2-3話悪魔の子その3
翌日、喫茶樹利亜閉店後。蒼介は早速柳川周辺で起きている変死事件の調査に向かうことにした。
「蒼ちゃん、もう行くの?昼間も働いてたのに、無理しちゃ駄目よ?」
「この間にもこの町の誰かがまた襲われているかも知れないんです。放っておく方が無理ですよ。気になってストレス溜まるし。そもそも今日僕は休みだったんだけどな。どっかのおバカのせいで急遽出勤する羽目になったし、既に溜まったストレスをこの犯人で発散させてもらいますよ」
「ホントに今日は急にごめんね~。それにしてもあの子、連絡はしたんだけど…」
突然、店の出入口のドアベルが音を立て、扉が開いた。
「テンチョー、蒼介おつー。ちゃん茉希見参的な☆」
「ちょっと〜、ちゃん茉希駄目よ~、休むなら連絡してくれなきゃ。こっちからも連絡したでしょ〜?」
「いや、マジでごめんて、補習だったんだって。蒼介もおつー☆」
この高校の制服を着崩してバッチシメイクを決め、カラーコンタクトまで入れている明るい茶髪の見るからに“ギャル”という見た目の少女、彼女がこの喫茶樹利亜のもう一人のメンバー、バイトの武田茉希。見ての通りギャルである。
「…また無断欠勤だよ茉希ちゃん。何度も注意してるよね?それと目上の人には敬語を使いなさい」
「だからごめんて、てか蒼介もあーしのことちゃん茉希って呼べし。何度も言ってるっしょ?…でも蒼介のそんなところもしゅき…♡」
「…」
これである。
いつも思うのだが、「ちゃん茉希」と「茉希ちゃん」は「ちゃん」の順番以外に何が違うんだろうか。こんな事をずっと考えていても答えは出ないので蒼介は考えるのをやめた。
「じゃあ、今度こそ行ってきます」
「は〜い、いってらっしゃ~い♡」
「なになにー?どこ行くの蒼介?」
「遊びに行くんじゃない、仕事だよ。喫茶店じゃなく、もう一つのね。君がちゃんと仕事に来てくれれば、こんな時間から行かなくて済んだんだけどな」
「めっちゃ根に持ってんじゃん。仕方ないな〜、その仕事あーしが手伝ってあげる!」
「いや、遠慮しておくよ。それじゃあ」
「え、ちょ、待っ…行っちゃったし…ちぇ〜、蒼介ともっと一緒に居れると思ったのにな〜」
「ちゃん茉希せっかく来たんだし何か飲んでく?今日はケーキもあるわよ」
「え、マ!?ケーキまであるとかテンチョーマジ神!!うっれし〜☆ミルクティーくださーい!」
喫茶樹利亜を出てしばらく歩いて蒼介は柳川の河川敷までやって来た。時刻は二十一時を過ぎており、周りには誰も居ない。この辺りは警察が調べ尽くしており何もないだろうが、ふと喫茶店で勤務中に店内のテレビに映っていたサスペンスドラマで犯人は現場に戻ってくると言っていたのを思い出して他に手がかりもないしダメ元で来てみたのだ。
「やっぱり、何も無さそうだな。…ん?あれは…」
蒼介は河川敷の土手に一人呆然と座り込む老人を見つけた。
「…認知症患者か?はぁ…仕方ないな。さっさと交番に届けよう」
蒼介はその老人に近付く。
「おじいちゃん、どうしました?もしもーし」
「んぁ…?どちらさんでしょう?それより、腹が減って仕方が無いんだがの〜。わしの家はどっちだったかのぉ〜?あんちゃん、知らんかね?」
(…だめだこりゃあ、かなりキテるな。はぁ、早いとこ交番のお巡りさんに任せよう)
その老人は見た所八十代くらいで、足腰はしっかりしているが、頭のほうがかなりキテいるらしい。足腰がしっかりしている分、余計に厄介なタイプだ。
「おじいちゃん、一緒に帰りましょうね。ほら、しっかり立って」
「疲れちまってもう歩けんよ。おぶってくれんか?あんちゃん」
「…」
(このジジイ…!)
「…分かりましたよ。はい、乗って」
老人は蒼介の背におぶさる。蒼介は老人をおんぶして交番への道を歩きだした。
「いや〜、すまんの〜あんちゃん。しかし若いっていいねぇ~、力強いし、エネルギーに満ち溢れておるのぉ。羨ましいねぇ」
「…はぁ、どうも」
「…そんなにエネルギーに溢れとるなら、ちょっとばかし貰っても構わんよなぁ?あんちゃん?」
「は…?な、何!?」
蒼介が背後の老人を振り返ると、その老人の姿は狼男のそれであり、今にも蒼介の首筋に噛み付かんとしていた。




