2-32話聖者の右腕その2
「『パーフェクト・ブルー』!!」
「グルルルル…!!フゥー!」
「確か…殴ったものを植物にする能力、だったな。想像しただけでも恐ろしい能力だ」
「やっと日々のくだらないストレスの大部分を占める原因に会えたんで、『パーフェクト・ブルー』もいつもより荒ぶってるな。他のやつのことはどうでもいいけど、宇喜多君を無理矢理能力者にしてその人生を目茶苦茶にした罪を償ってもらうぞ」
「宇喜多…あぁ、『ラッキー・ボーイ』を発現させたやつか。勘違いするな、私は彼に現状を乗り越えるきっかけを与えただけだ。彼がその力をどう使おうがあとは彼自身の責任だ。あれは彼が勝手に破滅しただけだろ」
「やかましい!!お前さえいなければ、宇喜多君は死ぬことはなかった!!」
「ウガアアアア!!」
蒼介の怒りに呼応するように『パーフェクト・ブルー』が松永に突撃していく。
「わからんやつだな。これ以上は言っても無駄か」
松永の右腕が蛇のように伸びて『パーフェクト・ブルー』に迫る。
「蒼ちゃん、いけない!!」
「バカが、これで君の存在も消え去るってわけだな」
「…お前のセリフは“バカが”ではなく、“バカな”だ」
「は?」
ただ無策に突撃していったように見えた『パーフェクト・ブルー』は迫る松永の右腕をいとも容易く躱した。
「さっきのような不意打ちならいざ知らず、そんな遅い攻撃が真正面から当たるとでも思ったのか?幼い頃から格闘術を無理矢理叩き込まれてきたこの僕の『パーフェクト・ブルー』に」
「なに!?…フフフ、だがそれが逆に命取り、このまま本体を狙わせてもらう!!」
松永の右腕が更に伸び、蒼介に迫るが、
「だから、遅いんだよ」
「ぅえ!?は、速い…!」
『パーフェクト・ブルー』は松永の右腕が蒼介を捉えるよりも速く自身の射程距離内まで潜り込んでいた。
「グルァアアア!!!」
「ごっふぁ!!!?」
ガラ空きの松永の腹部に右ショートアッパー一閃。松永の体がくの字に折れ曲がる。それだけに留まらず、『パーフェクト・ブルー』は松永の顔面や腹に体が浮き上がるほどの強烈な連打を叩き込んだ。
「ウガアアアア!!!」
「うぐああああ!!!」
吹き飛ばされた松永はステンドグラスに叩きつけられ、破片とともに力無く崩れ落ちた。
「阿呆が、つい最近ディスクで能力を引き出したばかりのお前が長年鍛えて経験を積んだ僕に勝てると思ったのか?練度が違うんだよ」
「…ば、バカな…!な!?わ、私の体が、ま、待ってくれ、う、うわあああぁ!!」
松永の体が急速に一本の松の木に変化していく。その松の木は古びた廃教会の天井を突き破るまでに成長した。
「やはりお前のセリフは“バカな”だったな…。そうだ!樹利亜さん!!」
蒼介は樹利亜のもとに駆け寄る。樹利亜の体は既に大部分が『セインツライト』の光に侵食されて胸から下は光に溶けて無くなっていた。
「…ついにやったわね、蒼ちゃん」
「そんなことより樹利亜さん、体が!『LOVEマシーン』で時間を巻き戻してください!!」
「松永も言ってたでしょ?いくら時間を巻き戻してもそこにアタシは居ないのよ。アタシの能力じゃ、消えた存在を戻すことは出来ない」
「そんな…そんなのって…!あまりにもあっけなさ過ぎる!まだ活躍だって殆してないのに!」
「…そんなに悲しい顔しないで。十二年前初めて出会ったときはこの世の全てに絶望した顔をしてたのに、そんなあなたがこんなに逞しく立派になって…その成長を見られただけでアタシは幸せだったわ。蒼ちゃん、聞いて。“ディスク”で凶悪な能力者を増やしていた元凶、松永は居なくなったけれど、まだ彼がばら撒いた“ディスク”は何処かの誰かが持っているはずよ。松永の手下だってアタシ達が倒した奴らの他にもまだいるかもしれない。アタシからの最後のお願いよ。これから先、どんな脅威が現れても、アタシの分までこの町を、植木町を護って…」
樹利亜の体は光となって消えた。
「…そんなの、言われなくたって、この町は僕が守りますよ。あなたの分まで」
−十二年後、S県I市−
「隼人君、荷物はこれで全部かい?」
「うん、あとは業者が持ってきてくれるってよ。今日はありがとう。蒼介おじさん」
「しかし、こんなに遠くに引っ越さなくたっていいだろうに…」
「俺のことを誰も知らない場所で自由に生活したいんだ!良いだろ?」
「まぁ、君のお母さん…義姉さんと慧次さんが良いって言ったんなら僕からは何も言わないよ。それじゃ、僕は両親の墓参りをして帰るから。たまにはこっちにも帰ってきなよ?」
「分かってるって。じゃあ今日はありがとう!」
蒼介はこれから甥っ子の隼人が住むアパートをあとにして両親の墓がある霊園へと車を走らせる。
「久しぶり。父さん、母さん。なかなか来られなくてごめんよ。甥っ子がこの街に引っ越すことになってね、その手伝いで久しぶりに来られたんだ。そうそう、引き継いだ喫茶店も少しずつお客さん戻って来たよ。コーヒー上手く淹れたりするのはまだ樹利亜さんには遠く及ばないけどね。それじゃ、また来るよ」
第二部《完》
第二部、完結です。ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
第三部へと続きます。




