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怪奇現象解明クラブ  作者: 中村 海斗
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始まりの春



暗闇からゾッと伸びた何者かの手が掴まえたのは、私、門脇 鈴音の頭だった。

 当惑して力が抜けた鈴音の身体を、何者かが暗がりへ、暗がりへと引きずり混む。沼に引き込まれたような力が全身の自由を奪い、悪寒が走る。

 そうして眼前に現れたのは、鈴音の目を覗き込む何者かの瞳…。いや、この表現は間違いである。

何故なら鈴音は何者かの正体を知っている。


 その正体は…。





何者かとの遭遇まで、一週間と十五時間前。


「スズネ~!早くしないと遅刻するよ~!」


門脇 鈴音は都内の高校に通う普通の高校二年生だった。

背は160cmと程よく。容姿は良いはずなのだが今一つ垢抜けない。学校の成績は可もなく不可もなく。休日にはアルバイトに熱心に励み。週末には稼いだお金を友達との付き合いで使いきってしまう。

おかげで週明けの月曜日、いつも鈴音は憂鬱な気分で登校する羽目になってしまう。


「ちょっと待ってよ~!」鈴音は駆け足で校門を通り抜ける。

季節は春、桜の木に花弁が色付き出して、単色の校舎にも自然と色味が増しつつある。

鈴音がふと木々の梢に目線を送ると、ボヤッとした小さな人魂がそこに浮かんでいた。


あぁ…、まだ見えるんだ…、私。


何もかもが普通の高校生、門脇 鈴音には一つだけ取り柄がある。

それはほんの少しではあるが霊感があることであった。


鈴音が人魂を目で追いかけていると、昇降口で世話しなく手を振る女子高生が大きな声を張り上げた。


「スズネ!これ以上待てないよ!!」鈴音の友人である武田 冴は名前の通り気の強い女子高生だった。曲がったことを嫌い、クラス内で不和が起こると率先して仲裁役に入るしっかり者。鈴音とは中学で同じクラスになった頃からの友人であり、困ったことがあればなんだって相談に乗ってくれる姉のような存在であった。


「ごめん、冴ちゃんすぐ行く」鈴音が冴の下へと駆け寄ると、冴は「何見てたの?」そう言って、鈴音の顔を覗き込んだ。


猛ダッシュで昇降口に入った鈴音は息が上がり、頬は紅潮していた。それを見た冴は「へぇ、そういうことか…」訳知り顔で鈴音の背中を叩いた。


「え?なになに、私の顔に何か付いてる??」


「とぼけても無~駄。二階のオカルト部の部室、覗いてたんでしょ。学校1のイケメン篠崎 蛍、人気だもんね~」


まさか鈴音のタイプだったとは…。そう言いたげに冴は口笛を吹いた。


え…?私があの変人を…?


「勘違いだよ!冴ちゃん、私が心霊現象とか苦手なの知ってるでしょ?」


冴の言葉の意味をようやく理解した鈴音は懸命に弁解しようとするが、冴は聞く耳を持とうとしない。

篠崎 蛍は去年に転校してきた生徒である。転校してくるなり超常現象観測部、通称オカルト部を作るも、教師陣から活動が認められず、愛好会止まりの部活となっている。しかし、本人は気にせず放課後も、あるいは朝も早めに登校して活動しているらしい。

顔立ちが良いため、学校にファンが一定数いるらしいが、無愛想な態度と、取っつきにくい愛好会を率いているせいで、ファンが勝手に付いては離れてを繰り返しているようだ。


「いやいや、欠点も惚れたら愛らしさに変わるとか言うし、いつコクりに行くの?」


ダメだ、聞く耳を持たない。

てか、完全に楽しんでるよね…!?


そのとき、ちょうど朝の予鈴が学校に鳴り響いた。冴が「やばっ…」慌てた様子で駆け出していく。鈴音は弁解の機会を失い、少し膨れっ面になってあとに続いた。




後になって、鈴音は考えてみることがある。


あの時の冴ちゃんの取り違いがなければ、私達の未来はどうなっていたのだろう?

もしかすれば、あんな悲しい結末にはならなかったのではないのだろうか?


私達の出会いは偶然だった。そして、そこから先の運命は必然であった。

ありきたりな言葉で言えば、未来を変えるチャンスがあると、すればこの時が最後だったのであろう。

この時の私は知るよしもない。あの時、駆け出した一歩目が、これから先に体験する怪奇現象の引き返し不能点となるのだ…。


私はその第一歩を、今、踏み出した。

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