2-8話ラッキー・ボーイその3
蒼介に見送られて喫茶樹利亜を後にして暫く歩き、宇喜多は路地裏へと入る。
「はぁッ、はぁッ…」
(や、やった…取り憑かせてやったぞ『ラッキー・ボーイ』!畜生、震えが止まらねぇ…だが蒼介、お前が悪いんだ!お前が俺の漫画を褒めたりするから、大して才能もないくせに柄にもなく夢見ちまってこのザマさ。それから何をしても上手く行かねぇ…くそっ、お前ばっかり楽しそうな仲間に囲まれて幸せそうにしやがって…羨ましいぜ畜生!お前のせいで俺は一度地獄に落ちたんだ、今度は俺がお前を地獄に突き落としてやるぜ…!)
宇喜多が壁に寄りかかると、その壁から一人の男が姿を現す。
「どうやら、うまく行ったみたいだな」
「うぉっ!?…チッ、見てやがったのかよ」
「先生は信用しても俺はお前を信用できん。お前はあの伊弉波蒼介とは友人なのだろう?なら尚更だ」
「確かにあいつのことは親友だと思ってたよ。だが今は違う」
「…お前は特別に先生から“ディスク”を無償で与えられた。その恩を忘れるなよ」
「…わかってるよ、やりゃあいいんだろ?やりゃあよぉ!」
男は再び壁の中へ潜るように姿を消した。宇喜多は再び歩き出すが、すぐに路地裏に備え付けられた室外機に躓いてしまう。
「いてっ、所詮俺なんて『ラッキー・ボーイ』がなきゃこんなもんなのかよ。…くそっ、くそくそくそっ!!」
怒りに任せて室外機を蹴りまくってから路地裏から出たところでたまたま歩いてきた二人組の男にぶつかってしまう。
「いてーな、畜生…!」
宇喜多はそのまま立ち去ろうとしたが、二人組の男の内一人が宇喜多の肩を掴んで引き止めた。
「おい待てコラ、お前からぶつかって来といて一言もなしかよ?俺達になんか言うことあるよなぁ?なぁ!?」
(くそっ、とことんツイてねぇなぁ)
「…悪かったよ。それじゃあ」
「何だぁ!?その態度はよぉ!!」
男は宇喜多の態度に逆上し、宇喜多の顔面を殴り飛ばして路地裏へと押し込む。
「いってぇ…!」
「この成金がぁ!!ちょっと自分のほうが金持ってるからっていい気になりやがって、俺達は最近仕事はクビになるわ女には逃げられるわでムシャクシャしてんだよ!あんまりナメてっとマジで殺すぞコラ!!」
男は続けて宇喜多の腹に前蹴りを入れ、倒れたところを何度も蹴りつける。
「うぐっ、くそがぁ…!」
(こんな奴ら、『ラッキー・ボーイ』があれば…)
何度も蹴られる内にポケットの中の財布が転がり出る。それをもう一人の男が目ざとく見つける。
「おぉっと〜、財布発見〜!こいつ一丁前にエルメスだぜ。どれどれ…おぉっ、ラッキー!結構入ってるじゃんよぉ!」
「けっ、今日のところはこの財布で勘弁してやらぁ。このブランド物の財布も売って金に変えさせてもらうぜ」
男達は宇喜多の財布を奪って去っていく。
「ま、待て…!」
(危ねえ…!カードを財布と別にしといてよかった〜。ふん、まぁいい。あんな金、『ラッキー・ボーイ』の力があれば、一日とかからずに手に入る。その為には、蒼介の奴を始末しなけりゃな。その次はあのクズ共だぜ…!)
宇喜多が『ラッキー・ボーイ』の能力を手に入れたのは二週間ほど前。漫画家の夢を諦め就活をしていたがどこにも引っかからずに絶望し、もう何もかも投げ出してしまおうかと思っていた時、ふとある看板が目に入った。
“あなたのお悩み解決致します。”
その看板が示す建物は近くの今は使われていない古い教会だった。
「何だ?見るからに怪しいな。まぁどうでもいいか。なんだろうともう俺には失うものなんてないしな」
その教会に着くと、外観は碌に手入れされておらず、人が使っている気配があまり感じられない。構わずドアを開けると、やはり中は真っ暗で人の気配はない。宇喜多が帰ろうとした時、奥の部屋に続くドアが開き、燭台を持った祭服の男が一人姿を現した。
「ここに来たということは、何か悩んでいるんだね?」
「ここ暗すぎるよ。電気とかつけないのか?後俺クリスチャンじゃないんだけど」
「この蝋燭の炎の灯りが好きなんだ。悩みを打ち明けるのにクリスチャンかどうかは関係ないよ。さぁ、こっちにおいで。君の悩みを話してごらん」
宇喜多は男に導かれるままに奥の部屋に入った。




