第四話 ピンチ‼Drヴァイパーの罠‼
ドスンッ‼
まず空から下半身が落ちてきた。踏ん張りを利かせた姿勢で無事に着地する。
次にフェニックス・プリンスが機体を折り畳みながら下半身の連結機構に向って合体した。
最後に空の上から悠々と上半身が登場し、変形したフェニックスプリンスと合体を果たす。一応、緊急時にはFLPシールドを展開しながら合体する事も可能だがエネルギーの消耗が激しいので今回は見送る形と為った。
「天に輝く正義の星‼大地に蠢く悪鬼羅刹‼…罪なき人々の命を守るために命を賭けて戦おう!」
わざと背を向けた状態で合体し、正義の味方のそれっぽい台詞を決めてからの…ターン‼
「ルチャ・リブレの申し子、スカイザーPが相手だ。Drヴァイパー‼」
ミラクルカラスはコックピット内で歌舞伎っぽい大見栄を切った。
「現れたな、スカイザーP。罪なき人々とは言ってくれる。フローティングライトとフェネクスエンジンの完成にどれほどの犠牲があったか知っているか?二十億だ、かの悪名高き大虐殺”南ア消失”で投下されたFLP爆弾”インフェルノ”の災禍が現在の繁栄をもたらしたという事を忘れるなよ?」
Drヴァイパーは憎悪の炎を燃やしながら世界を睥睨する。”インフェルノ”の興した災厄は、同兵器の発明者であるかえの父”天龍アトム”の責任にされてしまったのだ。
アトムは軍事裁判にかけられ何一つ抗弁する事無く死罪を受け入れた。彼は「抑止力」の名を借りた恐るべき破壊兵器を生み出してしまった事に心底、悔いていたのだ。
「お前こそ恥じろよ、ドラ息子。俺が親父から聞いた話ではアトム博士はフェネクスエンジンの研究を無に帰さない為に自分から罪をかぶったんだ。私怨に囚われたお前と博士じゃ覚悟の程がちがいすぎるぜ‼」
スカイザーPは前面に両腕を交叉して構える。同時にダイアモンドオメガプラチナムDX2000は手足を地面につけて低い姿勢で構えた。
「私の母は国連にとって不都合な研究資料を公開しようとしてエージェントどもに交通事故に見せかけて殺された。残された家族の気持ちを考えたことはあるか?」
じりっ…。
ダイアモンドオメガプラチナムDX2000は一歩、距離を詰める。
「だからと言って他の人間に当たっていいわけねえだろ」
ぶわさっ‼
スカイザーPは背中の翼を展開して強襲形態に移行する。このバードマン形態は短時間ならばFLPの特性を利用して高速飛行も可能だ。
「食らえ、華麗なる空中殺法‼」
ダダダダダッ‼
スカイザーPはクラウチングスタートからダイアモンドオメガプラチナムDX2000に向ってダッシュする。
「芸のない奴だ。ダイアモンドオメガプラチナムDX200対衝撃防御だ」
ダイアモンドオメガプラチナムDX200は手足と頭を星型のボディに引っ込める。その姿は亀のそれであり、お世辞にも前回登場したシェルスクリーマーV7と変化は見られない。
「パターダ・コンヒーロ‼」
スカイザーPは前方に飛び上がるとそのまま空中で一回転する。そして右足を鞭のようにしならせて回し蹴りを放った。
ドガッ‼
スカイザーPの体重を乗せた胴廻し回転蹴りを食らってダイアモンドオメガプラチナムDX200は大きく揺らめく。
コックピットのDrヴァイパーも今の攻撃で顔と背中と背中をぶつけてしまった。ダークヒーローの矜持の為かシートベルトはつけていない。
「馬鹿な。あんな大技を食らうとは…」
「甘いな、Drヴァイパー。ルチャのロケットスタートから繰り出される技は変幻自在だ。マニュアル通りのディフェンスは通用しないぜ‼」
ミラクルカラスはここぞとばかりに指を突きつける。彼の中ではあくまでプロレス、その中でもルチャリブレこそが最強の格闘技だった。
