

「う、うめぇえええええええええええええええええええええええええええ!」

「な、なんだこれ!? 泥団子かと思ったら、とんでもデリシャスじゃねえか!」

「こちらのスープもお飲みなさい。飲めば天に召されますよ」

「「「誰だ、おめえ!?」」」


 うんうん。ハンバーグもコーンポタージュも好評のようだね。


 じゃあ、次はじっくり煮込んでおいた角煮でも出そうかな。


 その時、ちょんちょんと服の裾を引かれた感触がした。振り返ると、フアナがオレを見上げていた。ちょーラブリーである。スクショしたい。


「ばるたざーる、長老が呼んでる」

「長老? なんで?」

「わかんない」


 フアナと一緒に首をかしげていても仕方がないので、フアナの案内で虎族の村の上部分へとやって来た。


 上部分というのは、ウリンソンの樹上都市のように木々の上に作られた部分の村だ。ここには、虎族の中でも子どもやお年寄りなど守るべき者たちが主に生活している。長老はこの上部分にいるらしい。


 階段状に木に突き刺さった板を登っていくと、まるでお花見のように至る所にゴザが敷いてあり、その上で虎族たちが料理を食べたりお酒を飲んだり大盛り上がりだった。


「こっち」

「あ、ああ……」


 階段を登り切った所でボーっと立っていると、フアナがオレの手を引いて歩き出す。


 繋いだフアナの手は、オレの想像以上に小さくて、柔らかくて、温かかった。憧れのフアナと手を繋げたオレの心臓はもうバクバクだ。口から飛び出そうである。


「これ、長老」

「え?」


 案内されたのは、敷かれたゴザの群れの中心だった。そこいたのは、言い方は悪いが萎びた虎族の老婆だった。肌にも艶がなく、骨がくっきりと浮かんでいる。


 だが、その顔にはとても満足したような幸せを絵に描いたような表情が浮かんでいた。


「長老、連れてきた」

「ああ、ありがとね、フアナ。そちらの方が?」

「ん。ばるたざーる」

「そう、あなたが噂のバルタザールね。私はアナ。フアナのひいおばあちゃんになります」


 へえ、長老ってフアナと血が繋がってたんだ。ゲームや資料集でも知れなかった新情報だ。ちょっとテンションが上がる。


「バルタザールです。ホアキン族長の所でお世話になっています」

「そうなの。これも、あなたが作ったものでしょう?」


 長老が指したのは、オレの作ったハンバーグだった。


「私はね、食べることが苦痛だったの……」

「え?」


 アナは食べることが苦痛だと言う。なんでだ? 食べることって楽しいことじゃないのか? だからアナはこんなに痩せこけているのか?


「もう歯も抜けてしまったし、顎を動かすのが億劫でね。噛み切れないのよ。だから、食事の時間はとっても憂鬱だったの……」


 悲しそうな顔を浮かべるアナ。それに触発されたのか、フアナまで悲しい顔を浮かべていた。オレまで悲しい気持ちになるよ。


 こちらの世界に入れ歯なんてないだろうしなぁ。そして、顎の筋力の衰えも深刻そうだ。


 たぶんアナは肉なんて食べられない。食べられる物が限定された生活。


 好きだった物が食べられなくなる。それはなんて悲しいことなんだろう。


「でも、これは違った」


 アナがしわくちゃの顔で笑顔を浮かべる。


「とっても柔らかくておいしいの。まさか、こんなにおいしい焼いたお肉がまた食べられるなんて思わなかったわ」


 そうか。それでハンバーグか!


 たしかにハンバーグなら、歯のない歯茎でも食べられる。舌で押し潰せる!


「本当に、おいしかった。バルタザール、あなたは私を救ってくれたわ。大袈裟だと思うでしょう? でも、そんなことない。あなたは私に食べる喜びを思い出させてくれたの」


 そう言って、アナは自分の首飾りを一つ外した。獣の牙と青い宝石を加工したワイルドな首飾りだ。


「これを、あなたに」

「よろしいのですか?」


 見ただけで、その首飾りが大切にされてきた物だとわかる。オレが貰ってしまってもいいんだろうか?


「ええ、私はあなたを虎族の一員として認めます」

「ッ!?」


 獣人族は身内意識が強い。その長老に一族の者として認められるということの意味は、おそらくオレの想像以上に大きいはずだ。


「ありがとうございます!」


 オレは押しいだくように長老の首飾りを受け取った。


「知っているかしら? 虎族には、婚姻の際に男から女に首飾りを贈るのよ」


 アナがフアナをチラッと見た後、オレをからかうような笑みを浮かべて見た。


 それって……!?


「がんばりなさいね。ライバルは多いわよ」

「はい……!」

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