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2-6話ラッキー・ボーイその1

 狼男による変死体事件から二週間、植木町には平穏ないつもの日常が戻った、筈だったのだが…。

早朝、蒼介はロードワークに出かけた。十四年前伊弉波家に引き取られ義姉の凪に無理矢理格闘術を叩き込まれた頃から今では立派なルーティーンになっている。

しかし、蒼介が外に出た途端、空には暗雲が垂れ込み、瞬く間にバケツをひっくり返したような豪雨となった。

「雨…天気予報では今日一日晴れだったのに…」

「ツイテネェナァ〜、蒼介クン?ヒヒヒ…」

「…」

耳元では昨日から突然蒼介に取り憑いた小さな人形のような何かが囁いてくるが、蒼介は構わずに走り始める。

「オイオイ、ヤメチマエヨ、コンナニフッテンダゼ?一日クライヤスンダッテナントモネェヨ」

「さっきからうるさいな、別に僕は鍛えるためだけに走り込んでるんじゃない。ルーティーンになってるんだ。続けるうちに生活のリズムの一部になってるから、休んでしまうとリズムが狂う。生活リズムが狂うってのはストレスなんだよ」

「…オ前サァ、生キテテ辛クナラナイノ、ソレ?オレガイウノモナンダケドサァ」

「ふん…」

豪雨の中、蒼介は走り続ける。途中何度もすれ違う車に水溜まりの水をかけられ、その度に小さな人形のような何かはからかってきたがそれは無視して柳川の河川敷まで辿り着いた。

「…フッ、フフフ…オラッ、オラァ!!アハハハハ!!」

河川敷に一本立っている柳の木に蒼介は一心不乱に何度も蹴りを撃ち込む。毎日のように蹴りを入れられ続けたのだろう、その木は一箇所だけ皮が剥げ、内側の木部が剥き出しになっていた。

「ナ、ナンナンダヨオ前!?クスリデモキメテンノカ!?」

「オラッ、どうだ!?このっ、このっ!!ハハハハッ!!」

「…!」

(コ、コイツ…ヤベェヨ、イカレテヤガル!サッキマデトハマルデ別人ダゾ、キュウニ悪魔デモノリウツッタミタイジャネェカヨ!!ヤロウ、ナンテヤツニオレヲトリツカセヤガルンダ!!)

その後も蒼介は暫く柳の木を蹴り続けたが、突然ピタリと蹴るのを止めた。

「ハハ、ハ…ふぅ〜、スッキリした。よし」

蒼介はロードワークを再開する。

(コ、コエ〜…!アタマオカシイゼ、コイツ)

「…ウ、ウギ…!」

「!?」

(ナンダ、キノセイカ…)

人形のような何かは蒼介が柳の木に背を向けた時、その木から呻き声が聞こえた気がした。

「おはようございます」

「おっは〜♡あら、まだつけてるの?それ」

ロードワークを終えてシャワーを浴びたら喫茶樹利亜の出勤時間だ。蒼介が出勤すると店長の樹利亜が既に仕込みを始めていた。「それ」とはずっと蒼介の肩にしがみついている人形のような何かのことだ。これは能力を持たない人間には見えないらしいが、蒼介や樹利亜といった能力者には見えるようだ。

「ナニミテンダヨ、コラ」

「こいつは能力でくっついてるんですよ?普通に引っ張ったって取れないですよ」

「どうにか敵能力者を探し出すしかないわねぇ…」

「よっすー☆あ!蒼介まだ変なのつけてる!」

茉希は勢い良く店内に入ってくると、そのまま蒼介に近付いてくる。

「…茉希ちゃん?」

「ダイジョブ、あーしに任せといて☆よっ!」

茉希はいきなり人形のような何かを掴み力任せに引っ張った。

「イ、イデデデ…!!」

「もうちょい…!」

「ぐあああっ!!茉希ちゃん、や、やめてくれぇ!!やめろォ!!」

突然蒼介が絶叫しながら苦しみ始めた。茉希は驚いて手を離す。

「ちょ、蒼介どうしたし!?大丈夫!?」

「ごめん、茉希ちゃん。まだ説明してなかったね…。こいつへのダメージはそのまま僕にも返ってくるんだ」

「え、それって…」

「フィ〜、イテテ…ナンテガサツナオンナダ…ダガコレデワカッタヨナァ?オレヲヒキハガスコトハダレニモデキナイ!オレヲヒキハガスッテコトハ蒼介ヲコロスッテコトナンダカラナァ!ヒヒヒッ!!パワーナンテナクタッテオレハ無敵ノ能力サ!イッエーイ!!」

「はぁ!?そんなんズルくね!?」

「大丈夫よちゃん茉希。こいつ自体は確かに無敵かも知れないけれど、能力者自身はそうはいかないわ。蒼ちゃんにとりつかせている今、敵能力者は無防備ってことよ」

「あ、そっか!」

「それにその能力者の正体も薄々分かっては居るんだ。問題はこいつが大人しくその能力者のところまで行かせてくれるかだけどね」

「え、もう分かってんの?さっすが蒼介!」

 時は昨日まで遡る。















蒼介はこれでも主人公です。

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