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13 朝食

「まずは火を起こさないとな」


 食パンが牛乳溶液を吸うのを待ちながら、オレは薪を竈に組んでいく。


 オレはキャンプの経験も豊富だ。薪の樹皮側を内側に向けて三角に組み、中央に細い枝などの着火剤を入れる。そして――――。


「そういえば、マッチってないよな?」


 どうしようかと五秒ぐらい考えたが、魔法があることに気が付いた。


 そうだよ。魔法で火を着ければいいじゃん。


 指先に火の玉をを作り、薪に近づけると勢いよく燃え始めた。よしよし。


 竈の上にフライパンを置いて温めておく。


「そろそろいいかな」


 食パンがたっぷり牛乳溶液を吸ったのを見て、オレはフライパンにバターを入れた。


 ジューとバターが溶ける音、そしてまるでミルクのような匂いが土間いっぱいに広がる。幸せの匂いだ。


「いい匂い」


 フアナもいつもより目をとろんとさせてくんくん匂いを嗅いでいた。


 そして、オレは金属ボウルの食パンをフライパンに投入する。大きめのフライパンだが、食パン二枚でいっぱいになった。


 バターの香りに卵と砂糖も加わって、甘い匂いになる。フアナなんて尻尾をピンッと立てて興味津々でフライパンを見ていた。


 頃合いを見て食パンをひっくり返すと、いい感じに焦げ目の付いた茶色と黄色のマーブル模様が現れる。


「フアナ、お皿ってあるか?」

「ん! 待ってて!」


 フアナがダッシュでお皿を持ってきてくれたので、その上にできあがったフレンチトーストを乗せた。


「おぉー!」

「もうちょっと待ってろよ」

「ん」

「ふふっ」


 フアナが尻尾をくねくねさせながら待っているのを見て思わず笑ってしまった。


「甘い匂いだ」

「うまそうだな」

「あれは何て料理だ?」

「わがんね」


 フアナのことが心配だったのか、土間を覗いていた虎族たちが唸っていた。


 そうして残り二枚のフレンチトーストも焼き上がり、収納魔法からポトフも取り出して、今日の朝食の準備は完了だ。


「よし、できたぞー」

「おぉー!」


 フアナは、ちゃぶ台の上に乗ったフレンチトーストとポトフに目を輝かせている。


 この家には椅子やテーブルがないらしい。その代わりにあるのがちゃぶ台とゴザだ。


「食べていい?」

「ちょっと待ってな」


 オレは収納空間から蜂蜜を取り出すと、フレンチトーストに垂らしていく。フレンチトーストに温められて、蜂蜜の豊かな甘い香りが部屋いっぱいに広がっていく。


「いい? 食べていい?」

「いいよ」

「ん!」


 もう待ちきれない様子だったフアナに許可を出すと、フアナはフォークもナイフも無視して手づかみでフレンチトーストを頬張った。


「とろとろ。おいひい……!」


 お行儀としては悪いが、まぁ、喜んでくれているならよかったよ。


「こんなの初めて」

「そんなにおいしい?」

「ん!」


 フアナが元気よく頷くのを見て、オレはなんだか心が洗われたような清々しい気持ちになった。


「フアナ、こっちのスープもおいしいぞ」

「ん。んん!?」


 フアナの尻尾がピンッと立ち上がる。


「あづい……。でも、おいしい」

「ゆっくり食べな」

「ん」


 なんだかいいなぁ。もちろん、最推しのフアナがオレの作る料理で喜んでくるというのもものすごく嬉しいけど、喜ぶ姿が直に見れるってのがいい。


 日本にいた頃は、厨房で料理を作り続けるマシーンになっていたからなぁ。


 そうだな。オレは人が喜んでくれるのが好きで料理を始めたんだった。いつの間にかそんなことも忘れてしまっていた。


 気が付けば、フアナがちらちらとお皿に残ったフレンチトーストを見ていた。フアナはもう二枚食べたから、残りはオレのだけど……。


「食べなよ」


 オレはフレンチトーストの乗ったお皿をフアナの方に押しやる。


「え? いいの?」

「ああ。たくさん食べてくれ」

「ん!」


 そして、フアナが手づかみでフレンチトーストを頬張ろうとした瞬間――――。


 バーンと奥のドアが盛大に開かれた。そこには、筋肉ムキムキマッチョマンの金髪虎族の男がいた。鋭い目付きをしていて、だいぶ怖い。


「いい匂いだ……」


 そう呟き、男の鋭い目付きが部屋の中を舐め回すように見渡すと、オレにロックオンされる。


「誰や、お前は?」


 こいつが虎族の族長か……。それにしてもデカい……!


 二メートルは優に超える身長と、縦にも横にも分厚い筋肉ダルマだ。さすがは獣人族の中でも特に戦闘能力に優れる虎族の族長だ。もう見ただけで強いのが伝わってくる。


「オレはバルタザール。今はただのバルタザールだ」

「バルタ――――ふぶっ!?」

「親父ー!」


 その瞬間、虎族の族長はドアの向こうに飛ぶように消えた。


 目の前からフアナも消えている。


 ゴザから立ち上がってドアの向こうを見れば、完全に失神して伸びた族長と、彼に馬乗りになって縋りついているフアナの姿が見えた。


「よかった、元気になってよかったよー」


 フアナは族長が伸びていることに気が付かないのか、そのまま泣いて喜んでいた。


 病み上がりにあんな鋭いタックルを喰らえば、あの屈強な族長もダウンするか……。


 オレはどうしたものかと見ていることしかできなかった。

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