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第三話 自衛隊 VS ダイアモンドオメガプラチナムDX2000

「きゃあああ!ヴァイパーちゃん、こっち向いてー‼」


 相変わらず観客席からは年配のおばあちゃんたちがスマホでヴァイパーを撮影していた。


 「あー、君たち…残念ながら私はレスラーじゃない。そしてプロレスが嫌いだ。ていうか本人の許可なく撮影するとかマジあり得ないんですけど…」


 ヴァイパーは予想外の歓迎っぷりに困惑している。彼とて自分は悪の側で、人々から嫌悪されるべき人種という自覚はあるのだ。


 パシャパシャ‼


 そしてそんな彼の複雑な心情などお構いなしのフラッシュ。


 (私はそろそろ切れてもいいのか…?)


 ひくひくっと額に浮いた血管が蠢く(この部分はサイボーグ化されていない)。Drヴァイパーの大して長くもない堪忍袋の尾は今にも切れようとしていた。


 その時、ドームの外から戦車のキャタピラとヘリのローターの駆動音が聞こえてきた。

 後続には数台の汎用トレーラーと装甲車が確認できる。


 「長州‼維新軍、参上ッ‼」


 「違います、長州さん。今の発言、ネットで絶対に炎上しますから止めてくださいっ‼」


 額に「地上最強軍団」という文字が書かれたバンダナを巻いて防衛省のア先鋒、長州百万馬力が現れた。 ギャラリーがいるせいか当人のテンションもかなり高くなっている。

 苦言を呈した大仁田参事官の頭に拳骨を落とした。


 「らあッ‼何言ってやがる、ああ似た!こういう時はな舐められたら負けなんだよ‼」


 「了解…です」


 がんッ!


 殴られた勢いで大仁田は横面を思い切りぶつける。鼻血をダラダラ流しながら大仁田は部署の転属届を出す事を画策していた。


 「クックック。ハッハッハ。ハーッハッハッハ‼すいぶん遅い登場だな、自衛隊の諸君。私からの招待状はちゃんと届いていたようだな」


 「ふんっ‼何が『川中島FEP発電所を明け渡さなければ武力行使をする』だ‼そんな要求がのめるわけがないだろう‼」


 前回の襲撃事件を境にヴァイパーは日本政府と各地自治体、そして防衛相に脅迫状を出していた。

 いずれも要求がのまれなければ相応の被害が出ている。その際にスカイザーPが出動出来なかったのは政府の一部高官らが情報公開をを踏み止まった為だった。


 「盗人猛々しいとはこの事だな、政府の走狗イヌめ。フェネクスエンジンとフローティングライトのせいひょ理論は私の父アトムの功績だ。使用料を支払わないのであれば返却してもらうのが筋というものだろう?」


 「イカれたテロリスト野郎が相手では話にならんな…。十分、待ってやる。投稿するならば逮捕、抵抗するなら無事は保証出来ないぞ?今は二十一世紀では無いからな、犯罪者の人権などハンコ一つでどうとでもなる」


 長州は瞳に残忍な輝きを宿しながら腕時計を見る。


 ネオ東京ドーム襲撃事件以来、国内では戦鬼獣と思しき生物兵器が各所で猛威を振るっていた。警察はおろか自衛隊からも多数の死傷者が出ている為に長州はDrヴァイパーと交渉する気など皆無だった。


 (”箱根”の起動まで時間稼ぎをせねばならんとはな…。これは大きな菓子だぞ、馬場)


 エネルギーチャージまで残り時間、三分。

 

 それが箱根の起動兵器”箱根”の主メカニックである浜口兄丸が出した制限時間だった。


 「やるね、長州さんも。これなら間に合うかな?」


 浜口はトレーラーに積んであるコンテナの中でPCを片手に外界の様子を見守っていた。新型の戦鬼獣を見ても驚く様子は無い。その神経の図とさに馬場は呆れかえる。


 「新型のエンジンに火が入るまで三時間、活動限界時間が四十分。…ポンコツじゃねえか」場は箱根のコックピットの中でボヤく、登場する前に渡されたマニュアルと睨めっこをしていたが従来のガードロボットとの性能差を見出すことは出来なかった。