「おのれ言わせておけば…」
Drヴァイパーは背部マニュピュレーターを起動させて素早く起き上がる。
追撃を予想していたがスカイザーPはその様子を見せない。それどころか両腕を組んでダイアモンドオメガプラチナムDX200の戦闘態勢が整うのを待ち構えていた。正しくその姿は王者と挑戦者のそれだった。
「この私を相手に余裕を見せるとは…後悔するなよ?」
Drヴァイパーはしかるべき奥の手を使う為にドクロのマークがついたスイッチを押した。
「ハーッハッハッハ‼今週のビックリドッキリ兵器の登場だーっ‼」
その場にいた一堂はDrヴァイパーの高笑いを聞いて絶句する。もはやその姿は復讐に憑りつかれた天才科学者などではなく、タイムボカンシリーズの悪役のそれだった。
「Drヴァイパー…、キャラがバグってるぞ?」
「うるさい‼見ろ、これが私の超科学の結晶…ダイアモンドスパークマインだーッ‼…ポチっとな」
ヴァイパーの白い手袋に包まれた右手の指先が例のドクロのマークが描かれたボタンを押すと、戦鬼獣ダイアモンドオメガプラチナムDX200の口がパカッと開いた。
れろれろんっ!
さらにベロが滑り台よろしく地面に降りた。
「うんしょ!うんしょ!」
口の奥から足の生えた銀色のトゲトゲが何体も姿を現し、前から順番に滑り台を使ってするするするっと地面に降りて行った。
「おいッ‼Drヴァイパーは正気なのか⁉キャラが崩壊しているぞ‼‼」
トレーラーに収容された鉾根のコックピットの中で馬場が叫ぶ。
「不味いな…」
Drヴァイパーこと天龍幻一郎の元チームメイトは細いフレームの眼鏡を位置を正す。その眼光は小型の”ビックリドッキリメカ”を捕えていた。
「お前もそう思うだろ?浜口」
「天龍先輩がおかしいのは元からだが、あの精査型這・マニューバは厄介だぞ?」
浜口に言われて馬場はダイアモンドオメガプラチナムDX200の周囲に配置された小型のロボットを見入る。だが専門職でもない馬場には見分ける事が出来なかった。
「あれが何だってんだよ」
馬場が浜口に問いただすと同時にスカイザーPが敵に向って突撃した。
ダイアモンドスパークマインは腰部に搭載された機銃でスカイザーPを一斉に攻撃する。
「とうっ‼」
スカイザーPは地面に手をついて前方宙返りを決めながら銃弾を回避する。ドーム会場の駐車場は瞬く間にスカイザーPの手と足の形だらけになってしまった。
「相変わらず無駄に凄い運動性だな。馬場、アレを捕獲出来ないものか?」
「出来ねえよ‼サイズ的に差があり過ぎるだろうが‼」
一応、説明しておくがスカイザーPが全高20メートル、箱根がは6メートル、ダイアモンドオメガプラチナムDX200のは30メートルくらいと考えて欲しい。
「プランチャ・スイシーダ‼」
スカイザーPはダイアモンドオメガプラチナムDX200のの前に並んでいるダイアモンドスパークマインを飛び越えてフライングクロスチョップをしかける。このまま直撃すれば戦いそのものが終わってしまうかもしれない猛攻を前に悠然と構えるダイアモンドオメガプラチナムDX200。コックピット内ではDrヴァイパーが不敵に笑っていた。
「弾けろ」
Drヴァイパーの宣言と共にダイアモンドスパークマインは結集する。そして全身から光を放った直後に爆散した。
「仲間を自爆させるなんて…Drヴァイパー、お前には人の心が無いのか‼」
スカイザーPは全身にこびついたガラ氏の破片のようなものを払いながらDrヴァイパーを糾弾する。
例え相手が血の通わないロボットだとしても共に戦場に上がれば仲間。それがミラクルカラスのプロレス道だった。
「ハッハッハ‼甘いな、スカイザーP。貴様のボディをよく見てみろ‼」
