耳掻き召喚
とある並行世界。文明は現代地球とほぼ同じだが、この世界にはダンジョンが存在し、16歳以上の人間にはスキルが付与される。
戦闘に適したスキルを得た者はダンジョンに潜り、様々な資源を持ち帰る。そんな探索者は財を築く者も多く、若い男性が憧れる職業となっていた。
女性探索者も少数存在するが深く潜る場合の野営やダンジョン内での用足し事情から忌避される為、探索者になる女性は余程戦闘に有利なスキルを得た女性がなる程度であった。
「前橋、昨日スキル授かったよな。どんなスキルだった?」
ここは探索者を養成する総合高校。一年生では通常の高校と同じカリキュラムを学ぶが、二年生に進級時に探索者コースと普通コースに分けられる。
「探索には向かないスキルだったから、来年から普通コースに決定だよ。高崎とは分かれる事になるけど仕方ないな」
前橋の答えを聞いた高崎の表情が歪む。高崎は前橋と共にダンジョンを探索しようと約束していたが、それが叶わないと確定してしまったからだ。
「前橋は落ちこぼれ決定か。俺様のようなスキルの持ち主はそうそう居ないから、当然と言えば当然だがな」
「おい伊勢崎、いい加減にしろ!」
「へっ、本当の事を言って何が悪い。火魔法を授かった俺とヘボスキルの前橋では格が違うんだよ!」
戦闘系のスキルの中で魔法系のスキルは授かる確率は低い。そのため伊勢崎のように魔法系スキルを授かった者は総合高校においてはカースト上位者となる。
「こら、何を言い争っている。早く席につけ」
高崎と伊勢崎の争いは、教師が入ってきた事で終了したかのように見えた。しかし、伊勢崎は折角見つけた玩具で遊ぶ事を止めようとはしなかった。
「先生、前橋がスキルを授かりました。非戦闘系のようですし、後学の為どのようなスキルなのか実演してもらいたいと思います」
伊勢崎は前橋を晒し者にしようとしていた。役立たずなスキルを実演させ、笑い者にしようという下衆な考えである。
「確かに色々なスキルを体験するのは良い経験となるだろう。前橋、実演してもらえるか?」
「僕のスキルは召喚系で場所を取ります。それに代償も必要ですから・・・」
やりたくないという意志をオブラートに包んで伝える前橋。それを聞いた伊勢崎はほくそ笑む。
召喚系は武具やモンスターを召喚するので戦闘系に属する。なのに探索に向かないという事は、弱い雑魚を召喚するのが精一杯なのだろうと推測したのだ。
「先生、机を寄せて場所を作りましょう。前橋、代償って重い物なのか?」
「あ、いや、スキルを使った時間だけ動けなくなって場所を占領する事になるだけだけど・・・」
「それなら一時間目をスキル見学に変更しよう。前橋、手数だがスキルの実演と解説を頼む」
通常スキルの代償は戦闘の勝敗に影響するので秘匿するのが常なのだが、非戦闘系スキルの場合公開しても支障が無いので隠さない場合もある。
前橋は反射的にスキルについて答えてしまい、スキルを披露する羽目になってしまった。すぐに机が動かされ、教室の中央にスペースが作られた。
「えっと、僕のスキルは耳掻き召喚といって耳掻きとそれをしてくれる人を召喚します」
「ぶっ、耳掻き・・・」
「くだらねぇ」
前橋の説明を聞き、複数の生徒から嘲りの声がした。高崎は顔を顰め伊勢崎は侮蔑を隠さなかったが、当の前橋は気にする事無く説明を続ける。
「召喚すると僕は耳掻きをしてもらい、終わると同じ時間その場から動けなくなります。その間結界が展開され、何者も近付けなくなるので注意して下さい。では召喚します」
「結界張れるなら、ダンジョンで安地を作れるか?」
「耳掻きしてる間だけの安地じゃ使い道無いだろ」
周囲の声に耳を貸さず、淡々と召喚を進める前橋。召喚された者を見た生徒や教師は、驚きのあまり誰一人声を発する事が出来なかった。
「では耳掻きをしてもらいます。その間退屈だと思うけど、先生の要望なのて我慢して下さい」
そう言って召喚した者の太腿に頭を乗せる前橋。それを見る先生と生徒の耳には前橋の説明など聞こえていなかった。
「狐耳に狐尻尾の美人お姉さん、だとっ!」
「しかも巫女服って・・・ああっ、生の太腿に頭をっ!」
「たゆんたゆんが頭に当たって・・・前橋、そこ代われ!」
外野の声など聞こえていないかのように至福の表情で、爆乳狐巫女なお姉さんの耳掃除を受ける前橋。たっぷりと時間をかけた両耳の掃除が終了した。
「耳掃除は終了しました。これから代償を払う時間となります。代償は同じ時間だけ彼女を膝枕して、頭をなでてあげなくてはなりません」
説明しながら正座する前橋の太腿に頭を乗せる狐巫女さん。前橋が頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。
「そ、それのどこが代償だっ!」
「ご褒美以外の何物でもないだろっ!」
血の涙を流して叫ぶ生徒と教師。しかし前橋は我関せずと美少女の頭を撫でて柔らかそうな狐耳を揉む。
長いような短いような時が過ぎ、代償の時間が終わり狐巫女さんが消えていく。それと同時に結界も消え去った。
「これが僕のスキルです。戦闘にも向かないし、生産にも寄与しないスキルです」
自虐的な言葉とは裏腹に、誇るような口調の前橋。確かに役に立たないスキルである。だが、女子と縁遠い男子高校生や独身男性教師にとっては垂涎のスキルなのであった。
「前橋、頼む!スキルを見せてくれ!」
「僕のスキルは見世物ではありません。それにただ見るだけの何が楽しいんですか」
「男しか居ない学校では前橋のスキルが唯一の心のオアシスなんだ。頼む!」
その後前橋君は卒業するまでカーストトップの座に君臨し続け、非戦闘系スキルで学校に君臨した男と伝説を残していった。