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3-17話小説家がやって来たその2

 時は1週間前まで遡る。恵一は学校からの帰り道、さんかく公園で一人の男性が3人の不良にリンチされている現場に出くわした。

(うわぁ、やだなぁ。やめてよこんなところで…隼人君ならここで見て見ぬふりをせずに助けに行くんだろうなぁ…よし!)

恵一は勇気を出して男性を助けることにした。

「あー!お巡りさん、こっちです!!喧嘩の現場はこっちです!」

「あぁん!?なん…お、お前、浅井恵一!…君。くそっ、行くぞ!」

不良達はよく見ると入学初日に恵一に絡んで来て隼人に保健室送りにされた3人だった。その3人が立ち去ると、その場にはリンチされていた男性と恵一だけが残される。

「あ、あの…大丈夫ですか?死んでないですよね…?」

恵一が恐る恐る声を掛けると、男性はムクリと起き上がった。

「フ、フフフ…いや助かったありがとう。思った以上にボコボコにされたんで困っていたんだ」

「一体何があったらリンチなんてされるんです?」

「ぼくは小説を書いているんだが、あ、小説と言ってもライトノベルだがね。その執筆活動の一環として、こうやって色々経験しているというわけさ」

「そ、それって…まさか…!」

「小説家全員が同じ考えではないと思うが、ぼくはジャンルを問わず面白い物語を書く為にはどんなことでも経験して、リアルな体験として知っておくべきだと思うんだ。たとえそれが複数人からリンチされる事でもね。彼らにはぼくからケンカを売った。結果として鼻血やら口の中を切ったりしたが、骨とか歯は無事だよ。歯って高いよなぁ〜、保険効かないからさ。ハハハ、これでまた初めての経験ができたぞ…!」

(この人頭がおかしいぞ!?明らかにヤバイよ!吉良会長よりももしかしたら…)

「なぁ君、腕っぷしに自信があるようには見えないが、不良3人を相手にぼくを助けに入るなんてなかなか勇気あるね。普通はこういう時は見て見ぬ振りをするものだが…気に入ったよ」

「はぁ…どうも」

「うん、君のような人物はきっと読者にも好かれるだろうな。自己紹介が遅れたね、ぼくは藤堂清虎。君を新作のネタにしたいんだ。取材させてくれないか?これから時間あるだろ?」

 恵一は目の前の人物の名前を聞いて固まった。

「どうした?」

「…えっ!!!?藤堂…清虎!?ってまさか、16歳の時にweb小説投稿サイトで有名になってその小説が書籍化、更に人気が出てコミカライズにアニメ化もした現在20歳の超人気作家のあの清虎先生ですか!?まさか本名でやってたなんて!」

「そうだよ。変わった名前だとよく言われる。…それより君、ぼくについて随分と詳しいね。ラノベとかよく読むの?」

「wikiに書いてあったんです。ラノベは特別良く読むって訳では無いですけど、先生の作品は全部読んでます!大ファンです!!あ、僕は浅井恵一って言います。清虎先生本人にこんな田舎街で会えるなんて感激だなぁ!この街には旅行かなにかで来られてるんですか?」

「浅井恵一…恵一君ね。まぁまぁ落ち着けよ恵一君。この街には旅行じゃなくて東京から越してきたんだ。新作の構想に行き詰まったんで環境を変えるために2ヶ月前にね。この街には元々5歳くらいまで住んでいたらしいんだが。しかしこの街は良いところだね。東京とは違って自然は沢山あるし、騒がしくないからいい環境で執筆出来そうだよ。…そろそろ取材に移らせてもらってもいいかな?」

「あ、すいません、つい興奮しちゃって。取材、お願いします

!」

「では早速…『メモリー・ドライブ』!!」

突然恵一の目の前に小さなロボットが現れ、一瞬にしてUSBメモリに変形。そして恵一の額に勢い良く突き刺さった。

「…え?うわあああぁ!!な、何なんですかこれは!?あなたは一体、何をしてるんですか!?」

「何って取材だよ。君の口ではなく、記憶に直接聞いているんだ。そのほうが手っ取り早いし、記憶は絶対に嘘をつかない。この街に来る前に興味本位で買った意味不明な“ディスク”で引き出された能力『メモリー・ドライブ』は100%のリアルな情報を教えてくれる!さぁ君の記憶を貰うぞ!恵一君!!君はどんどん記憶を失って、最期には自分が何者なのかも分からなくなるだろうが構わんだろう!?その記憶はこのぼくの手で傑作へと生まれ変われるんだからね!!」

恵一の額に突き刺さっていたメモリが抜けて、今度は清虎の額に刺さる。

「ひっ、ひえええぇぇ!!」

「うるさいな、ちょっと黙っててくれ。どれどれ…う〜む、中学までは特に変わったことのない平凡な人生を送ってきたようだな。…ん!?何だこれは!?高校に入学してからの記憶はこれまでとは全然違うぞ!こいつは1ヶ月と少しの間にものすごい体験をしている!!おいおい、この藤堂清虎以外にも同じような能力を持つものがこの街にはいるのか!?なになに…今川隼人の『エアマスター』に吉良明良の『マッド・クイーン』、前田侃士の『トリック・ハンド』…他にもある!こ、これは…面白い!!こいつの体験はこれまでに見てきたどんな人間の体験よりも面白い!!フフフ…ハハハハ!!やったぞ!ぼくは最高のネタを掴んだぞ!!やった〜!この街に引っ越してきて良かったな〜!間違いなく最高傑作を書けるぞ!!もっとだ、君の記憶をもっとくれ!!」

「う、うわ…うわあああぁ!!」

「ありがとう恵一君。今日の取材は終わったよ。また1週間後同じ時間にここで待っているから協力してくれると嬉しいな。ほら、お礼の代わりといっちゃなんだが、ジュースとサイン」

「…え!?あ、あれ?いつの間に…?あぁ、はい。ジュースとサインまで頂いちゃってありがとうございました!」

「これくらいお安い御用さ。それじゃあ、また来週よろしくね」

「はい!それじゃあ」

恵一は清虎に貰った直筆サイン色紙を大事そうに抱えて帰っていく。

「君は絶対に離さんぞ…恵一君!フフフ…」










僕は小説の為にリンチされたりは絶対に嫌です。

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