「何っ!?」
スカイザーPの赤(旨と頭)、白(胴と腕と太腿)、青(腰と手と脚)の三色に塗り分けられた体には何の損傷も見られなかった。
だが、コックピット内の計器は明らかに異常を示している。
胸と背中に配置されたフェネクスエンジンの出力が非常に不安定なものに変わっていたのだ。それだけではない。あらゆる環境に適応可能な超装甲カイザースケイルにもFTP反応が失われている。
事実上、丸裸の状態だった。
「要するにAGFと同じ理屈さ。あのちっこいのはFTPでFTPの活動を妨害している」
「あっ?敵もFTP使えないんじゃねえか?」
ギィンッ‼ガシュッ、ガシュッ‥‥‼
ダイアモンドオメガプラチナムDX200は地面に触手を突立て、蜘蛛のように前進する。
「流石は先輩。コロンブスの卵というか、実に見事だ。いいかい、馬場。あのダイアモンドオメガプラチナムDX200ってのはフェネクスエンジンのちからで 動く部分とそうじゃない部分に分かれているんだ。だから今は――」
星形の上半身を捻じり、両腕をしならせてスカイザーPに叩きつけた。流石の体格差と言うべきか、スカイザーPは紙屑のように吹き飛ぶ。
「ハッハッハ‼いいざまだな、スカイザーP。そのロボットと大河博士の研究資料を差し出すというなら命だけは助けてやろう…」
Drヴァイパーは間断なくワイヤー型のマニュピュレーターでスカイザーPを殴打する。
「ぐぬうッ‼」
コックピット内のミラクルカラスは衝撃で壁に身体をぶつけてうめき声をあげる。
「馬鹿野郎ッ‼スカイザーP‼‼‼テメエもレスラーの端くれなら殴られたら痛いとかぬかすんじゃねえッ‼‼‼」
川中島ドームの駐車場いっぱいに怒声が鳴り響く。
ミラクルカラスは思わずその声の主を捜した。
胸には『愛・LOVE・越後』。背中には『毘沙門天の加護ぞあらん』の一文字がプリントされたジャージ。先ほどの温厚なイメージからは想像できないほどキレ顔になった毘沙門天プロレスの花形レスラー、直衛兼続だった。
(あの凄まじい迫力‼まるでぶちぎれた時のカトル・ラーバウィナーだ…)
ミラクルカラスはすぐにガンダムサンドロックの勇姿と金髪の温厚そうな美少年の姿をおんぽい出していた。
「敵がヒールに徹するなら、お前は正義の道を突き進め!それがプロレスラーってもんだろうが‼‼」
スカイザーPはハンドスプリングで立ち上がる。そして自らの前面をあえてダイアモンドオメガプラチナムDX200に晒した。
(直衛さん…ッ‼俺、目が覚めました。俺にはアムロやシーブックみたいになるのは無理だけど…プロレスラーなら演じきれます‼)
スカイザーPは自身の胸をバンバン叩きながらDrヴヴァイパーを挑発した。
「うおらあッ‼三下、っさと来いやあ!」
さらに顎を突き出して自分の頬を敵に向ける。
「やるじゃねえか、スカイザー。畜生、サトルのヤツにも見習わせたいものだぜ」
「ああ、すごい新人だ。俺もおちおち引退してられねえ…」
信玄と謙信たちにはスカイザーPとダイアモンドオメガプラチナムDX200はプロス ラー扱いだった。
「ヴァイパー‼ヴァイパー‼」
ドーム内から出てきたヴァイパー推しのおばちゃんたちが黄色い声援を送る。
「クソッ‼もうどうにでもなれ‼」
Drヴァイパーはレバーを引いてダイアモンドオメガプラチナムDX200を前傾姿勢にする。そしてスイッチを押して身体を錐状に変化させた。
「今度こそ死ねえいッ‼スカイザーP‼デッドリーフォビドゥンドライバー‼」
ダイアモンドオメガプラチナムDXは全身にFTP粒子を纏わせた状態でスカイザーPを肉薄する。だが、その協力無比な攻撃を前にしてスカイザーPは躱すどころか真っ向から飛び出していった。