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その後ようやく、播磨氏ならびに見学者の皆さんを迎え入れるに至った私は、挨拶もそこそこに、彼らに当宅内を見せて回り始めた。
「…こちらは客間となっておりまして、かつて当地を治めていたという殿様、志村白塗御一行が、当宅を一度お訪ねになられた際、この部屋でもてなしたと言われています」
当宅の中でも最も広い空間内、その障子戸を背に私は、老若男女10名ほどにご説明。皆が皆、熱心に耳を傾けてくれている。
すると、いきなり何やら言い出したのは、小太りの50代男性。既述の町会長、播磨氏である。
「もてなしといえば、若当主。この宅は台所部屋もまた素晴らしいんですよな。新旧が見事に調和していて…」
どきっ!
播磨氏ったら、よりにもよってこんな時に、余計な情報を皆さんの耳に入れまくるとは…
もし彼らが、その台所部屋を見たがったらどうするんですか。まったく。
「ぜひ拝見したいですな」
「ですわねー」
「ひとつお願いできませんか、御当主さん」
やっぱり…揃いも揃って一同が、期待の目を私に向けてくる始末。
「あいや、あのその…きょうは台所部屋に、ラブ…じゃなくって、そうそう、きょうは台所の体調が悪くて…」
楠裕一郎、しどろもどろの体。
「若当主ったら、またそんなご冗談を」
ぽんっと、播磨氏が私の肩を叩けば、
やっはっは〜っ…
たちまち一同の間に、極めて和やかな笑いが起こった。
そんな笑い事じゃないんですけどね。私にしてみれば。