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勇者パーティーはクビになりましたが、どうやらマスコットはやめられないようです!  作者: れんこんのきんぴら和風パスタ
夢見る少女は相容れない2
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47 馬頭サラブレッドの為来(しきたり)

 王国の第四王女サラ・ディ・トマソの浮かべた笑顔は崩れない。それは例え、帝国の皇帝ヴィルフリートを前にしていたとしてもだ。


「亜人とのつながりをち、再び野に放ってはくれませんか?」


 サラは通された謁見えっけんの間で片膝かたひざをつき、毅然きぜんとした態度でヴィルフリートへと進言する。


「使者もなしに現れたかと思えば……また妙なことを言う。だがいいだろう。王国の第四王女サラ・ディ・トマソ。この世の覇権たる帝国に、いまこの場で服従をちかうのであれば、その願い――かなえてやる」


 サラを見下ろしては、最上段に浮かぶヴィルフリートの悪戯いたずらな笑み。言葉の真意を疑わないサラは、一段と表情を明るくしては、嬉しそうに声を弾ませる。


「本当ですかっ?」

「ああ。本当だとも。お前が望むのであれば、今すぐにでも亜人たちの首輪を外し、代わりに新たなかせをお前たちにはめると誓おう。なあ? 何者でもない――ただのサラ・ディ・トマソよ」


 ヴィルフリートはいた結末をそこだけ早めるように、伸ばしたところで届きはしない手をあおるようにサラへと差し出す。


「手を取れ。サラ・ディ・トマソ。最早お前のようなかつての王族が生き残るにはそれしかない」

「え? あ、あのー……」


 サラは戸惑とまどいを隠さず、良く分からないと首をかしげる。


「私が帝国に服従を誓えば、亜人さんの首輪は外していただけるんですよね? それって、ええと……あなたの従者・・になるのとは、少し違う気がするんですけど……」

「何も違わないさ。故にひざまずき、う。お前は必然的に理解しているのだ。我こそが帝国であり、帝国とは現帝国皇帝ヴィルフリート・エム――」

「あの――! その、ヴィルフリートさん(・・)


 サラは唐突についた膝を床から離しては、それまでの堅苦かたくるしさを崩す。そして立ち上がるのとほぼ同時――怒声と共に詰め寄ろうとする男たちに反応して、サラの背後で控えていた従者、夢の国のサラブレッドが制止のいななきを上げる。


「大丈夫です。サラブレッドさん。そうですよね? ヴィルフリートさん?」


 ただよ不穏ふおんな空気。ヴィルフリートは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と鼻で笑い、何事も無かったかのようにサラとの会話を再開する。


