落ちこぼれの入学生
天野コウスケは、満面の笑みを浮かべて学校の門をくぐった。ここは彼が夢にまで見た「私立キャッスル学園」。全国でもトップクラスの進学校であり、コウスケが必死に勉強し、見事合格を勝ち取った場所だ。希望に満ち溢れた新生活の幕開け…のはずだった。
だが、門を通過してから、コウスケの胸に一抹の不安が広がる。周りを見渡してみると、目に入るのは異常に鍛え上げられた体つきの男たちばかりだった。制服の上からでも筋肉が明らかに分かるほどの隆々とした体。コウスケは目をこすってもう一度確認する。
「何でこんなにマッチョが多いんだ…?おかしいな、キャッスル学園は普通の進学校だよな…」
彼は小さく呟いたが、誰も聞いてくれる者はいない。周りを歩く生徒たちは、まるで自分の体を誇示するかのように堂々と歩き、交わす会話も耳に入ってきた。
「今日はベンチプレス100キロで軽く仕上げてきたぜ!」
「俺なんてスクワット200キロ達成したぜ!」
コウスケは立ち尽くす。これは一体どういうことだ?彼は内心、違和感を覚えつつも「これは入学初日の緊張から来る幻覚かもしれない」と自分を納得させるしかなかった。
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やがて、入学式が始まった。大きな体育館に集められた新入生たち。だが、コウスケの違和感はますます強まるばかりだ。どこを見渡しても、見事に筋肉がついた大男や、大柄な女子生徒がいるばかり。しかも、どの生徒も例外なく背が高く、肩幅が広い。コウスケは体育館の隅で、細身の自分が完全に浮いていることに気付く。彼の170cmの身長と平均的な体つきでは、まるで子供のようだ。
「えっと…偏見かもしれないけど…頭の良さそうな人、どこにいるんだ…?」
周囲のざわめきが、ますます彼の不安を煽る。そして、ついに壇上に校長が登場する。登場した瞬間、場内の空気が変わった。見上げるような巨体、筋肉で二周りも三周りも大きいその体は、周囲の生徒たちすらも小さく見えるほどだった。筋肉の塊そのもので、頭頂部には輝く禿げが印象的だ。
校長はマイクを握り、低く響き渡る声で語り出した。
「ようこそ、"マッスル"学園へ!」
その一言で、コウスケはようやく全てを理解した。
「え…?今なんて…?"マッスル学園"…?待って、ここはキャッスル学園じゃなかったのか?俺、間違えた!?」
コウスケの脳裏に、今朝の入学案内がよみがえる。確かに「キャッスル学園」と書かれていたはず…だが、思い返してみると、焦っていた自分が確認不足だった可能性もある。
「受ける高校間違えてたーー!!」
心の中で叫ぶが、もはや手遅れだった。壇上の校長は、マッチョ生徒たちに向かってさらなる言葉を続けていた。
「我が校は、世界一のボディビルダーを育成する場所!筋肉こそがすべてだ!この一年間で、お前たちは究極の肉体を手に入れることになる!」
生徒たちは一斉に雄叫びを上げ、体育館が揺れるような大歓声が響いた。コウスケは震えながら、その場に立ち尽くしていた。
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入学式が終わった後、コウスケは一人で廊下を歩きながら深いため息をついた。これからどうすればいいのかまったく見当がつかない。彼は今すぐにでも退学したい気持ちだったが、入学規則を確認すると、「一年間は原則退学不可」という厳しい条件が書かれている。つまり、この「マッスル学園」で少なくとも一年間は過ごさなければならないという現実が待っていた。
「俺の高校生活…終わった…」
彼は絶望的な気分で拳を握りしめた。しかし、その時ふと、心の中で小さな火が灯った。
「待てよ…この学園で筋肉をつけることが、案外楽しいかもしれない…?」
これまでコウスケは筋トレなんて興味もなかったが、ここでは筋肉が全ての価値基準だ。筋肉を鍛えれば、もしかしたらこの学園での生活を楽しめるかもしれない。思い切って挑戦してみよう。そう思った瞬間、コウスケは新たな決意を固めた。
こうして、コウスケの奇想天外な筋肉ライフが幕を開けたのだった。