2-23話裏切り者奮闘記その2
「六華、一緒に帰ろー」
「え、う、うん。い、いいよ」
放課後、茉希はつい最近クラスに編入してきた福島六華を誘って一緒に帰ることにした。二人が外に出ると空は雨雲に覆われており、もうすぐ雨が降り出しそうな天気だった。
「ヤバ、今日傘忘れたんだけど!」
「あ、あの…ボク折りたたみ持って来てるから、雨降ってきたら途中まで一緒、入る…?」
「マ!?めっちゃ入る!マジ神なんだけど☆」
話しているうちに雨が降り始めたので茉希は六華の傘に入り二人で帰路についた。
「そういやさ〜、そろそろ期末じゃん?あーし中間が赤点ばっかでさ〜、期末の結果次第では留年もワンチャンあるらしいんだよね〜。マジウケるよね」
「えっ…」
(ど、どどどどうしよう、全然笑えない…)
「でさ〜、親がもし期末で赤点取ったらバイト辞めさせるとか言ってんだよね〜、ありえなくない?だからさ六華、これから時間あったら勉強教えてくんない?今日はあーしバイト休みだし」
「う、うん…いいよ。今日はボクもお仕事休みだし」
「やったー!じゃああーしのバイト先に行こ」
二人は喫茶樹利亜に向かう。
「うわ〜マジかよ、降ってきやがった」
その頃丈志郎は伊弉波家の一人息子、隼人を保育園に迎えに行く途中で雨が降ってきたので、近くのコンビニで傘を買おうと急いでいた。そしてコンビニが見えてきたところで、足元の雨で濡れた路面を小さな何かが蠢いているのに気づいた。よく見るとそれは鮫の背ビレのようだった。丈志郎の二十七センチの靴で余裕で踏み潰せるサイズの鮫の背ビレが丈志郎の足元を円を描くように蠢いている。
「何だ!?よく分かんねぇがなにかヤバい!」
「ギャース!!」
(は、速い!)
足元を周っていた小さな鮫が飛び出し、丈志郎の腕に噛み付かんとする。丈志郎は咄嗟に躱すが、躱しきれずに服の袖を一部噛み千切られ、腕も浅く歯が抉っていった。
「ぐっ…!」
(くそ、この忙しい時に…!このままコンビニに行くのはまずい!)
丈志郎はコンビニをスルーしてそのまま鮫から距離を取ろうと走り出す。
「痛ぇなぁ畜生…!」
丈志郎はとにかく走る。その最中に何度か後ろを確認すると、男が一人丈志郎と付かず離れず一定の距離を保ってずっとついて来ているのが分かった。
(あいつが敵だな、そしてこの鮫はそんなに射程距離のない能力と見た。せいぜい二十メートルってとこか…それにあの男、あいつは知ってるぜ。俺に“ディスク”を売った男だ!名前は水野隆一!)
「ギャース!!」
再び路面から鮫達が飛び出し、丈志郎に襲いかかった。
「そう何度もくらうかよ、『ロック・スター』!!」
襲い来る鮫に鍵をナイフを投擲する要領で飛ばす。が、その鍵は鮫をすり抜けていく。鍵がすり抜けた鮫の体には波紋が広がっただけだった。
「な、なに!?まさかこの鮫自体が水なのか!?」
「その通り。お前のその能力『ロック・スター』は、どうやら水とか液体には効果がないようだな。そしてその事をお前自身も知らなかったと見える。いくら最近身につけたとは言え、自分の能力のことは把握してなきゃいかんよなぁ、加藤丈志郎君」
「やっぱりあんたか、水野さんよ」
「せっかく先生の“ディスク”をやったのにまさか恩を仇で返すとは、裏切り者は絶対に許せんよなぁ?おい、もう一人はどうした?確か子分みたいなのが居ただろ?今日は一人か」
「それで俺を狙ってたのか」
「いや、お前を狙ってたわけじゃない。たまたまお前がいただけだ。せっかく雨を待って伊弉波を殺ろうと思ってたのに、そこに裏切り者が現れたらほっとくわけにもいかんよなぁ」
「悪いが、オメー等よりも伊弉波家の方に俺は恩を感じてるんでね。それに“ディスク”代ならもう払ったし、お前は伊弉波家には行かせねぇ」
「ククク…笑わせるぜ。お前ごときがこの俺を倒すってのか?俺がわざわざ雨を待っていた理由もまだ勘づいてすらいないお前が?お前なんか伊弉波の前のウォーミングアップにしかなんねぇんだよ!だがライオンはウサギ一匹狩るのにも全力を尽くすという。俺も誰が相手だろうが油断しねぇ、油断せず堅実にお前を始末する。俺はこれ以上お前に近づかない」