「それでこそ王族というものよ。なあ? サラ・ディ・トマソよ。高貴さというものを理解できぬ者が多くて困る」

「いえ、それよりも言葉をさえぎってしまって申し訳ありません。ヴィルフリートさん」

「よい。一時のたわむれとしては十分に過ぎる。何よりその豪胆ごうたんさ……。気の変わらぬうちに、我の下へとこい。サラ・ディ・トマソよ」

「あの、もう一度だけ確認してもいいですか?」

「時に過剰かじょうな慎重さは、己の身をあやうくすると知れ?」

「えっと……その、私があなたの手を取れば、ヴィルフリートさん。帝国は、亜人との繋がりを断ってくれるんですよね?」

「そう言ったはずだ。サラ・ディ・トマソよ。お前はただ我の手を取るだけでいい。それですべては丸く収まるというもの」

「やった!」


 サラは無邪気むじゃきに笑う。


「これでお姉さまも喜んでくれると思います。さっそく私の見ている前で外してくれますか? その枷っ」


 ヴィルフリートはすぐにはこたえない。ただ無言で席を立ち、数人を引き連れては、最上段からサラの下へと降りてくる。


「お前が先だ。サラ・ディ・トマソ」


 ヴィルフリートを正面に、サラとサラブレッドを囲い込む人の壁。ヴィルフリートはそれまでの体裁を捨て、自ら歩み寄るようにその名を呼ぶ。


「サラ・ディ・トマソ。いや、サラ。悪いようにはせん。それがお前の最善だ」

「ええと、よくわかりません。その、ごめんなさい。ヴィルフリートさん」

「もう十分だろう? サラ。この状況下でよくぞ我の下へと辿り着いた。お前の役目は果たされたのだ。その肩の荷を下ろして我の下へとこい」


 ヴィルフリートはいたわるようにサラを見つめる。


「あの……勘違かんちがいしてませんか?」


 サラは相変わらず分からないとヴィルフリートを見返す。


「私は交渉に来たわけじゃありませんよ?」

「何……?」

「私はただ教えてあげに来たんです。亜人を、今すぐに(・・・・)解放しないと帝国がひどいことになるって」

「ハッ、ハハッ」


 ヴィルフリートは笑い、そして大げさに顔をゆがめる。


「それではまるでおどしではないか」

「そうですよ?」


 サラは笑顔のまま続ける。


「まだ思い出せませんか? その首輪と印が一体誰のものなのかを」


 ヴィルフリートとサラは見つめ合う。真っ向からぶつかる疑念ぎねんと親切心。先に視線をらしたのは、ヴィルフリートだった。


戯言ざれごとを」


 ヴィルフリートはてる。しかし崩れないサラの表情。その場の主導権を主張するように、ヴィルフリートはサラへと再び手を差し出す。


「手を取れ。サラ・ディ・トマソ。これがお前に残された最後の機会だ」

「最後ですか。では私からも――」


 サラはヴィルフリートの露骨ろこつな重圧にさらされながらも、一貫して我が道を行くように頭を下げる。


「お願いします。亜人から手を引いてください。それが出来るのはあなただけなんです。ヴィルフリートさん」

「頭を上げろ。サラ・ディ・トマソ」

「答えをまだ聞いていません」


 かたくななサラ。ヴィルフリートも負けじと出した手はおろさない。


「ではなぜ亜人のためにそうまでする」

「それがお姉さまの願いだからです」

傀儡くぐつめ……」


 言いながらもヴィルフリートの脳裏のうりに浮かぶ一人の女性。無視できない存在、エヴァ・クラーリ……。


「後悔するぞ」

「それがあなたの答えですか?」

「そうだ」


 一瞬の沈黙ちんもく。続く言葉がないと知ったサラは残念そうに顔を上げ、ヴィルフリートもそれを見て、手をおろす。


「そうですかっ」


 納得と同時にサラは仕方ないですねと、表情のないヴィルフリートに微笑ほほえみかける。


「流石は一国のおさ。きっと私もあなたと同じ立場だったとしたらそうしたでしょうね」

「おめに預かり光栄だよ。亡国の第四王女サラ・ディ・トマソ」

「王国は無くなりませんよ。お姉さまがその気にならない限りね」


 サラは流し目に吸い込まれるような笑みを浮かべては、それ以上の言葉はいらないとサラブレッドの首に手を回す。


「逃がすと思うか?」


 ヴィルフリートの号令に抜き放たれるやいば。抱き抱えられては、サラブレッドの胸元からそれを見届けるサラ。鏡面に映る曖昧あいまいな影は、嘲笑あざわらうように口角を上げる。


「ヴィルフリート・エムバース・エル・フェザー。また会えるといいですね?」

「サラ・ディ・トマソ。お前は姉にはなれない」


 視線で切り結ぶサラとヴィルフリート。不意に止まる両者の時間。静寂せいじゃくを破ったのは、ヴィルフリートだった。


「やれ」


 そして振り抜かれた刃は、一瞬でその標的を見失う。


「なっ――」


 遅れて謁見の間に吹き込む一陣の風。いつの間にか開け放たれている扉に気付いたヴィルフリートは、動揺少なくない臣下しんかを引き連れ、急かされるように謁見の間を後にする。


「気を見るにびん……何のつもりだ? エヴァ・クラーリ……」


 足早に廊下を突き進んでは、不意に揺れ始める床。咄嗟とっさに体勢をたもとうと手をついた窓辺で、ヴィルフリート以下数名は、その答えを目の当たりにする。


「これは――」


 湧き出る水に、噴き出す火柱。ヴィルフリートの眼下で、明らかに制御を失った帝都が音を立てて崩れていく。


「やってくれたなエヴァ・クラーリ。やってくれたなサラ・ディ・トマソ!」


 激しさを増す振動、耐え切れずひび割れる窓。飛び交う破片からヴィルフリートを引き離しては、かばうように臣下たちがおおいかぶさる。


陛下へいか!」

「陛下をお守りしろ!」


 亀裂の走る壁、臣下に守られては見据える天井。ヴィルフリートに許された僅かな視界の端で、終局を告げるいびつな線が残された余白を求めて伸びていく。

 再会の日は近い。ヴィルフリートは予感する。天井よりも先にを上げ始めた、床のきしみとそのもろさを背中に感じながら――。

 

「また会おうサラ・ディ・トマソ……」


 臣下の腕の中、瓦礫がれきと共に落ちていくヴィルフリートの声は、最早ヴィルフリート自身の耳にも届かなかった。


 ♦


「きれい……」


 王国の第四王女サラ・ディ・トマソは、サラブレッドの腕の中で恍惚こうこつの表情を浮かべる。


「でも本当はもっともっと、うまくやりたかったんだけどなぁ……」


 サラは完全に思い通りにとはいかない現実を前に、少しだけほおふくらませてはすねた振りをする。

 ただそれで何か変わるということもないのがサラブレッド。エヴァにして魔性と言わしめるようなサラの天真爛漫てんしんらんまんさも、いつもの嘶き一つでいなして見せる。


「むーっ」


 そればっかりと、益々(ますます)と頬を膨らませては、ぷいとそっぽを向くサラ。それでも変わらぬサラブレッドの横顔にジトっとした視線を突き刺しては、一時休戦と溜息を吐く。


「もっともっと、お姉さまの期待に応えられるよう頑張らなくっちゃ」


 前を向いては、またたきの中に消えていく二人。浮かぶ(・・・)帝都を背景に、そこには自然な微風だけが残った。


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