58 力の所在
整えられた景観、美しい街並み。利便性を追求しながらも決してそれだけではないと感じさせる遊び心は、正に公国という国を端的に表していた。
しかしそこにはもう、穏やかな日常もなければ、活気にあふれる喧騒もない。ただ溶けだした大地が地平線まで伸びては、周囲へと焼け付いた匂いを充満させる。
もはや勝者などいない。しかしと否定的な風が強く吹いては、音を立てて転がっていく権威の象徴――くすんだ金色の冠は、自然と少女の足下で動きを止めた。
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響いては連なる足音、薄闇に浮かぶいくつもの目。玉座に腰かける影は、固まって動く四人を歓迎するように見下ろす。
「久しいな」
四人が同時に足を止めては、ギラリと薄明りに反射する刃。先頭で目を光らせる男は、あくまでも警戒するように答える。
「何のつもりだ。クロイツェル」
「何……? クロナから私のことを聞いてきたんじゃないのか?」
「またクロナ……」
不意に男の背後でこぼされる女性の声。つばの広い帽子の下で、暗がりでも端整だと分かる女性の顔があからさまに歪む。
「まあ、いいさ。生きていればこうしてまた会うことも出来る。ただその口ぶり、お前らあいつと喧嘩でもしたのか?」
「くだらない。どこに行ってもクロナ、クロナ、クロナ……ねえ、流石に勘弁してほしいんだけど?」
「あいつは必要なくなったから切っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「面白いことをいうな。まさかあいつの特異性に、気づいていなかったわけでもあるまいに」
「特異性?」
男はふっと、鼻で笑う。
「異常性の間違いだろ」
「そこまで分かっていながら……そうだな。たまには悪くはないか。一つ聞こう。お前らはいつからただの人間になったんだ?」
「何が言いたい……」
「考えろ。あるいはあいつなら答えに導いてくれるかもな」
「お前はあいつを買いかぶり過ぎている」
「目を背けても仕方がないぞ。お前らが何かをしようとその力を振るえば振るうほど、あいつとの再会は近くなる」
「例えそうだとしても、再会するのは、あいつのほうだ」
「そうかな? まあ、あいつはどのような形であろうと気にしないだろうがな」
クロイツェルは一人で楽しそうに笑う。
「さて、悪いが話はここまでだ。クロナによろしく伝えておいてくれ」
「待て、まだ終わってない」
「終わりだ。徒党を組むなら相手は選べ。いくら腕が長くとも、同時に結べる手は二本と限られているのだからな」
「そんなことを言うために通したのか」
「そんなことでもなければ通さないさ。まあ、今回は様子見のつもりだったが……正解だったな」
クロイツェルが立ち上がっては、その場に幕引きを予感させる。
「考えなしもどうかと思うが、考えすぎも体に悪いぞ。お前はもっと……そうだな、自分に素直になった方がいい」
「チッ、高いところから憐れむなよ、魔族風情が……」
「そういうことを言っているわけではないんだがな」
「思えば、お前ともそれなりだが……今日でその腐れ縁も終わりにしてやる」
「やれやれ……」
クロイツェルは困ったように手を打ち鳴らす。
「いい練習相手だぞ。命が惜しくなければ挑んでみろ」




