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勇者パーティーはクビになりましたが、どうやらマスコットはやめられないようです!  作者: れんこんのきんぴら和風パスタ
夢見る少女は相容れない2
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56 跳ねる白

 なにも(おさ)めない箱を一体なんと呼称するべきか。形こそ神殿を()しながらも、そこには神官もおらず、あまつさえまつられる神もいない。

 ただ周囲に()け込む入れ物としては、そのありふれた外観は必要不可欠なものだった。


「陰気なところだな」


 暗がりに浮かぶ蝋燭(ろうそく)の火。ぼんやりと輪郭(りんかく)を得る無人の円卓に、不意に外側から手が伸びては、しわがれた男の声が反応する。


「その椅子に座るでない」

「俺の力が必要なんだろう?」


 (あお)るように椅子を(つか)んでは、しかしと返される沈黙。しばし根競べのような時間が続いては、盛大なため息が漏れる。


「やれやれ、お前らもまた俺を試すのか?」

「その必要はない。選ぶのも私ではない。ただ課された役目によってのみ、人はあるべき場所に振り分けられる」

「俺には随分(ずいぶん)と席が余ってるように見えるんだがな……その無謀(むぼう)な延命に付き合わされるのは、いつだって無垢(むく)な赤子ばかりだ」

「無駄な悪あがきと笑うがいい。だが現に椅子は限られている。他者を押しのけてでもそこに在りたいと願うのであれば――自らを天秤にかけろ」

「立場が違えばまた違う言葉が聞けるかと思ったが……変わらなかったな。悪いが俺は行かせてもらうぞ。競争相手を求めてるわけでもないんでね」


 蝋燭の火を揺らしては、静かに足音が遠のいていく。


「剣では開けぬ道もある。時には目を閉じ、己の――」

「己の足に耳を(かたむ)けろだろ? 生憎(あいにく)と俺にはそれ以外の道もあるんでね」


 鼻で笑う男の声は、すぐに暗闇へと溶けていった。


 ♦


 アリアーヌが王都を出立してから早数日。その手に一通の書簡(しょかん)(たずさ)えるクロナは、一人の女性と共に、避難民たちの居住区を歩いていた。


「レギーナ・スタルチュコフ……」


 クロナは差出人の名前を読み上げては、頭をかく。


「ええと……エカテリーナさん?」

「はい」

「エカテリーナさんは、その……いいんですか?」

「いいんですか? とは」

「その、ここにはしばらく預けると、そう書いてありますが……」

「はい。上からは余った人材の育成と、そう聞かされております」

「あ――余っただなんて、は、はは……」


 クロナは思わずといった様子で天を(あお)ぐ。そこにははっきりとしない一日の長さを視覚化するように、(いま)だ頂点を目指す陽の光があった。


「何か?」

「い、いえ……」


 あくまでも賓客(ひんきゃく)でありながら、個人(レギーナ)からの紹介というややこしい立場を持つエカテリーナ。当惑(とうわく)の果てに沈黙するクロナは、やがてそれしかないと手を鳴らす。


「そうだ! 王都! 王都ですよ、エカテリーナさん! 折角の機会ですし、案内しますよ!」

「その、言いにくいのですが、観光に来たわけではないので……」

「そ、そうですよね……」


 派手に空回りしては(くだ)け散るクロナ。ただそれでも意味はあったのか、見かねたように苦笑するエカテリーナは、それまでの堅苦しい空気を人知れず一変させる。


「食事の――よければ食事の支度でも手伝いましょうか」

「へ? あ、本当ですか? それは――あ、でも、その、刃物とか……手、怪我(けが)したりするかもしれませんし……」

「それならご心配なく。刃物の扱いには多少、心得がありますので」


 任せてくださいと、胸を張るエカテリーナ。そのどこか茶目っ気のある微笑に、クロナもまた自然と乗り気になる。


「そうですか? それならお願いしようかな……って、何かあったのかな」


 不意に人混みをかき分けては、近づいてくる小さなどよめき。見つけたと手を上げる潜水服(ネクロマンサー)にクロナが駆け出しては、すぐにエカテリーナもその後を追う。


「どうしたの? 何かあった?」

「く」


 エカテリーナをちらと見ては、短く答えるネクロマンサー。エカテリーナが簡単に名乗っては、クロナがネクロマンサーを紹介する。


「貴女が……」

「ナ」

「ああ、うん。ええと、帝国かな?」

「し」

「西?」

「く」

「く? く、く……ああ、エレーナ山脈」

「随分と特殊な……いえ、ネクロマンサーさんは王国の出身ではないのですか?」

「うーん、どうなんでしょう。僕は気にした事ないから……」


 当然とネクロマンサーも答えない。そういうことなら仕方ないと、エカテリーナはネクロマンサーを横から注視しては、特にそのうさ耳を興味深そうに(なが)める。


「た」

「た? 割れた? なんでまた……」

「ナ」

「うん?」

「く?」

「ええと、うん。あ――」

「行くと、そう言われたのですか?」


 言いながら何を思ったのか、ネクロマンサーのうさ耳へとそっと手を伸ばすエカテリーナ。寸前で()けられては、あっと、少しだけ間の抜けた声を上げる。


「……私も同行すれば問題ない。そうでしょう?」


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