14話オアシスその3
「ふぐっ、ごぼぼ…!!」
(ヤバい!口だけじゃなく鼻の中まで水が入り込んでくるぞ!)
慧次は水が侵入してこないよう手で塞ぐが、水はその僅かな隙間からどんどん侵入してくる。
「手で塞いだ程度で私の能力『オアシス』の水の侵入を止められるわけがないでしょう?」
「おい、いい加減にしろよ、そろそろキレるぞコラ!俺に用があるなら直接来いよ!」
屋上の床のコンクリートが二本の腕のように伸びクリスに襲い掛かるが、鞄から取り出したもう一本のペットボトルから射出された水がムチのようにしなり、コンクリートの腕をあっさりと切断した。切断された腕は元のコンクリートに戻っていく。
「なに!?バカな、コンクリートだぞ!」
「きゃー!!まさか勇太郎君も私と同じような能力に目覚めていたなんて、勇太郎君とお揃い…ウヒヒ…♡」
「こいつ、ヤバすぎる…!」
(慧次、今だ!)
勇太郎が慧次に目配せすると、慧次はそれに応え、自身の能力『ペーパー・ムーン』で高く跳び上がる。
「さて、勇太郎君、この私を見て何か思い出しませんか?」
「は?お前何言ってんだ?さっさと慧次を開放しろって言ってんだよ!」
「あ〜ダメダメダメダメ、それは勇太郎君次第です。私のことを思い出すことができれば開放してあげます。もっとも、早くしないとお友達が溺死してしまうかも知れませんが…あら?居ない」
クリスが慧次の方を振り向くと、そこに居たはずの慧次の姿が忽然と消えていた。
「いつの間に、まさか屋上から逃げた?…いや、それなら『オアシス』の射程外に出て水はこちらに戻って来るはず…戻せないということはまだ近くには居る!勇太郎君、あのアホ面はどうしたのです!?早く答えなさい!!」
クリスの頭上に影ができ、陽の光を遮った。
「影?…はっ、まさか!」
「やっと気づいたんかバカ。まぁ今更気づいても遅いけどな。この為に時間を稼がせてもらったんだよ」
クリスが影を辿って頭上を見上げると、変身ヒーローの必殺技よろしく、慧次のフライングドロップキックが炸裂した。
「がはっ!?きゅう…」
『ペーパー・ムーン』の能力で高く跳び上がったことによる落下速度を加えた蹴りを受けて、クリスは一撃で戦闘不能となり、慧次の呼吸を出来なくしていた水も『オアシス』の能力が切れ地面に落ちる。
「…っはぁ、はぁっ、ゲホッ、ゲホッ…!し、死ぬかと思った…非常事態だったとはいえ初めて女の子を本気で蹴っちまったよ…大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。気絶してるだけだ。それよりこいつ俺に何か思い出せとか言ってたな…慧次、こいつを保健室に連れて行ってくるわ。こんな事になったのも少しは俺にも責任があるしな」
勇太郎は気絶したクリスを背負って保健室に連れて行く。
(こいつ外見はめちゃくちゃ良いからな。こんな美味しい役目慧次にわたすわけねぇだろ。役得役得…あ、そう言えば前にもこんな事あったな。…そういう事か)
保健室に着いたら何か面倒なことを一々聞かれると思っていたが幸い保健室には他の生徒や養護教諭は居なかったので、そのままベッドに寝かせようとするがクリスは目を覚ましたのかしがみついて離れない。
「おい離れろよ!そういやお前のこと思い出したぜ。十年前もこうやってお前を背負って家まで送ってやったことがあったよな?お前家の近所に住んでたあの片桐クリスだろ?印象変わりすぎてて分かんなかったわ」
「…やっと思い出してくれたのですね!?そう、あの時はさんかく公園でバカカス共に髪の色や眼の色で虐められていた私を勇太郎君が助けてくれてこうやって家まで送ってくれたのです!その後すぐにイギリスに引っ越すことになってしまいましたが…その時にした約束も思い出してくれましたか?」
「…え」
「そうですか…まぁ良いです。こうして再開できたのは紛れもなく運命。既にあの時から父様と母様からはお墨付きは頂いているので、時間の問題ですから」
「ちょ、え!?何のこと!?」
「フフフ…♡」
「フフフじゃねぇよ!なんの約束をしたのか聞いてんだよ!」
この後クリスは直接慧次に謝罪したが、勇太郎との約束については結局教えてくれなかった。
「そう言えば、勇太郎君は何か部活動には所属しているのですか?」
「あぁ、オカルト同好会に」
「私も連れて行ってください!」
放課後、クリスを学校案内も兼ねてオカルト同好会の部室がある旧校舎に連れて行った。部室には既に伊弉波先輩と黒田が来ており、黒田が伊弉波先輩に飲み物を用意したり、なんだか召使いや子分のようになっていた。
「ちは〜」
「お疲れ様でーす」
「お疲れー、ってその子誰?」
「今日この学校に転校してきました、片桐クリスといいます。この部に入部しに来ました」
「「「「えっ!!?」」」」
「何を驚いているのです?勇太郎君が所属する部活動に所属するのは当然のことでしょう?」
「ちょっと慧次!あの子と勇太郎ってどういう関係?」
「詳しいことは知らないんですけど、なんか幼馴染みらしくて、片桐さんが勇太郎に好意を寄せてるらしく…」
「へぇ~、勇太郎がねぇ…」
「早く入部届を頂けませんか?」
「え、あぁ、うん。黒田君」
「あ、はい」
既にペンを手にしていたクリスは黒田が差し出した入部届に目にも止まらぬスピードでサインをした。
「あたしはこの部の部長で二年の伊弉波凪。で、こっちの冴えないメガネが二年の黒田士郎君。よろしくね、片桐さん」
「僕の扱い酷すぎませんか!?」
「黒田君みたいなのってこういうのが好きなんでしょ?」
「偏見が酷すぎる…あんまりだ…」
実はちょっと良いかもとか思っていたりする。
「きっしょ、近寄らないでくれますか?このクソメガネ」
「僕は一応先輩なんですけど!?」
「え、待って!部員が5人集まったってことは、正式に部活動として認められるって事じゃないのよ!!これでオカルト同好会存続確定よ!ラッキー!いっえーい!!」
クリスが入部したことで部員が5人となり、オカルト同好会も正式な部活動に昇格した。こうしてオカルト同好会は廃部の危機を免れたのだった。




