3-54話ハンドレッドその1
「お兄様、おでかけしましょうですわ!」
「え、俺はいいよ。今は特に欲しいものないし」
休日、惰眠を貪っていた隼人はアリスに叩き起こされた。
「ワタクシがお兄様とおでかけしたいんですわ!所謂デートをしたいんですわ!」
「デート」という単語を聞いて余計に行く気が失せた。アリスがいつもくっついているせいで最近ではクラスメイトにもロリコン疑惑をかけられているし、これ以上あらぬ疑いをかけられるようなことは避けたいところだ。
「俺眠いから無理…」
「ぐぬぬ…ふん、でも天才なワタクシはこの状態のお兄様を飛び起きさせる術も心得ていますわ!サヴェージ」
「ザメハ!!」
寝ている隼人の周りに喚び出されたサヴェージがベッドの脇に置かれていた虫刺され用の薬を手に取り、キャップを開けて隼人の目の周りに塗りたくった。
「うぎゃあああッ!!!!目がー!!し、染みるぁ!!」
「ヒャッハー!ザマァミヤガレバカメ!!ツギハハナダゼ!」
眠気は一瞬にして吹き飛び、隼人はベッドの上をのたうち回る。勝手に涙が溢れて止まらない。
「痛い痛い痛い!!なんてことしやがるんだ!!」
「さ、これで眠気は吹き飛びましたわね。早く着替えて身だしなみを整えてくださいな」
「それどころじゃねーわ!!」
この織田アリスという少女は、日を追うごとにバイオレンスさに拍車がかかってきている気がする。それと同時に、このまま一緒に住んでいたらそのうち本当に殺されてしまうのではないかと言う恐怖がどんどん膨らんでいく。
そんなこんなで隼人は未だ虫刺され用の薬が染みる目を瞬かせげんなりしながらアリスに連れられてショッピングモールに来た。アリスはそんな隼人とは対照的に隼人の手を無理矢理繋いでブンブン振りながらとってもご機嫌。
「お兄様とデート、デート〜ですわ〜♡」
「あぁはいはい…」
ご機嫌なアリスに引っ張られながらなんか合いの手みたいになったなと思いつつ適当に相づちをうつ。すれ違う人達が微笑ましそうに見てくるので居心地が悪い。
「今日の目的は…ここですわ!」
連れてこられたのはショッピングモール内にあるアパレルショップ。手頃な価格でおしゃれを楽しめると大変人気らしい。
「ワタクシに似合う夏服をお兄様には選んでいただきますわ!」
「え…」
そういえば聞いたことがある。女性のファッションに関する買い物は男が想像している十倍以上の長さだと。隼人の叔父、伊弉波蒼介はその昔、現在の妻と交際中買い物に付き合わされ、あまりの長さにストレスで発狂しそうになったらしい。それに女性はどっちの服が似合うか男に聞いた時、既に大体自分の中ではどちらにするか決まっていると言うので更に質が悪いらしい。
「なぁ、アリス。俺が選ぶのもいいけど、アリス自身が選んだ服で喜んでくれた方が嬉しいと思わないか?」
「…はっ、確かにですわ!」
「と言うことで俺は近くの本屋で時間潰してるから、買い物終わったら教えて」
店内へと駆け込んでいくアリスの背中を見送って、適当でも言ってみるもんだなと思いつつ隼人は逃げるように本屋へと向かう。
「…あの〜、大丈夫すか?どうかした?」
隼人は本屋へと向かう途中、通路の隅で壁にもたれて立ち尽くす同い年くらいの女子を見かけた。最初は気にもとめなかったけれど、待ち合わせするには微妙な場所だし、何より彼女がなんだか凄く落ち込んでいるように見えたので、お節介だとは思いつつ、放っておけずに声をかけてしまった。
「は?え、なに…別に大丈夫なので…痛っ!」
壁にもたれていた女子は隼人に気付くと、露骨に警戒して立ち去ろうとしたけれど、片足を押さえてその場にうずくまった。見るとその足首が少し赤く腫れている。どうやら捻ったようだ。
「…足痛むの?」
「別にあなたには関係無いでしょ。放っといてよ。今人待ってるから」
「ちょっと待ってて」
「は!?ちょっと…!」
女子が何か言っていたけれど、それを無視して隼人は薬局のコーナーで湿布と包帯を買って来た。
「ほらこれ。放っとくと悪化するかもしれないから」
「あなたまさか、どさくさに紛れて覗いたりとかするつもりじゃ…!近寄らないで変態!」
「しねーよそんなこと!…わかったよ、じゃあこれ置いてくから自分でやれよな。それじゃ」
隼人は湿布と包帯を渡して本屋へと向かった。
「…なによあいつ、名前聞くの忘れたじゃない」
名前は聞き忘れたけれど、その奇抜な頭はしっかりと脳裏に焼き付いていた。




