2-1話悪魔の子その1
第二部、スタートです。
引き続きよろしくお願いします。
S県I市の神隠しから十四年、東京都郊外のとある町、植木町。周りが山に囲まれているとかそんなレベルではないけれど、都心と比べたらかなり静かで田舎な印象を受ける。そんな町の商店街にある喫茶店、喫茶樹利亜はコーヒーや料理の味はもちろん、それ以外にもある理由で有名な店だ。その理由とは…。
「マスター、オムライスとブレンドね」
「はぁ〜い♡かしこまりぃ〜♡」
その理由とは、客にマスターと呼ばれたこの男性である。名前はこの店の店名でもある樹利亜といい、見た目は喫茶店のマスターよりもプロレスラーと言われたほうが納得できる程筋骨隆々で大きな体格。制服のシャツもはち切れそうになっている。しかしその心は体格に似合わず乙女。所謂漢女、というやつだ。そのインパクトのある見た目とキャラクターで沢山の人から親しまれている。
「ルンルン〜♡…む?」
樹利亜は上機嫌で料理をしながらも店内の様子を常に見回している。子連れの主婦二人が座るテーブル席、その主婦の方は世間話に花を咲かせて楽しそうだが、子供の方はただ座っているだけなので、とても暇そうにしている。
「あら、いけないわ。蒼ちゃん、あのテーブルにこれ持っていくついでにいつもの頼めるかしら?」
樹利亜は二杯のコーヒーとサンドイッチの乗せられたトレーを従業員に手渡す。
「はい」
「お待たせしました。ブレンドとサンドイッチです」
「「どうも」」
((か、カッコいい…))
「…」
この店で働く従業員、名前は伊弉波蒼介。元々の苗字は毛利だが、幼い頃に両親を亡くし、数多くの事業を世界的に展開する一大企業、伊弉波グループの会長、伊弉波大和に養子として引き取られた。彼は容姿が人より優れており、学生時代には他校の生徒にも言い寄られた事もあるが、彼自身は人から注目されたりチヤホヤされるのがあまり好きではないので伊弉波グループの会長の養子ということも、女性にモテることも嬉しいと思ったことはない。むしろ少しストレスを感じている。
「…そうだ、坊やたち、暇ならこっち来てお兄さんと遊ばない?」
「うん、いいよ」
蒼介は子供たちを店の隅の空いたテーブル席に案内する。幸い今はあまり客がいないので問題はない。
「何して遊ぶの?」
「実は得意な手品があるんだ。見てみるかい?」
「「見る!」」
「それじゃあ、この紙ナプキンをよく見てて」
蒼介は両手に紙ナプキンを取り出す。子供たちはその紙ナプキンを穴が開くほどじっくりと見ている。
「いくよ」
蒼介の背後から凝視しても見えない程うっすらとした腕が伸びて、両手に持った紙ナプキンを素早く左拳で叩く。すると紙ナプキンはどんどん形を変えて、最後には真っ赤なバラに変化した。
「すげー!!何で!?」
「どうやったの!?」
子供たちは驚き、蒼介に詰め寄る。
「わからないのが手品だよ。ほら、どうぞ」
蒼介は子供たちにバラを手渡した。危なくないように棘のない品種にしてある。
「わー、ありがとう!」
「ねぇママ見て見て!」
子供たちは嬉しそうに母親にバラを見せて、親も子供につられて笑顔になる。蒼介は母親達の礼に軽く会釈して返した。
「うんうん、せっかくウチに来てくれたんだから、皆笑顔でなくっちゃね♡いつも助かるわ蒼ちゃん」
「いえ、僕にはこれくらいしか出来ないので」
蒼介も樹利亜の考えには同感だ。どうせなら客の嬉しそうな顔を見ていたほうが気分がいい。
店に設置されたテレビではニュースキャスターがニュースを読み上げている。
“続いてのニュースです。本日未明、東京都植木町の柳川で変死体が発見されました。首筋には動物のものと思われる噛み跡があり…”
「…このニュース、これで四件目だわ。それもこの町だけでよ」
「能力者の仕業、ですかね?」
今回の話の舞台は東京都です。東京には何年か前に一度行ったきりなのでリアリティに欠けるとは思いますが、ご了承下さい。




