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勇者パーティーはクビになりましたが、どうやらマスコットはやめられないようです!  作者: れんこんのきんぴら和風パスタ
第二章 替えの利く世界と代わりたくない少女たち
65/68

65 存在意義

 投げやりな投げかけから生まれた一つの答え。それは誰が相手であろうとも変わらず、どのような形を()していようとも変わらない、そう思っていたはずなのに……(みょう)気恥(きは)ずかしく感じてしまうのは、久しくその名を呼ばれていなかったからだろうか。それとも単に()()だからだろうか。

 少なくともその名を呼ばれる度に思い出す――まだら模様が原因でないことだけは確かだろう。


「好きに呼ぶといい」


 その日から私はクレアになった。


 ♦


 肌で感じる空気の乾き、一面に広がる砂の群れ。そこが初めて訪れる場所だとしても、誰もが砂漠だと理解できるほどに分かりやすく干上がった大地は、生物を寄せ付けないという意味で死地だった。

 そして漏れなく否定されては、その場に一時の潤いを与える深紅の液体。崩れ落ちた先でクレアとエヴァを見上げるのは、表面的には傷一つない牛頭(クロナ)だった。


「お前は――」

「だっ、だいじょうぶ、だからっ。エヴァっ」


 クレアに感情的に(つか)みかかっては、視線をきつくするエヴァ。制止されて(なお)、収まりがつかないと気持ちを優先させるその強硬的(きょうこうてき)な姿勢は、どこかそうせざるを得ない自分へのやり場のない怒りから生じる、八つ当たりのようでもあった。


「らしくないな。それにこういうのはむしろ、お前の専売特許(せんばいとっきょ)だったと思ったが」

「どっちが、だ」


 エヴァの(ひとみ)に映る中性的な顔立ち。クレアの背後で一まとめにされた肩につくほどの黒髪が風になびいては、その内側に対照的な白が(かす)かに見え(かく)れする。


「まあ……確かに、少しだけ浮ついていたのかもしれないな。柄にもなく気を利かせたのが――」

「うるさい」


 分かっていると目を()らすエヴァ。同時に手を離してはその場に(ひざ)をつき――それを不満げな目で追うクレアの前で――横たわるクロナの体をそっと抱き起こす。


「あ、ありがと……」

「調子は」

「いいわけないだろ」

「大事なことだ」

「まあまあ二人とも……でも今回ばかりは、流石にだめかと思ったよ」

「何?」


 言いながら膝を折るクレア。思わずと耳を(うたが)いたくなるようなクロナの発言に、自然とその容体(ようだい)を確かめようと手を伸ばしては、(すんで)の所でエヴァに(はじ)かれる。


「おい」

「冗談に決まってるだろ」

「そうは聞こえなかったが?」

「私のほうが付き合いが長い」

「お前というやつは……私と張り合って何の意味が――」

「クレア」

「何だ」

「ありがとう」


 面食らったように息をのむクレア。すぐに誤魔化(ごまか)すように頭をかいては、どこか気まずそうにため息をつく。


「心配して(そん)した」

「なら、なおさらありがとうだね」

「まったく……立てるか?」


 差し出しては、また横から(はら)いのけられるクレアの手。そこまでするかと、(かたく)ななエヴァと真っ向から対峙(たいじ)しては、不意に足下の砂地が鳴動(めいどう)を始める。


「お前の出番だ。ああ、専売特許と言った方が良かったか?」

「やれやれ……(たも)つべき体裁(ていさい)が無くなった途端(とたん)にこれか。()()()に、先が思いやられるな」


 皮肉めいた言い回しに浮かぶ二つの微笑。その間も絶えず強弱を行き来する地鳴りに、ふとクロナが何だろうと(つぶや)いては、いいから寝てろとクレアが立ち上がる。


「一応言っておくが――」

「私の両手はクロナで(ふさ)がっている、か? それなら精々(せいぜい)――」

「来たぞ」


 当たり前のようにクロナを担ぎ上げるエヴァ。線状に隆起(りゅうき)する砂地を肩を(すく)めるクレアと共に目で追っては、途切とぎれたと同時に、(そろ)って後方へと大きく飛び退()く。

 直後に下から押し上げられる大量の砂――ほんの一秒前の三人をその大口で飲み込んだのは、動物の(はらわた)をそのまま長大にしたかのような軟体だった。


「砂漠にミミズか……もう少し頑張ってもらいたいものだな」

「確かに」


 それはエヴァとクレア、(めず)しくも二人の意見が一致(いっち)した瞬間だった。


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