 「こんな事なら青山の修理を待つべきだったか?」


 馬場はマニュアルを開いて計器を確認しながら呟く。


 エメラルド・出すと、浜口の説明によれば結晶化したフロ-ティングライトの精製にはかなりの時間を要する。即ちフェネクスエンジンンの内部でFRP(FLOATING LIGHT PARTICLE フローティングライト粒子の正式名称)を新たに精製してエネルギー貯蔵庫の加速器内で結晶化、さらにミスト状に粉砕した後に機体の周囲に放出する事でFLP現象の影響下において、より高い機動力を獲得するとの事だった。


 (要するにFLPによるドーピングだろ?浜口のヤツは何を考えていやがる。そもそもこの細っちい機体フレームで保つのかよ?)


 馬場は過去にFLPによって極限まで運動性を引き上げられた試験機に登場して痛い目に遭った経験があった。

 フェネクスエンジン出力、情報処理・演算能力、が跳ね上がったガードロボットの性能は暴力的と言っても過言ではない程に向上する。それゆえにパイロットへの負担は甚大だ。


 「馬場、そろそろだ。出撃の準備を」


 「応」


 浜口からの通信を受けて馬場は操縦桿を握り締める。これは敵と、新鋭機”箱根”との戦いだった。


 「タイムリミットだ、テロリスト。あの世で反省文でも書いて来い」


 長州はブラフ・スマイルを浮かべながら指をパチンとならす。程無くしてコンテナの扉が開き、中から重装甲ガードロボット”筑波”が出動した。

 対ロボット用の重火器、バリスタを装備している。


 (こちらの射程を考慮した配置か。敵もさるものだな…)


 DrヴァイパーはAGFアンチグラヴィティフィールドの効果範囲の外側に配置された筑波たちを見ながら感心する。

 AGFの射程と持続時間はその特性から考えて極めて短いものである。”箱根”同様にフローティングライトに属性を付与した状態で放出すると、回収が全く効かないという短所があった。

 少なくともそういった一般的ではないフローティングライトの特性を知る者が敵の陣営にいる事は好ましい展開だった。


 「こちらとしても一方的な殺戮劇ワンサイド・ゲームに興じるつもりはない。さ、かかってきたまえ」


 「撃て‼」


 筑波を率いる連隊長の号令によってバリスタが一斉に発射される。

 弾道は直線状ながら嚆矢のごとき尖端が突き刺さると大量の小型爆弾をまき散らしながら爆発。殺傷力の高さから現在では使用が控えられている兵器だった、


 ド‼ド‼ド‼ド‼


 合計四本ものバリスタ弾が戦鬼獣に刺さると同時に爆ぜ散った。


 ダイアモンドオメガプラチナムDX2000は突起のついた皮膚を傷つけられ、生物のように悲鳴をあげる。


 「このまま行けるか?第二陣、構えろ‼」


 筑波の連隊長はここぞとばかりに追撃を命じる。後続の筑波は前列と入れ変わり、発射に備える。


 「ダイアモンド・ウォーターカッター、発射」


 Drヴァイパーがそう告げるとダイアモンド「オメガプラチナムDX2000の数多ある首の龍が口を開いた。そして口内から銀色の液体を凄まじい速度で発射した。


 ズドドドドッ‼


 蛇竜が首を横薙ぎすると、一瞬で横一列に並んでいた筑波が断ち切られた。


 「ッッ‼‼‼」


 上半身を失った友軍機の無残な姿を目の当たりにして馬場は絶句する。


 これには冷血漢と揶揄される長州もこの惨状を受け入れられず、戦慄を禁じ得ない。


 「なるほど、なるほど。FLPを液体化させて水鉄砲よろしく放出する、流石ですなあ。幻一郎さん」


 自衛隊陣営で浜口だけがいつものペースを崩さず現状を見守っていた。根っからの技術屋である彼にしてみれば自分の命でさえ、実験の対象でしかない。


 「長州さん。筑波を散開させてくれ。あの武器は連発出来ないのと動く標的に対して上手く命中させられないのが欠点だ」


 「総員、散らばれ‼早くしろ‼」


 長州は浜口に言われた通りに命令を下す。現場における感情に左右されない判断力と指揮能力の高さこそが長州の真骨頂でもあった。そして長州の命令を受けた筑波たちは二段構えの並列陣形から建物と指揮車両を守る陣形に移行する。


