2-12話ラッキー・ボーイその7
「やっぱり君だったんだな。…信じたくはなかったが、僕の平穏を乱すなら相手が誰であろうと闘わなくてはならない」
「『ラッキー・ボーイ』の攻撃を受けながらここまで辿り着くとはな、お前は昔から勉強は授業を聞いてるだけで周りよりも出来たし、スポーツだって毎日部活で練習してる奴より出来た。その上顔も良いからめちゃくちゃモテたよな。まさに完璧って感じだった。だからお前がここまで来た時も驚くと同時にやっぱりなぁって思ったよ。だが俺だって負けられねぇんだよ。この距離まで近付けば『ラッキー・ボーイ』もフルパワーが出せる。蒼介、お前とはここで決着をつけるぜ!」
蒼介と宇喜多が対峙している後方では蒼介を尾行してきた茉希が様子を伺っていた。
「は?マ!?あの成金、蒼介の友達なんじゃないの?何で蒼介を攻撃してんの?…とにかくこれ以上蒼介を攻撃させるわけにはいかないよね」
茉希は指でフレームを作り、そこから宇喜多を覗き込む。
「見つかってない今なら遠距離から攻撃出来るあーしの能力『パッショネイト』で一方的にやれる。そういうことでしょ蒼介?だから助けてくれって言わなかったんでしょ?」
フレームを覗き込んだ茉希の視線がレーザーポインターのような光となって宇喜多を捉える。
「何だ?」
次の瞬間、宇喜多の体が急に発火し、たちまち炎に包まれる。
「うあああっ!!?な、何だぁ!?」
「やっぱりな。『ラッキー・ボーイ』を僕に取り憑かせている間は無防備になるようだな」
「うおあああ!!どうなってんだよこれは!?も、戻れ!『ラッキー・ボーイ』!!は、早くぅ!!」
「無茶イウナ!マスターノダメージハオレニモカエッテクルンダゼ!!ヤ、焼ケル…!!」
宇喜多は急いで蒼介に取り憑かせている『ラッキー・ボーイ』を自分の元まで戻そうとするが、宇喜多へのダメージは『ラッキー・ボーイ』も同じように受ける為、それどころではなかった。どんどん『ラッキー・ボーイ』の姿が薄れて消えていく。
「シ、死ヌ…!」
「うわあああ!!嘘だあぁ!!そう言うことは先言っとけよバカ野郎!!」
「…これでようやく解放された。このまま決めさせてもらうぞ、『パーフェクト・ブルー』!!」
「グルルルァ!!」
「うぇ、待っ、はぐぁあああぁ!!」
宇喜多は蒼介から飛び出した分身『パーフェクト・ブルー』に左拳で殴り飛ばされ、壁に打ち付けられる。
「う、くっ…え?うわああ!!何なんだよこれ!?俺の左手が、か、壁に!?」
宇喜多は左手を壁について立ち上がったが、左手が壁から離れない。左手の指が壁に深く根を張っていた。蒼介はゆっくりと近付く。
「ま、待て、蒼介!ほんの出来心だったんだ!こんな能力に目覚めたもんで、調子に乗ってたんだよ!!悪かったと思ってるんだよ!!」
「宇喜多君、安心しろよ。君のお陰でこの数日間頭がおかしくなりそうな日々を過ごしたけど、殺したりしないさ。僕は君のことをまだ友達だと思ってるんだよ。ただその能力をいつどこで誰に与えられたのか、然るべき所で全て話してもらう」
「…然るべき所って、警察、とか?」
「警察にはこの手の案件は手に余る。何処かはこれから嫌でも分かるよ。大丈夫、ちゃんと話してくれるなら悪いようにはしないさ」
蒼介は一瞬宇喜多から目を離し、何処かに電話をかける。少し会話をして通話を切り、再び宇喜多の方に向き直ると、宇喜多の様子がおかしいことに気付いた。
「宇喜多君?どうした?」
「がふっ…そ、蒼介…!」
宇喜多の口から大量の血が溢れ出し、膝から崩れ落ちた。彼の背中にはスティレットが深々と突き刺さり、それが急所を的確に刺し貫いていた。
「な、何!?宇喜多君!」
(今の一瞬で誰にも気付かれずにどうやって!?しかも宇喜多君は壁に背を向けていた!それなのに背中側から刺されている!)
「…そ…すけ…!」
蒼介が崩れ落ちた宇喜多を抱き起こすと、宇喜多は必死に壁を指さして何かを伝えようとしていたが、やがて力尽きた。
「…宇喜多君、おい!…うあああああ!!!」
蒼介の叫びに呼応するように『パーフェクト・ブルー』が壁に両拳の連打を叩き込む。壁は砕けるよりも速く植物へと姿を変え、『パーフェクト・ブルー』はそれを力任せに引き千切りながらかき分けていく。
「どこだ!出て来い卑怯者!!」
「ちょっと、蒼介どうしたし!?って、え!?」
ただならぬ様子の蒼介を心配して駆けつけた茉希も宇喜多を見て愕然とする。しばらくして黒塗りの高級車が駆けつけ、蒼介の義理の姉である凪と彼女の部下の真田が降りてきた。
「あ、お義姉さん、蒼介が!」
「ちょっと蒼介、やめなさい!!」
「うるさいな、どけ!!まだ近くに居るはずなんだ!!」
凪の静止も無視して蒼介は『パーフェクト・ブルー』を使って壁を殴り続ける。
「奥様、このままでは建物が持ちません!」
「分かってるわ。…いい加減にしろ、このバカ!!」
「うがっ…」
凪の拳が蒼介の顎を的確に捉える。蒼介は脳震盪を起こしてようやく大人しくなった。
「えぇ〜…」
「真田、回収班は?」
「既に呼んでおります。直に到着するかと」
「そう…この状況から見て、この宇喜多って男は口封じのために何者かに始末されたようね。まだ近くに居るかもしれないわ。油断しないで」
凪達が周囲を警戒している頃、宇喜多を始末した張本人は既に現場からは距離を取っていた。
「流石にあれだけ能力者が居ては分が悪い。…宇喜多の奴、やはり失敗したな。俺は最初からあんな奴信用していなかったんだ。先生は奴の能力をかなり買っていたようだが、この状況なら仕方ないだろう。先生には伊弉波共に始末されたと伝えよう」
回収班が現場に到着して宇喜多の遺体は回収されて、蒼介と茉希も凪と真田と共に喫茶樹利亜まで帰って来た。
「あら、蒼ちゃん凄い怪我してるじゃない!!すぐに手当てしないと!」
樹利亜の背後からロボットのような分身が飛び出し蒼介に触れた。蒼介の怪我が時間を巻き戻すようにみるみる消えていく。この分身の名前は『LOVEマシーン』。樹利亜の能力であり、触れた物の時間を数時間程度巻き戻す事ができる。直接怪我を治す訳では無いが、時間を巻き戻すことで怪我をする前の状態まで戻すことが出来る。
「…少し、一人にして下さい」
蒼介はフラフラとバックヤードに入っていった。
「蒼介…」
「無理もないわね。親友に殺されかけて、その親友が目の前で殺されたんだもの。アタシ達には想像もできないくらいショックを受けてるはずよ。それこそ、両親を亡くした時と同じくらいのショックをね」
「…立ち直れるかな?」
「今はそっとしておきましょ。大丈夫よ!蒼ちゃんにはまだアタシ達が居るんだから!」




