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「…それで、ここまで連れて来たって訳か…」
「うん、そうなんですー」
時は同日の夜。ところは我が家の居間。相変わらずヒミコが上座に、また史都が私の隣にある中、この卓の向こうで、空が小さく頷いた。
うむ、ご覧のように、すでに彼女はラ〇ドールの方に戻っている。あのメイド服…ではなく、なぜかブルマの体操着姿でッ。んな、私に黙って買いおってからに、まったく。
一方、
『夜分にお邪魔します』
正座の体勢。私の斜め向かいは空の隣で、ぺこんと頭を下げるはリリィである。いやま正確には、空とはまた別の、ある少女の霊が憑依したリリィ…である。
うん、先の空の話というのは、実はこのこと。彼女によれば、同じく少女の霊が、あの翔くんの近くを漂っていたそうで…
で、私の横でジッとしている間に空が、その少女と霊同士の(もちろん我々には聞こえないが)会話を試みたところ、なにやら意気投合。さらに、ここまで連れて来た後、いまや空の代わりに…といっては何だが、その少女の霊がリリィに憑依。こうして私とも会話している、という訳なのである。
「…そうか。生前、翔くんのファンだったのか。それが、よりにもよって、初めて直に彼と会える日に…か」
その少女、椿姫(享年18歳)が言うには…自分は今から3ヶ月ほど前、大風ファンクラブ限定のサイン、握手会へ向かう途中、たまたま乗ったバスの事故によって他界した。とのこと。
なんでも、悩み多き年頃にあって彼女は、常にアイドルとして誠実で前向きな翔くんの姿に、いつも励まされていたらしい。
そう、その感謝の気持ち等を、先述のイベントにて伝えたくも伝えられぬまま他界した姫さんと、この私との約束を成就できぬまま、やはり世を去った空との間に共感が。それが、彼女ら2人の意気投合の理由である。
『私としては、この自分の気持ちを直に翔くんに伝えられれば、心置きなくあの世へいけると思っているんですが…』
だが、それが叶わぬゆえ、いまもあの世とこの世との境目を彷徨いつつ姫さんは、主に翔くんの傍を漂っているのだそうだ。
と、そういえば、あの晩から出ては引っ込む、この私の《胸騒ぎ》の理由は、もしやこれだったのか。
ううん、多分そうではあるまい。少なくとも今までは、ヒミコの移動による警告は、常にこの私自身に纏わる事柄であったしな。
「気持ちを直に伝えられれば…か」
「なんとかしてあげたいです〜」
史都も、私と同じ思いのようだ。
しかし、なにか良い方法があるだろうか。




