51 風見鶏
「戦争は終結した――」
言ってしまえば、それはあっけのない幕切れだった。ただ帝国の決定に最後まで付き従う王の姿は、危機的なまでに王国がいかに受動的であるのかも示していた。
「しかし落とされた砦は依然として帝国に占拠されたまま、補給線を圧迫するだけの筈がまさかこんなことになるとはな」
やってくれたなと、エヴァは王城の一室から眼下に詰めかけた民衆を見下ろす。
「まあ本を正せば、お前たちも良かれと思ってやったことなのかもしれないが……」
エヴァがちらと振り返れば、すでに肩を落としている二人。立ったまま項垂れるクレマンとライナスは、まるで母親に叱られる子供のように元気がない。
「それが後々、相手の退路を断つことにつながるとは思わなかったのか?」
「それは……」
意を決してとクレマンは一度はエヴァに目を向けるも、その結果やはり無理だとまた次の瞬間には塞ぎこんでしまう。
「何だ。言いたいことがあるのなら言ってみろ」
「姉さん、これは僕の――」
「私が推し進めたことです。エヴァ殿下」
横からクレマンの声にかぶせるライナスは、そう早口に断言する。
「ですから、どうか責めるのであれば私を――」
「それは違います!」
目を見開いては、食ってかかるクレマン。そうして責任の押し付け合いならぬ、責任の負い合いが始まる。
「ライナスさん。私が責任者なのですから――」
「いいえ、私が言い出さなければ殿下も実行に移されることは――」
「だから!」
「なんで――」
二人の生真面目さゆえの平行線。それを始めこそ面白そうに眺めていたエヴァも、すぐに飽きては、窓辺でひとり風に当たりだす。
「まぁ、冗談だがな」
エヴァは自然と窓の外を見やる。上には澄んだ青が広がり、下では武器を忘れた兵士たちが景気よさそうに走り回っていた。
「まったく、ライナスさんも分からない人ですね! 私がこの件の責任者で! あなたは私の部下なんだから!」
「そういうことを言いますか殿下! なら私も言わせてもらいますけどね! この件は何があってもいいように、書類上は私の独断になっているんです! だから――」
「おい」
いつまでも熱心な二人を前に、エヴァは呆れた様子で目を向ける。
「何ですか殿下!」
「聞いてよ、姉さん!」
「いや、冗談だと言っただろう。聞いてなかったのか?」
「え?」
「へ――?」
揃って口を開けては、流れるように顔を見合わせるクレマンとライナス。そこに巨大な猛禽が窓から飛び込んできては、二人の間抜け面もすぐに真顔へと戻る。
「さて、どうなったかな」
部屋の中央に降り立っては、器用にも椅子を止まり木にする猛禽。その嘴で自らの脚に結ばれた紐をほどいては、小さな筒状の書簡をエヴァへと差し出す。
「ご苦労」
受け取っては、簡単に広げるエヴァ。鼻で笑っては、エヴァからクレマンへと書簡が渡る。
「お嬢さんによろしく……」
「一ついいか、クレマン。そのお嬢さんとやらは私のことか?」
「え? あ、いえ……あ」
しまったというように時が止まるクレマン。すかさずエヴァ殿下と矢面に立つライナスの姿は、まるで雛を守る親鳥のようでもあった。
「私の認識では殿下はすでにご成熟なされている筈ですが」
「この通り、二人でも揃えばそれなりなわけだが、連合国はどうかな」
「それは……」
「終戦だよ。元々亜人の解放に端を発した越境だ。現場の独断で始まり、現場の独断で終わったというだけのこと。政治が荒れるのはこれからだな」
「また姉さんは他人事みたいに……」
「王国に気にしている余裕はないからな。それよりも私は少し出る。あとは頼んだぞ、仲良し兄弟」
きょ――と、また顔を見合わせる二人をおいて、エヴァと猛禽はそれぞれの道へと戻るように部屋を後にした。