 「流石は浜口君。元職場の上司として鼻が高いよ。ところで鞍替えをするつもりはないかい?そっちはなにかと窮屈だろう?」


 通信を傍受してていたDrヴァイパーが浜口の的確なアドバイスを称賛する。


 「お褒めに預かり光栄の至りです、天龍先輩。御誘いは嬉しいのですが私は”正義のロボット側の偏屈博士”という立ち位置を希望していましてね。今の職場が気にっているんですよ」


 浜口は悪びれも無く言ってのけた。


 「残念な話だ。地上からまた一人、有能な科学者が消えるとは」


 「ははっ。それはまだ早いんじゃないかな?」


 ずおっ‼


 ライム色の燐光に黒い機体が突如としてダイアモンドオメガプラチナムDX2000の前に出現する。右手にはFLPでコーティングされた斧剣バルディッシュを携えていた。


 「よくもやってくれたな…。このっ…テロリスト野郎がッッ‼‼」


 馬場の怒号と共に箱根は武器を振り下ろした。ギンッ‼ダイアモンドオメガプラチナムDX2000の胸部に取り付けられた伸縮式マニュピュレーターがこれを受け止める。さらにバルカン砲の一斉射撃を箱根に浴びせた。


 「ほう。流石は浜口君だ。もうそこまで辿り着いていたか」


 「FLPによる電位操作は貴方の専売特許じゃない。チームの研究成果でしょうが」


 浜口は感情を押し殺した声でそう言った。二人の仲は研究チームにいた頃から主義・主張で衝突し、お世辞にも良好とは言えなかった。


 「生意気な」


 「よそ視すんな‼」


 箱根はバルカン砲を回避した後、側面からの強襲する。足部バーニアからライム色の煙が吹き上がる。重力の束縛から解き放たれたかのような動きは、FLPによるホバーダッシュによるものだった。


 「かはっ‼スコープドックかよ、コイツは‼」


 馬場はレバーと操縦桿を巧みに操作にしながあr全盛期のロボットアニメに登場したロボットの名前を口にする。さらにそれっぽく軸足を止めてターン。直後に連想式ボウガン型のガン・モジュールを発射した。


 「キシィッッ‼‼‼」


 ダイアモンドオメガプラチナムDX200はマニュピュレーターからレーザーを照射して即席シールドを作り上げる。


 バシュバシュバシュッ‼


 高速で打ち出されたFLPコーティングされた矢はかろうじて防がれてしまった。


 「硬いな。やはり某所特化型の戦鬼獣か…。馬場、一旦後退してくれ。FLP貯蔵タンクがゼロに近い」

 浜口に言われて馬場は景気を確認する。出撃前には満タンだったFLPが十分の一くらいまで減少していた。


 「おいっ‼俺が引っ込んでいる間はどうするんだ?見方は壊滅状態だぞ?」

 

 馬場は泡を食って怒鳴り散らす。根っからの体育系なので声量はケタ外れだ。


 浜口は不快そうな顔をしながら通信用ヘッドフォンを外した。


 「ヤツにとってうってつけの相手が来たから大丈夫だ。後、もう一つ言っておく」


 「なんだよ?」


 「スコープドッグは勘弁してくれ。どうせならブラッドサッカーか、ラピズリードックにしてくれ。以上だ」


 浜口の思わぬカミングアウトに馬場は口ごもってしまう。彼は絶対にアニメを見ないタイプだと思っていたからだ。


 「了解」


 馬場は回避行動を繰り返しながら遮蔽物の近くに止めてあるトレーラーのもとに帰還し

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